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番外編-6- **まで残り、1センチ |
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一旦停止した思考を再開する。
思い出はこの際どうでもいいだろう。過去は過去。それは現在に繋がる必要不可欠要素だが、今になって書き換える術はない。では、何を強引に「書き換えるか」。 「書き換える、ね。そういうお節介はドレイクの役目なんでしょうが、ここところ調子が出ないらしく、そういう面倒なものまでわたしに回って来る気が…」 酷く落ち込んだミナミに少し休むよう言い、青年がベッドルームに消えて、暫し。最早陽光も射さぬ、蒼く暗いリビングのソファに足を組んで座ったハルヴァイトは、背凭れに置いた片腕で頭を支え、苦笑を漏らした。 まぁいい。回って来たいものは勝手にすればいい。こちらも、関わり合わなければならないものには仕方がないので注意するが、どうでもいいものは無視するだけだ。 選択肢を増やす、改竄(かいざん)する、どうせだからクリアするか? と相当物騒なところまで考えてからハルヴァイトは、ふと形のいい眉を寄せた。 「…さすがに、今回は不確定要素が多過ぎる。事象そのものがイレギュラーで、データ不足も否めない。だとしたら…」 膝の上に置いていた左手を肩まで上げてまっすぐ伸ばす。その指先の更に先、何もない中空に、ぽ、と青緑色の炎が燃える。 「操作出来るのが定点だけというのは、いつもと同じ。ただし、その定点が極端に少ないのが、痛いといえば痛いな」 それにしても、まさかこんなものにまで手を出すようになろうとは、とハルヴァイトは嘆息するより先に吹き出しそうになったし、呆れた。 中空に腕を掲げたまま俯いて、ひとしきり笑う。 ばかばかしい。 でも、やるといったらやる。 こうなったらもう自棄(やけ)だ。なんでもかんでも完全に完璧に水も漏らさず草木も残さず、最凶最悪の名を欲しいまま徹底的に捻じ伏せて…。 「と、いう訳にも行かない「要素」が、ひとり居るな」 ふとそれに思い当たる。アレはどうあってもこちらの思惑通り動いてはくれないだろう。それならば、リアルタイムで後手に回るか。 「違うか…」 予想と予測はアテにならない。のは、良くも悪くも恋人だけだ。ならばアレの行動も、精度は落ちるが予測出来ない事もない。 「………クリア、ね」 ひとりごち、ハルヴァイトは指先を炙る青緑色の炎に視線を据えた。 どこまで何をするか、という基本に立ち返り、ハルヴァイトはあっさり決断する。 所詮当事者でないのだから、この方程式を恋人の望む通りに閉じる事は出来ないかもしれないが、それは別に構わなかった。この場合問題になるのは過程であって、結果ではない。 「最後にどうするか決めるのは当事者であって、わたしやミナミではないし」 まったくやる気のない声音でぽつりと呟いてから、ハルヴァイトが広げていた手を握り締めると、それまで無音のまま中空で揺らいでいた青緑がぱあと一瞬輝いて、消えた。 なんだ、それなら少しも悩む必要などないじゃないか、と悪魔は短い息を吐く。実は、これっぽっちも悩んでなどいないが。 ただ、悪魔は全てを捻じ伏せる。 天使のしあわせのために。 ついでに誰かがしあわせになってしまっても、ついでに誰かが不幸になってしまっても、まるで全く全然与り知りません、くらいの勢いで。 悪魔が望むのは、いつだって、天使のしあわせだけだ。 「一手目は、打った。後はただひたすら素知らぬ振りを決め込む。それでこの先どうなるのか、わたしはまた暫く外から内を眺めて、タイミングよく二手目を打てば…」 ふん、とつまらなそうに鼻を鳴らしたハルヴァイトは、組んだ足の上に両手を置いてゆったりとソファの背凭れに身体を預け直してから、その薄い唇で酷薄な弧を描いた。 「誰がどうなろうが何を思って行動しようがわたしの知った事ではないけれど、まぁ、ミナミが望むなら、いいだろう。 出来得る限り際限なく、誰も彼も
せいぜい、ミナミのためにしあわせになるがいい」
Next to be "technocrat sorcerer of Φlan" extra Z[ステールメイト] 2005/06/15(2005/06/28) goro
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