長野県更埴市森将軍塚古墳       古墳にどのように埴輪が配置されたかよくわかる。


古墳時代

@自分の発掘体験を語る

 私は教員採用三年目の時に山梨県埋蔵文化財センターに異動し、以後3年間毎日集落遺跡の発掘をしていた。私が担当したのは中部横断自動車道の櫛形・若草インターチェンジ建設予定地で発見された村前東A遺跡である。インターチェンジの建設予定地なので野球場のように広い発掘現場であった。そこで主に発掘されたのは古墳時代や平安時代の竪穴住居(集落跡)である。                             

  私はそのころ発掘の成果をいかに教育現場に還元できるか、毎日必死だった。発掘や整理作業の様々な体験をし、また、写真や映像をとりまくった。また埋蔵文化財センターの研究紀要に「山梨県内考古資料の教材化」という論文も書いた。

古墳時代の竪穴住居祉に寝そべって大きさがわかるようにした

  また、私は、NHK総合の「クローズアップ現代」という番組で「突然の遺跡発見」というテーマをした時に、建設現場での遺跡の発掘に人手が足りず教員まで発掘に回されているという内容でインタビューを受け、私の写っているインタビュー映像が全国ネットで放映されたことがある。そのときのビデオも録画してある。また、山梨県のローカル局からも遺跡が取材を受け、そこにも私が写っている映像がある。教員に復帰した前任校の最初の年度、学年主任から学年集会の折りに、発掘の経験でも話してくれ、ということだったので、クローズアップ現代の映像等を織り交ぜながら話をした。

 次のような話であった。

 私は知ってのとおり、この四月から君らとお付き合いしています。それまでは、なんと教員ではなく他の職業をやっていました。もともとは教員で就職しましたが、かつてほかの学校で教員をやったあと、3年間発掘の仕事をやっていました。ほかの職業についていたという経歴の教員もめずらしいんですよ。                                          今日は発掘していたときの話をします。もともと教員だったのに、学校を離れて発掘の仕事をするというのはある意味で寂しく大変でした。でも、よかったことは自分の発掘していた遺跡が取材をしょっちゅうされて、ぼく自身もその遺跡を発掘している調査員ということでよくテレビにでたことです。 どのような遺跡かというと、中巨摩郡櫛形町です。そこで、道路をつくろうとして工事をしていたら、遺跡が発見されました。工事中遺跡が見つかった場合工事を中止して発掘をしなけらばならないと法律で決まっています。今の発掘のほとんどはこんな風に工事をきっかけとしてされます。どんな遺跡かというと、今から1600年前くらいの古墳時代という時代の遺跡です。この時代はちょうど日本という国がつくられるころで、全国に古墳という地域の支配者の大きなお墓がたくさんつくられた時代です。その時代の村のあとです。当時の村人たちがどのような家に住んでいたかというと竪穴住居という地面を深く掘り抜いて、床や壁にした家です。その竪穴住居がぼくの発掘した遺跡から何十軒もでてきました。この住居は何千年も前の縄文時代からつくられはじめますが、山梨県では平安時代ころまで一般の庶民は暮らしていたようです。かんたんに作れる住居でかつ、地面に掘るので、夏や涼しく、冬は暖かいようです。

 口でしゃべっていてもしょうがないので、ビデオをみてみましょう。その遺跡が発見されたことを伝えるUTYのニュースで、そこに私も登場します。この遺跡の名前はその地名をとって村前東遺跡といいました。ここはとても大きな遺跡で発掘しおわるまで4年間かかっています。(ここでニュースのビデオ映像を流す)。今のニュースだけでは、よくわからないと思うので、もう一つケーブルテレビのニュースをみてみましょう(別のニュース映像をみせる)。

  さらに、私が個人的にとったビデオでどんな遺跡か紹介します。

  このような遺跡を掘っているとどういう心境になってくるかというと、人間の生活の原点をみているような気持ちになってきます。実にそぼくな家で生活していたんだなあ。この村のまわりには水田のあともみつかっていますが、村のまわりで田圃や畑を営み、野山をかけまわり生活していた。それに比べて、今まで自分のいた学校とかさらに現代の社会ってなんでこんなにあくせくと忙しいんだろう。

 問題はなぜ教員である私が3年間も教員を離れて発掘の仕事をしなければならないのか。それは、今、発掘の仕事が人手不足だからです。先ほど、工事をしていて遺跡がみつかったといいましたが、実は、それはまれなことでもたまたまなことでもなく、頻繁におこっていることなのです。工事をすれば、必ず遺跡にぶつかるといってもいいのです。なぜなら昔から人間はどこにでも住んでいたのです。そして、現代に人間が道路をつくったり、なにかをたてたがるような場所には、昔から人間が生活を営んでいたのです。それが何百年間の年月で地面に埋もれてしまいました。だから、工事をすれば必ず遺跡にぶつかる。工事の前に発掘調査をしなければなりません。工事現場の数だけ、遺跡があるといってもいいのです。今、現代社会は次々と開発やら工事が相次いでいます。どんどん遺跡が発掘されます。

遺跡が発見されるたびに工事は数年間とまります。だから急いで発掘をしなければなりません。

発掘をだれがやるかというと、県の組織に中道町の考古博物館の建物の中に埋蔵文化財センターというところがあります。ぼくも昨年度までそこの職員だったのです。また、市町村にも発掘担当者がいます。ところが、これだけでは、相次ぐ工事で発見される遺跡の発掘の人手が全然足りず、かといって発掘職員を財政難で増やすことができず、結局日本史や社会の教員をまわすということになっているのです。

 これは、問題だということで、なんとNHKが取材にきてインタビューされ、クローズアップ現代という番組でとりあげられました。この番組は、全国ネットの番組でその時期問題になっていることを詳細に取り上げて追求する大変おもしろい番組で視聴率も高いはずです。その番組で遺跡がみつかりすぎて、工事がストップする。さらに急いで発掘をさせるために教員まで派遣して発掘しているということを問題視してとりあげている。教員で派遣された人の声ということでインタビューされています。(クローズアップ現代の映像を流す)

このテレビが終わった直後、ぼくのうちに全国の知り合いから次々と電話がかかってきました。ぼくは静岡と大阪に知り合いがいるんですが、じゃんじゃん電話が鳴り響きさらには、県内にも見た人が大勢いてテレビにでてたでしょ、あげくその時の年賀状にテレビみてましたと書いてあったり、なかにはなんかの会合で初対面の人にあなたをどこかでみたことがあるが、それはもう大騒ぎ。

 なんか、遺跡の話か、自分がテレビに出た自慢話かわからなくなりましたが、

現代社会にはいろいろ問題があります。オゾン層破壊、環境破壊の問題、それとならんで重要な問題として文化財破壊の問題があります。遺跡は地中に埋もれている貴重な文化財です。それが、工事によってなかには、発掘もされずに破壊されています。工事関係者は遺跡がみつかっても工事をストップするのがいやだからだまったままで工事をしている人もいるようです。また、発掘をされても遺跡は結局こわされてしまいます。また、発掘しようにも人手がたりずに発掘や工事が滞っています。

現代社会にはさまざまな問題があります。その一つの問題をぼく自身の問題とからめてお教えしました。心の片隅にでもとどめておいてもらえれば幸いです。