クロスワード・パズル


窓の外は嵐

ごうごうごう
びゅうびゅうびゅう

暗闇で暴れまわる
獣の吠え声を耳にしながら
僕はひとりで
クロスワード・パズルを解いている


ごうごうごう
びゅうびゅうびゅう

今まさに

河川の増水を監視にきた
青年団の副団長の頭を
どこかから吹き飛ばされてきた瓦が直撃し
声もなく昏倒する副団長
風雨はさらに激しさを増し
意識をなくした副団長のかたわらで
いよいよ猛り狂った河川は
まさに餓えたる獣のごとし
その下品な舌で
副団長の額をぺろぺろとなめる
副団長の命、風前の灯


と、まあ
わたくし
そんなあらぬ妄想を抱きながら
この嵐の中でですね
この馬鹿馬鹿しいほど巨大な
クロスワード・パズルに挑んでおったのです

ごうごうごう
びゅうびゅうびゅう


それはまるで

どこかの国の郵便配達夫が
数十年の時をかけて築き上げたという
巨大な石の宮殿のようであり
あるいはまた
果てる事のない
神と悪魔の戦いのようでもあり


はいはい、わかってます
そんなものには見えません
なにしろこいつは
ただの巨大なクロスワ−ド・パズルなんだから
どこかのアルバイトの女子大生が
その妄執を
わずかな報酬にかえる為に築き上げたる
いつわりの郷愁


ごうごうごう
びゅうびゅうびゅう


ん〜・・・
タテの23 「セットアッパー」

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