○○年△月の日曜日の朝でした。Mという、高校時代の友人から電話が掛かってきました。

「今日ちょっとしたイベントがあるんだけど、参加してみない?」

 彼のことは勿論知っていましたが、高校を卒業してから会う機会はほとんどありませんでした。この時は、つい1週間程前に会ったのですが、その前はいつだったかさえ覚えていないくらい。そんな友人(というより知り合い)でした。面倒くさいと思った私は適当にあしらおうとしたのですが、

「別に用はないんだろ?行こうよ、行こうよ!」

結局は彼の執拗な誘いを断りきれず、渋谷で待ち合わせることになりました。

 昼過ぎに彼と待ち合わせたのですが、イベントまでまだ時間があるということで、二人で時間を潰していましたが、その時彼に

 「実際にどういうことをやるの?」

と尋ねてみても、彼は

「行けば分かることだから」
「話してしまうとイベントの意味が無くなる」

などと言って、話してくれませんでした。彼は怪しくないとは言っていましたが、だったら隠す必要なんて無いんじゃ?と思っていました。

 場所は、渋谷にあるメディオスの事務所の一室でした。既に私と同じように紹介者(恐らく第3段階をやっている人たち)に連れてこられた人が5〜6名ほどいました。
 まず最初にそのイベントに参加するため、セミナーネームなるものを考えることになりました。セミナーに参加する際にはその名前でお互いに呼び合うこととなります。程なくそのイベントなるものが始まりました。イベントは確か4種類ほどで、紹介者も一緒に参加しました。

覚えているものを紹介しておきます。

・ノミの話を聞く実習
 ノミは瓶に入れてフタをすると、最初はフタにぶつかるほどの跳躍をするが、次第に学習していき、蓋ギリギリの跳躍しかしなくなる。それからフタを開けると、また学習して徐々に跳躍が高くなっていき、最後には瓶の口から出ることが出来るようになる、という話をスタッフから聞かされ、その後にスタッフは我々をそのノミに見立て、

「あなたがたは、このノミのように、自分を無意識に瓶の中に閉じこめてはいないでしょうか?」

と言い、参加者1人1人に自分知らず知らずのウチに制限したりしているものの心当たりを言わせます。
 この実習にどのような効果があるのか、未だに分かりません。後で出てくる「越えるべき壁」というものを自覚させるためでしょうか?

・九つの点を四本の線で一筆書きに出来るかという問題を解く実習。
 スタッフは九つの点を正方形の形に配列された紙を一枚配りました。そして、九つの点を四本の線で一筆書きでつなげて下さい、と言いました。参加者があれこれ悩んでいる最中に、紹介者は

「頑張れ」とか
「どんどん書き込んでみなよ」

とかしきりに言うのですが、それ以外の言葉をあまり言いませんでした。な〜んか変な人たちだなあ、と思っていました。

・二人組になり相手のことを言い当てる実習。
 まず最初に二人で椅子に座りながら向かい合い(ほとんどが参加者と紹介者で組みます。また、全ての実習に関して、紹介者は自分が紹介した人とは組まないようにしています。)、お互いに相手の膝に手を置きます。早く置いた方の人から、相手のことを色々と推測して言ってみるというものでした。
 「兄弟の一番上」とか「さっぱりした性格」など、自然とその人の家族構成や性格などを言うことが多くなってしまうようでした。一人が言い終わると今度は逆、という感じでやっていたのですが、何の実習だかさっぱり覚えていませんし、分かりませんでした。

・二人組になり一番嬉しかったこと・悲しかったことを順番に話す実習。
 形式や話す順番の決め方は前述の実習と同じ。今回は自分の一番嬉しかったこと・悲しかったことを話します。私の相手は私の話を聞いている間、ずうっとニヤニヤしていて気持ち悪かったのを覚えています。本人は暖かく微笑みかけているつもりなのでしょうけど。

 一通りイベントが終わると、最後にベーシックセミナーの説明と勧誘が始まりました。セミナーの参加費用は7万5千円でした。そして参加者の周辺に紹介者が集まってきて、「どう?やってみない?」と勧めてきました。中には即断で参加する人もいましたが、お金の工面が難しく、あまり乗り気ではなかった私は断ろうとしました。しかし、Mもなんとか参加させようと食い下がり、その内に私の周囲には他の紹介者とかが集まってきて、私に参加を勧めます。

「(参加しないなんて)もったいないよ」
「お金ならなんとかなるって」

 結局そのスペースは他の用事で使うということで、一旦別の階に移動しました。

 移動した先の部屋で、Mにセミナーの卒業生達が作成したプロモーションビデオと、それを作るドキュメントビデオを見せられました。これにはMも参加していたらしく、ちらほらと写っていました。私はここで「みんなで一つのものを作り上げるっていう気持ちは分かるよ」と言ってしまったため、後でスタッフに勧誘される時にその事を言われ、自分で自分の首を絞めてしまいました。恐らく、ビデオを見せたのはスタッフに空いている時間がなかったため、その間の時間潰しでしょう。

 その後スタッフルームへ移動し、Mとスタッフの二人に勧誘されました。

私   :「お金も結構掛かるし、一度家に帰って考えたい」
スタッフ:「そうやって今まで逃げてきたんじゃない?ここで乗り越えなききゃ、一生変われないよ」
私   :「それにバイト先が人手足りなくて、忙しいから無理だよ」
スタッフ:「3日間休んであなたが新しい自分に生まれ変われるのだったら、店長さんも喜んでくれるんじゃない?」

 こちらが色々と理由を言っても、あの手この手で切り返してきます。紹介者のMにも、

「そうやっていつも逃げて、自分自身の壁を越えようとしなかったんじゃないのか?今がその越えるときなんだよ!」と力説されてしまいました。

 冗談じゃない。たかが初対面のスタッフ、たかが高校時代からそれほど交流もない奴に、私の何が分かるというのでしょう。それに一番最初に、「参加する・しないは個人の判断だ」なんて言っておいたくせに、断ろうとすると「もったいない」だの「逃げてる」だの言って執拗に参加を勧めてきます。個人の判断なんてあったもんじゃありません。

 今だからそう思うのですが、その時は二人の執拗な誘いと、「セミナー参加を決めさせるまでは絶対に帰させない」という異様なプレッシャーに負けてしまい、ついに参加することとなってしまいました。お金はメディオス側が紹介した学生ローンで借りることとなりました。

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