不可能犯罪捜査課/J.D.カー
The Department of Queer Complaints/J.D.Carr
1940年発表 宇野利泰訳 創元推理文庫118-01(東京創元社)
- 「新透明人間」
- 中心となるトリックは奇術を応用したもので、今となってはよく知られてしまっているでしょう。しかし、閉じられた(はずの)窓から銃弾が飛び出した謎を解決する手がかり(室温)はよくできています。また、“善意の目撃者”だったはずのロドマン氏の立場が逆転してしまうところも面白いと思います。
- 「空中の足跡」
- このトリックは長編『テニスコートの謎』でも可能性の一つとして言及されています。犯人の様子を想像するとかなりお間抜けですが、生垣の足跡という証拠を残してあるところはうまいと思います。
- 「ホット・マネー」
- 現代の日本ではセントラルヒーティングはあまり使われていないと思うので、なかなかイメージしにくいトリックです。最後のダジャレはどうでしょう?
- 「楽屋の死」
- 変装による替え玉はともかくとして、踊りが一瞬早く終わったことを手がかりとするのは、やや強引に感じられます。
- 「銀色のカーテン」
- 何といっても解決でイメージされる犯行時の映像が鮮やかです。被害者の奇妙な(直立以外の)姿勢による弾道のトリックは広く使われていると思いますが、この作品では被害者にしゃがみ込んだ姿勢をとらせる手段が秀逸です。
- 「暁の出来事」
- 死んでいるように見せかけたトリックはさておき、展開が面白いと思います。心臓麻痺かと思われたのが、水着のかぎ裂きから殺人の疑惑が生じ、さらに“死体”が消失。そして事件が解決されたかと思いきや、最後にオチがつくという、短い中でもめまぐるしい展開です。このあたりが、カーのストーリーテリングの冴えているところでしょう。
- 「もう一人の絞刑吏」
- エドがフレッドを殺した動機には説得力が感じられます。そして、保安官がエドに給料を払おうとするラストの不条理感は強烈です。
- 「二つの死」
- 不可解な現象を合理的に解体しつつ、ラストでは、あえて多くを語らないことで読者の想像力が刺激され、語り手の恐怖を共有することができるようになっていると思います。
- 「目に見えぬ凶器」
- いくら蝋燭が一つだけとはいえ、水中のガラスは屈折率の違いでわかるのではないでしょうか。もっとも、容器が細かい浮き彫りの施されたようなものとすれば、なかなか気がつかないと思いますが。
ちなみに、このトリックは、ラジオドラマ(以下伏せ字)(『ヴァンパイアの塔』収録の「プールのなかの竜」)(ここまで)で再利用されています。
- 「めくら頭巾」
- ウェイクロス夫人の死には合理的な説明がつけてありますが、だからこそ、ウィルクスに見殺しにされたその情景を想像すると恐ろしいものがあります。