水虫を防ぐには        足白癬の感染経路と予防法Q&A             佐野隆夫

 はじめに
 水虫はどこでうつるのか、どうしたらうつるのを防げるのかなどを、患者さんからのよくある質問に答えるかたちで解説しました。なお、回答の中の実験は、主として東京医科歯科大学皮膚科学教室の研究グループの真菌班(班長加藤卓朗)が行ったものです。

 Q&A
 
 Q 水虫はさわるとうつるのですか。

 A 通常さわったぐらいではうつりません。
  水虫は白癬(はくせん)という病気で、水虫菌は白癬菌というカビです。
 通常、以下のようにうつります。
 
 患者さんの足などの病変部から菌が落ちる
 ↓
 畳や床やバスマットやスリッパなどの環境中に菌が付着する
 ↓
 水虫のない人がその菌を踏み、足に付着する
 ↓
 付着したまま長時間落ちないと皮膚に根を生やし水虫を発症する
 
 ただし、ネコやモルモットなどの動物の白癬は菌の量が非常に多いので、さわっただけでもうつることがあります。また、柔道やレスリングを行っている人にはやっている特殊な白癬菌は競技中にうつることがあります。これらは通常足ではなく、頭や顔や腕などにうつります。

 
 Q 家族に水虫をうつしたくありません。バスマットを別にすればいいでしょうか。

 A バスマットだけ別にしても、効果は十分ではありません。
 無治療の足白癬患者さん家庭を訪問して、白癬菌の有無を調べた実験では、床、畳、布団、浴室の床のタイル、バスマット、トイレのスリッパなど、調べたところすべてに菌がいました。従って、家族に白癬をうつしたくなければ、患者さんが治療を始めるのが一番と思われます。
 

 Q 家の中で靴下をはいていれば水虫はうつしませんか。

 A 水虫の菌は靴下の網目より小さいので、効果は十分ではありません。
 靴下などをはいて、菌の撒布状況を調べる実験では、ストッキングでは網の目が粗いので、はいていてもほとんど効果がありませんでした。綿の靴下もあまり効果がありません。足袋では布の目が細かいのでかなり効果があり、靴では完全に防げました。従って、靴を脱いであがる日本の住居では菌の家庭内への撒布は避けられないと思われます。
 

 Q 外出先ではどのようなところに、白癬菌がいますか。

 A 多くの人が靴を脱ぐ場所では、白癬菌がいます。
  我々が実際に訪れて調査した結果では、公衆浴場、日本旅館の風呂場、健康ランドの風呂場、公共のプールやホテルのプール、病院の体重計やマットやスリッパ、居酒屋などに白癬菌がいました。
 

 Q 水虫をうつされないためには、どうすればよいですか

 A よく足を洗えばうつされないで済みます。特に、ゆびの間は菌が落ちにくいので、よく洗う必要があります。
 患者さんにバスマットを踏んでもらい、そのあとに私がマットを踏むと、多数の菌が私の足に付着しました。しかし、その後石鹸でよく足を洗ったところ、すべての菌が消失しました。
 また、菌がひとの足に根を生やすのは通常1〜2日かかりますので、感染機会があった日にお風呂でよく足を洗えば、まずうつされないと思います。ただし高温多湿では、感染が早くおこるので、密閉された靴をはく場合、なるべく早く足を洗いましょう。
 また、私の足に菌が付着したあとに、足を洗わずに、水虫の薬を塗ったところ培地に菌が生えませんでした。このことから、水虫の薬を塗るのも、予防として有効と思われます。しかしこれは感染機会があるごとに水虫の薬を持ち歩かなければならないので、あまり現実的ではありません。
 また、菌が付着した後、足を濡れたタオルで拭いても、菌が減少しました。
 さらには、菌が付着した後、裸足で歩きまわっただけでも菌は減少しました。
 ちなみに、私はあちこちのプールに行ったり、患者さんの踏んだバスマットを踏む実験をさんざん行いましたが、家に帰ってよく足を洗うことで、うつされずに済んでいます。
 

 Q 治療をすれば家の中の白癬菌はいなくなりますか。

 A いなくなります。
 ネコの白癬を全身にうつされた患者さんの家の掃除機のホコリを、毎月持ってきてもらって、菌を分離しました。患者がよく行く実家では3か月で菌は0に、ネコのいる患者宅では4か月でほぼ0になりました。人間の白癬でも同様と考えられます。
 

 Q 家の掃除はどのようにすればよいでしょうか

 A 通常の掃除で十分と思われます。
 前述の通り、通常の掃除でも、掃除機のホコリの中の菌は、治療とともに減少します。

 
 Q 靴は新しいものにしなければいけませんか。

 A 靴を買い替える必要はありません。しかし、2足の靴を1日おきにはくとよいでしょう。
 足白癬患者さんに、新品のスリッパや長靴をはいてもらうと、直後にはたくさんの菌がいます。しかし、そのまま置いておき、毎週、菌を調べるとだんだん減っていきます。従って、靴を買い替える必要はありません。ただし、雑巾で靴の中を拭くだけでも、菌量は減少しますので、拭いてみましょう。また、1日おきに履くと靴の中の湿度も下がると思われるので、より良いでしょう。
 
 おわりに
 爪白癬、かかとの白癬などは、重症の白癬ですが、自覚症状がほとんどないため、無治療で放置している人がたくさんいます。従って、その人たちがまき散らす白癬菌を踏んで、足に付着するのは避けられません。足(とくにゆびの間)を良く洗って、感染を防ぎましょう。
 足白癬そのもので、入院することはまずありませんが、足白癬から細菌が入り足が腫れあがって入院する人はたくさんいます。運悪く足白癬にかかってしまったら、自分のため、家族のため、世間のため、なるべく早く治しましょう。

参考文献

1)加藤卓朗:白癬の感染経路.皮膚病診療 22:608-613,2000.
2) Sano T, Katoh T, Nishioka K: Culuring Dermatophytes Rapidly from Each Toe Web by Fingertip. JD 32:102-107, 2005.
3) 佐野隆夫、谷口裕子、横関博雄、加藤卓朗、西岡 清:住環境内の各種材質における白癬菌の散布と足底, 趾間への付着および除菌効果の実験的検討.日皮会誌 115:1315-1319,2005.
4) 佐野隆夫:新しい培養法を用いた白癬の研究.お茶の水医学雑誌 53:111-118,2005.
5)佐野隆夫、森田恭一、加藤卓朗、香川三郎:M.canis による体部白癬のT例.皮膚臨床 32:605-608,1990.