水虫について サノ皮膚科クリニック
水虫の治療
1)水虫の治療は根気よく続けることが一番のポイントです。完全に治すのには、ふつうの水虫で最低3か月、重症の水虫では1年以上もかかります。
2)定期的に診察を受け、医師がやめてよいと言うまで治療を続けましょう。かゆみが消え、自覚症状がなくなっても、水虫が治ったのではなく、一時的に水虫が休んだ状態にある場合が多いからです。ここで治療をやめると、また再発します。
3)外用薬は1日1回塗りのものは、入浴後(入浴後が薬が良くしみこむため)に、広めに十分の量を塗ります。入浴しない日は寝る前に塗ります。薬は5分間位ていねいにすりこむようにすると深くまでしみこみます。1日2回塗りのものは、入浴後と朝に塗ります。
4)入浴時には石鹸できれいに洗いましょう。靴はなるべく風通しの良いものを選びましょう。
5)感染はスリッパ、バスマット、じゅうたん、畳などあらゆるものを介しておこり得ますので、家族に水虫の人がいたら、全員一緒に治さないと、一人だけ治してもまたうつされます。
6)多くの水虫は外用薬で治りますが、爪の水虫、髪の毛の水虫など重症の水虫は内服薬を使わなければ治りません。内服薬の副作用としては胸やけや、まれに肝機能異常がありますので採血して副作用のチェックをしながら治療を続ける必要があります。とくに爪の水虫の治療では6ヵ月以上も飲みつづけることが必要なことがよくあります。
水虫とは
水虫とは白癬菌(はくせんきん)というカビによっておこるもので、白癬菌が生えるのは足だけとは限りません。手、股、頭、爪、その他、皮膚のあるところならどこにでも、生える可能性があります。(股はたむし、頭はしらくもなどと呼ばれます)。
その他注意点
自分では水虫と思っても、水虫ではないことがよくあります。実際、皮膚科専門医でも診断が難しく、菌を顕微鏡で見つけてやっと診断がつく事があります。非専門医で水虫と診断されたものが他の皮膚病であるという事もよくありますので、売薬などに頼らず、皮膚科専門医で治療しましょう。
足白癬の感染経路と予防法 サノ皮膚科クリニック
はじめに
水虫はどこでうつるのか、どうしたらうつるのを防げるのかなどを、患者さんからのよくある質問に答えるかたちで解説しました。なお、回答の中の実験は、主として東京医科歯科大学皮膚科学教室の研究グループの真菌班(班長加藤卓朗)が行ったものです。
Q&A
Q 水虫はさわるとうつるのですか。
A 通常さわったぐらいではうつりません。
水虫は白癬(はくせん)という病気で、水虫菌は白癬菌というカビです。
通常、以下のようにうつります。
患者さんの足などの病変部から菌が落ちる
↓
畳や床やバスマットやスリッパなどの環境中に菌が付着する
↓
水虫のない人がその菌を踏み、足に付着する
↓
付着したまま長時間落ちないと皮膚に根を生やし水虫を発症する
ただし、ネコやモルモットなどの動物の白癬は菌の量が非常に多いので、さわっただけでもうつることがあります。また、柔道やレスリングを行っている人にはやっている特殊な白癬菌は競技中にうつることがあります。これらは通常足ではなく、頭や顔や腕などにうつります。
Q 家族に水虫をうつしたくありません。バスマットを別にすればいいでしょうか。
A バスマットだけ別にしても、効果は十分ではありません。
無治療の足白癬患者さん家庭を訪問して、白癬菌の有無を調べた実験では、床、畳、布団、浴室の床のタイル、バスマット、トイレのスリッパなど、調べたところすべてに菌がいました。従って、家族に白癬をうつしたくなければ、患者さんが治療を始めるのが一番と思われます。
Q 家の中で靴下をはいていれば水虫はうつしませんか。
A 水虫の菌は靴下の網目より小さいので、効果は十分ではありません。
靴下などをはいて、菌の撒布状況を調べる実験では、ストッキングでは網の目が粗いので、はいていてもほとんど効果がありませんでした。綿の靴下もあまり効果がありません。足袋では布の目が細かいのでかなり効果があり、靴では完全に防げました。従って、靴を脱いであがる日本の住居では菌の家庭内への撒布は避けられないと思われます。
Q 外出先ではどのようなところに、白癬菌がいますか。
A 多くの人が靴を脱ぐ場所では、白癬菌がいます。
我々が実際に訪れて調査した結果では、公衆浴場、日本旅館の風呂場、健康ランドの風呂場、公共のプールやホテルのプール、病院の体重計やマットやスリッパ、居酒屋などに白癬菌がいました。
Q 水虫をうつされないためには、どうすればよいですか。
A よく足を洗えばうつされないで済みます。特に、ゆびの間は菌が落ちにくいので、よく洗う必要があります。
患者さんにバスマットを踏んでもらい、そのあとに私がマットを踏むと、多数の菌が私の足に付着しました。しかし、その後石鹸でよく足を洗ったところ、すべての菌が消失しました。
また、菌がひとの足に根を生やすのは通常1〜2日かかりますので、感染機会があった日にお風呂でよく足を洗えば、まずうつされないと思います。ただし高温多湿では、感染が早くおこるので、密閉された靴をはく場合、なるべく早く足を洗いましょう。
また、私の足に菌が付着したあとに、足を洗わずに、水虫の薬を塗ったところ培地に菌が生えませんでした。このことから、水虫の薬を塗るのも、予防として有効と思われます。しかしこれは感染機会があるごとに水虫の薬を持ち歩かなければならないので、あまり現実的ではありません。
また、菌が付着した後、足を濡れたタオルで拭いても、菌が減少しました。
さらには、菌が付着した後、裸足で歩きまわっただけでも菌は減少しました。
ちなみに、私はあちこちのプールに行ったり、患者さんの踏んだバスマットを踏む実験をさんざん行いましたが、家に帰ってよく足を洗うことで、うつされずに済んでいます。
Q 治療をすれば家の中の白癬菌はいなくなりますか。
A いなくなります。
ネコの白癬を全身にうつされた患者さんの家の掃除機のホコリを、毎月持ってきてもらって、菌を分離しました。患者がよく行く実家では3か月で菌は0に、ネコのいる患者宅では4か月でほぼ0になりました。人間の白癬でも同様と考えられます。
Q 家の掃除はどのようにすればよいでしょうか
A 通常の掃除で十分と思われます。
前述の通り、通常の掃除でも、掃除機のホコリの中の菌は、治療とともに減少します。
Q 靴は新しいものにしなければいけませんか。
A 靴を買い替える必要はありません。しかし、2足の靴を1日おきにはくとよいでしょう。
足白癬患者さんに、新品のスリッパや長靴をはいてもらうと、直後にはたくさんの菌がいます。しかし、そのまま置いておき、毎週、菌を調べるとだんだん減っていきます。従って、靴を買い替える必要はありません。ただし、雑巾で靴の中を拭くだけでも、菌量は減少しますので、拭いてみましょう。また、1日おきに履くと靴の中の湿度も下がると思われるので、より良いでしょう。
おわりに
爪白癬、かかとの白癬などは、重症の白癬ですが、自覚症状がほとんどないため、無治療で放置している人がたくさんいます。従って、その人たちがまき散らす白癬菌を踏んで、足に付着するのは避けられません。足(とくにゆびの間)を良く洗って、感染を防ぎましょう。
足白癬そのもので、入院することはまずありませんが、足白癬から細菌が入り足が腫れあがって入院する人はたくさんいます。運悪く足白癬にかかってしまったら、自分のため、家族のため、世間のため、なるべく早く治しましょう。
参考文献
1)加藤卓朗:白癬の感染経路.皮膚病診療 22:608-613,2000.
2) Sano T, Katoh T, Nishioka K: Culuring
Dermatophytes Rapidly from Each Toe Web by Fingertip. JD 32:102-107, 2005.
3) 佐野隆夫、谷口裕子、横関博雄、加藤卓朗、西岡 清:住環境内の各種材質における白癬菌の散布と足底, 趾間への付着および除菌効果の実験的検討.日皮会誌 115:1315-1319,2005.
4) 佐野隆夫:新しい培養法を用いた白癬の研究.お茶の水医学雑誌 53:111-118,2005.
5)佐野隆夫、森田恭一、加藤卓朗、香川三郎:M.canis による体部白癬のT例.皮膚臨床 32:605-608,1990.