アトピー性皮膚炎の第二選択治療について           サノ皮膚科クリニック

 

 はじめに…アトピー性皮膚炎は本来、大多数の皮膚科医に正しいと認知されているオーソドックスな治療法(①悪化因子の除去、②ステロイド外用剤、プロトピック軟膏、コレクチム軟膏、モイゼルト軟膏、保湿剤の外用、③抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤の内服)を第一選択治療とすべき病気ですが、第二選択治療としていろいろな治療が行われています。

 プロアクティブ療法…皮膚炎(湿疹)は皮膚に炎症が起こった状態です。従ってアトピー性皮膚炎の治療法は、ステロイド外用剤(アンテベート軟膏など)やタクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)で炎症を鎮めたのち、保湿剤などのスキンケアで再燃を防ぐことが中心になります。しかし、治療により一見正常になったように見える皮膚でも、実は炎症が残っています。この炎症の再燃を防ぐために、皮膚が正常に見えても、週2回程度ステロイド外用剤やプロトピック軟膏を外用するのがプロアクティブ療法です。特にプロトピック軟膏は、炎症のない本当に正常の皮膚には吸収されないため、副作用が少なく、プロアクティブ療法に向いていると考えられます。中等症から重症のアトピー性皮膚炎では、再燃を繰り返すたびに大量のステロイド外用剤を使うより、プロアクティブ療法により再燃を抑えた方が、ステロイド外用剤の総使用量が減るとされています。軽症のアトピー性皮膚炎では、保湿剤だけで再燃を防いでもよいと考えられます。これも広い意味でプロアクティブ療法です。プロアクティブ療法により再燃の頻度は減りますが、全く再燃しないわけではないので、再燃時にはステロイド外用剤やプロトピック軟膏を外用します。また、プロアクティブ療法を行っている間も保湿剤によるスキンケアは継続することが勧められます。

 紫外線治療…紫外線が皮膚の免疫力を抑えるため、アトピー性皮膚炎などの皮膚のアレルギーを抑える目的で行われます。しかし、紫外線には発癌性、皮膚老化促進、シミなどの副作用があるため、紫外線療法を実施する患者さんは限られます。narrow band UVB(ナローバンドUVBのパンフレット参照)という光線を照射します。1週間に1~数回の通院(もしくは入院して毎日照射)が必要です。また、アトピー性皮膚炎で全身に照射するには、大型の装置が必要で、保有している医療機関は限られます。当院には小型の照射器のみ置いていますので、部分照射になります。全身照射は東京医科歯科大学や順天堂練馬病院等への紹介になります。

 重症のアトピー性皮膚炎に対する強力な治療(別紙参照)・・・皮疹が重度で、ステロイド外用剤やプロトピック(タクロリムス)軟膏、コレクチム(デルゴシチニブ)軟膏、モイゼルト(ジファミラスト)軟膏の既存治療を長期間行っても十分な効果が得られない場合。効果も大きいが、副作用も大きい治療法があります。副作用の管理のため、病院での治療をお勧めします。当院では現在行っていないため、紹介となります。

ネオーラル(シクロスポリン)内服、オルミエント(バリシチニブ)内服、リンヴォック(ウパダシチニブ)内服、サイバインコ(アブロシチニブ)内服、デュピクセント(デュピルマブ)皮下注、ミチーガ(ネモリズマブ)皮下注、アドトラーザ(トラロキヌマブ)皮下注等があります。

 

参考文献 五十嵐敦之 WHATS NEW in臨床皮膚科学 アトピー性皮膚炎のproactive treatment

日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024           (202412月作成)

重症のアトピー性皮膚炎の治療について           サノ皮膚科クリニック

 

皮疹が重度で、ステロイド外用剤やプロトピック(タクロリムス)軟膏、コレクチム(デルゴシチニブ)軟膏、モイゼルト(ジファミラスト)軟膏の既存治療を長期間行っても十分な効果が得られない場合。効果も大きいが、副作用も大きい治療法があります。副作用の管理のため、病院での治療をお勧めします。当院では現在行っていないため、紹介となります。

以下に、その治療薬を示します。

推奨度は1が強い推奨、2が弱い推奨です。エビデンスレベルは確かな証拠があるのがA(高い)、不十分な証拠があるのがB(低い)、証拠がないのがC(とても低い)です。

ネオーラル(シクロスポリン)内服・・・16歳以上で、既存治療で十分な効果が得られない患者さんに試してみてもよい治療です。推奨度2,エビデンスレベルA.使用中は腎障害や高血圧、感染症等に注意し、血中濃度を測定します。

オルミエント(バリシチニブ)内服・・外用療法で、皮疹が良好にならない中等症から重症の患者さんに勧められます。推奨度1,エビデンスレベルA経験の多い皮膚科医がいて、定期的に結核、肝炎、腎機能、貧血等の検査が行える施設しか使用できません。

リンヴォック(ウパダシチニブ)内服・・・外用療法で、皮疹が良好にならない12歳以上の、中等症から重症の患者さんに勧められます。推奨度1,エビデンスレベルA。副作用として感染症、帯状疱疹、にきびに注意する必要があります。施設はオルミエントと同様ですが、特にアトピー性皮膚炎に精通する医師という基準が加わります。

サイバインコ(アブロシチニブ)内服・・・外用療法で、皮疹が良好にならない中等症から重症の12歳以上の患者さんに勧められます。推奨度1,エビデンスレベルA。副作用として感染症、帯状疱疹、にきび、血小板減少に注意する必要があります。施設はオルミエントと同様です

デュピクセント(デュピルマブ)皮下注・・・外用療法で、皮疹が良好にならない中等症から重症の生後6ヶ月以上の患者さん(IGAスコア3以上、EASIスコア16以上、体表面積10%以上の皮疹)に勧められます。推奨度1,エビデンスレベルA。副作用は結膜炎に注意する必要があります。施設はアトピー性皮膚炎に精通した医師がいること。病院の専門性のある医師と連携できること。

ミチーガ(ネモリズマブ)皮下注・・・外用療法及び抗ヒスタミン剤でかゆみが抑えられない、13歳以上の患者さん(そう痒VAS50以上又はそう痒NRS5以上、かゆみスコア3以上、EASIスコア10以上)に勧められます。推奨度1,エビデンスレベルA。かゆみを押さえる効果の高い薬です。副作用は感染症、皮膚症状の悪化、上気道炎等です。施設はアトピー性皮膚炎に精通した医師がいること。病院の専門性のある医師と連携できること。

アドトラーザ(トラロキヌマブ)皮下注・・・外用療法で、皮疹が良好にならない中等症から重症の成人の患者さん(IGAスコア3以上、EASIスコア16以上、体表面積10%以上の皮疹)に勧められます。推奨度1,エビデンスレベルA。副作用は結膜炎に注意する必要があります。施設はアトピー性皮膚炎に精通した医師がいること。病院の専門性のある医師と連携できること。

参考文献 日本皮膚科学会アトピー性皮膚炎診療ガイドライン   (202412月作成)