平成14412

 

「行政書士制度再生戦略」

 

行政書士 清宮 寿朗

 

 2001年の改正行政書士法1条の2及び1条の3に関する解釈の指針が「日本行政」(2002.2月号)ではじめて公にされました。そして、その直後に改正行政書士法1条の2及び19条の総務省改正案が提出され、今国会で上程されようとしています。われわれ行政書士は、この両改正行政書士法及び「日本行政」の解釈の指針を総合的に分析し、過去の行政書士会のあり方等を反省しつつ、早急に21世紀に対応できる行政書士再生戦略を構築する必要があると思います。

 この論文では、まず「日本行政」の改正行政書士法の解釈の指針について考察し、次に21世紀に対応できる行政書士再生の戦略を考案してみたいと思います。

 

【この論文は、2002.2.23に開催された鹿児島県行政書士会主催の行政書士フォーラムにおいて公表したものに一部加筆したものです

 

1.      改正行政書士法1条の3

 

@「どう解釈するか」

 

「日本行政」(2002.2月号)に「改正行政書士法と今後の展望」というタイトルで、保岡興冶代議士の講演記録(2001.12.12)が掲載されています。この講演記録は、実は大変重要な内容を持った資料で、今回の改正行政書士法1条の3に関する解釈及び今後の運用方針の実体がついに明らかにされたものと言ってよいでしょう。しかも、福島総務省自治行政局行政課長補佐の補足説明が付ついています。この講演記録をていねいに読んでみました。その感想及び今後の行政書士制度のあり方について、私見ながら述べてみたいと思います。

 第一に、改正の趣旨として、保岡氏は「行政書士の業務範囲の明確化」であったことを繰り返し強調しております。「行政書士の代理権獲得」とは一言もいっていません。逆に、契約代理について保岡氏は、「紛争を前提としないような、あるいはそういう可能性のないと思われる契約は、一般的に弁護士以外の者でもできるわけです」(日本行政2月号の102段目2行目から4行目参照)と明確に述べています。

つまり、200271日の改正行政書士法の施行を待たずとも、現在においても、いや、従来から、紛争を前提としない契約代理は弁護士以外の誰でもができた、ということを明確に述べているわけです。このことは、昭和52118日のいわゆる宗判決(松山地裁西条支部判決)や昭和54611日の高松高裁判決以来の解釈で、「弁護士法」(第一法規、福原忠男著)でも解説されていたことです。このようにもともと存在していた弁護士法72条の解釈を、今回、あらためて行政書士法で明確化したということです。なお、改正行政書士法1条の3が、誰が代理しても行政書士違反にはならない(19条の適用がない)という非独占業務規定となっていることからも明らかなことです。

また、保岡氏は、日本行政2月号(以下、2月号という)101段目19行目から27行目で、「契約書作成等の代理業務が法律に明記されたのは、行政手続のみならず、私人間の権利義務に関する分野、例えば簡単な売買契約や家屋の賃貸契約など、行政書士の先生方が予防法学的に極めて重要な法律家としての役割を今まで以上に果たされることを期待したものと考えておりますので……」と述べています。

行政書士が、従来から「簡単な契約書類作成等の代理業務」は、予防法学的にすでに事実上行ってきたという経緯を認め、行政書士が事実上行ってきたことの事後的に「確認」しましょう、という「確認規定」であるとの趣旨の説明となっています。

しかし、一方では暗に、行政書士は「契約の締結の代理」の実績はもともと無かったかのように、あえて「契約書類等の作成代理」という表現も用いています。

2月号151段目15行目以下では、保岡氏は、「契約代理」を「契約の締結の代理」(民法176条もありますし、諾成契約の場合は、契約書は必ずしも契約成立要件ではないので理論的には区別し得るし、実際上も区別する必要性は確かに多々ある)と「契約書類等の作成代理」とを明確に区別しており、意識的に「契約の締結の代理」という表現は記載しなかったと説明しています。

改正弁理士法43(非独占業務規定)では「契約の締結の代理」という規定を認めておきながら、改正行政書士法では、合法自由業務であるはずの「契約の締結の代理」を規定せず、意識的に「契約書類等の作成代理」としたわけです。

それなら、1条の21(19条適用の独占業務規定)の「書類の作成」という個所を「契約書類等の権利義務又は事実証明に関する書類の作成代理又は作成代行」という表現にしてよかったはずです。なぜ、同様の趣旨の規定を1条の3(19条の適用のない非独占業務規定)にあえて規定したのか理解に苦しみます。

また、契約書類等の作成代理についてさえも、まるで制限するかのような意見が述べられているのにも驚かされました。「簡単な契約書作成等の代理業務」という表現です。2月号1515行目以下の文中と同101段目19行目以下の文中に2箇所でてきます。

紛争を前提としない「契約書類等の作成代理」の場合であっても、例えば、「巨額な航空機の購入とか、何か問題が起こりそうなものを調整した結果結ぶ和解契約とか、いろいろな法律の紛争を前提とするような、あるいはそういうものになりそうな重大な契約になると」(2月号15頁1段目15行目以下参照)弁護士法に抵触する場合もでてくると述べているわけです。後半部分を額面通り鵜呑みにしますと、和解契約書や示談書の作成代理は認めないということになってしまいます。「契約の締結の代理(和解・示談交渉代理)」として認められないことはわかっていますし、当面は了解できても、「契約書類等の作成代理」として認められないということになりますと、事実上、行政書士の職域は拡大するどころか減少したことになるのではないでしょうか。

また、前半部分の「巨額の」という個所にも疑問を抱きます。この論法だと、巨額か否かの判断基準も不明瞭になりますが、行政書士は特許等知的所有権に関する契約代理であっても、巨額な特許等知的所有権が契約客体である場合には契約書類等の作成代理も認めない、というように受け取れてしまいます。弁理士には巨額な契約の締結の代理は認めてもいいが、行政書士には認めない、ということになってしまいます。

また、航空機が巨額だといっても、航空機もピンからキリまであり、ジャンボジェット機から修理しなければ飛べないようなセスナ機まであります。滑走路を走れるだけのセスナ機だって航空機は航空機なわけです。飛べなくなったとたんに自動車になるわけではなく、そういう中古のセスナなら日本車よりも安く購入できるかもしれません。

不動産売買契約にしても、面積や金額で契約書の作成代理ができたり出来なかったりするというのもわかりにくい話です。

いずれにしても、改正法の契約代理に関しては、意識的に「契約の締結の代理」は含まないという趣旨で、「契約書類作成等の代理業務」という規定にしたことは明白になりました。仮に規定したとしても弁護士法違反にはならないが、しかし、日弁連としては、これは明確化してほしくなかったということのようです(2月号9頁3段目15行目から10頁1段目7行目まで参照)。改正弁理士法では規定させている点で矛盾を感じざるを得ません。

 

第二に、「提出手続代理」についてです。

「提出手続代理」についても、弁護士法に抵触しない限り、許認可手続の場合であっても、紛争性・事件性のない行政手続を代理することは、もともと弁護士法で禁止されていなかったわけです。この点については、兼子仁東京都立大学名誉教授も数年前より論文等で主張されていました。最近の文献としては、20015月に発行されました「東京都行政書士会50年史」での論文をあげることができます。同書の150頁において、兼子仁法学博士は、「「許認可申請代理は法定外業務としても合法だが立法化が望ましい」と明言されています。

仮に、「申請手続代理」も「提出手続代理」に含まれるものとして考えた場合、現行行政書士法1条の3で規定する「提出する手続を代わって行い」という文言は、いわゆる「代行」と解釈せずに「代理」と解釈することも可能であったということになります。

昭和56年9月16日付日行連会長回答が参考になります。この「提出代行の業務態様に関する回答」を読むかぎり、その内容、業務態様は、「提出手続代理」そのものだったと言えるのではないでしょうか。以下回答文を引用します。

 

日行連会長回答「1. 提出書類の内容の概要につき説明、もしくは内容の調整協議等必要な打ち合わせ行為。2. 提出書類についての質問を受け、回答または説明する行為。3. 提出書類の補正並びに行政庁よりの指示伝達に関する行為。4. 免許証、許可証、認可証等の受領確認行為等であり、この解釈により業務を遂行されたい」

 

そのように考えますと、保岡氏の「今回、提出する手続の代理と規定されたことにより、行政書士が自ら代理人として氏名を表示し、その責任において提出することが明確にされ、代理人として提出書類の訂正等を行うことができるようになるものであり……」(2月号9頁3段目1行目から5行目参照)という説明は、昭和56年の日行連会長回答と同趣旨であり、ただ、「提出する手続きを代わって行い」という文言を「提出手続代理」に変更しただけとも言えるわけです。

問題は、代理権成立要件である委任契約を証する委任状の取扱です。行政書士の事務代理受託形式が請負契約であるのか委任契約であるのかは、その契約書で判断されるわけです。

仮に、行政書士が委任契約を選択して委任状を作成し代理業務として許認可申請手続を行おうとします。しかし、申請形式や様式の決定、添付書類として委任状の写しを受理し関与行政書士を代理人として取り扱うかどうかなどの判断を所管行政機関の自由裁量としますと、実務的には従来とさほどの変化は望めなくなるのではないでしょうか。

2月号16頁2段目21行目から3段目13行目で、福島課長補佐は、「委任状を相手に見せる必要があるかどうかにつきましては、第1号業務ですと官公署に提出する手続ということですから、基本的には相手方となります行政機関がどのような判断をするかということに尽きると思います」と、述べています。

行政書士がたとえ委任契約を結んで提出手続代理をしたつもりでも、相手方の行政機関が委任状の提出を受理するなり提示を求めない限り、実際の「申請手続」では代理人としての活動が不完全なものになり、結局は、多くの許認可申請手続の場面で、従来通りの「提出手続代行」(昭和62年の日行連会長回答の業務態様)と変わりない取扱いを受けるということになりそうな気がします。

せめて「提出手続代理」ではなく、行政手続法上の概念である「申請」の手続代理権を規定して欲しかったと思います。行政手続の通則法である行政手続法第2条には、4号で「申請」、7号で「届出」は定義されていますが「提出」という概念については定義されていないという点に着目するべきだと思います。

たとえ申請手続代理も提出手続代理のように自由業務・非独占業務であったとしても、行政機関としては行政手続法との関連で、行政書士の委任状の取扱方について自由裁量とはならず、少なくとも「覇束(法規)裁量」にはなったと想像されるからです。

もし、提出手続代理に申請手続代理も含まれる、というのであれば、「申請及び提出手続の代理」と規定して欲しかったというのが私の率直な感想です。

それから、あらたな問題として、20023月総務省から改正行政書士法1条の2の新たな改正案が提出されています。1条の2に記載されている「書類」には「電磁的記録」も含むとする確認規定追加の改正案です。

この改正案は2002122日の最高裁判所判決の趣旨にそった改正で、仮に、今回の改正がなかったとしても最高裁判決がありますから、行政書士の作成できる「文書」の概念には当然電磁的記録も含まれると解釈され得るわけです。

一部の行政書士から、「1条の2に「電磁的記録」が追加規定されることは、行政書士の電子申請代理権が独占業務になるということで喜ばしいことだ」との意見が聞こえてまいりますが、申請代理の問題は、1条の3の問題で1条の2の問題ではないということをここで確認しておきたいと思います。

すなわち、紙の文書であれファックス文書であれ、コピー文書であれ、FD文書であれ、その他の電磁的記録文書であれ、それらの申請代理ないし提出手続代理の問題は非独占業務規定である1条の3の問題なわけです。

さらに、昨年の改正行政書士法推進者の一部の行政書士から「文書作成と申請代理は一体不可分であり、切り離せないものである」との意見もありますが、それなら何故、文書作成と申請代理ないし提出手続代理を一体のものとして1条の2に規定しなかったのでしょうか。あるいは、昨年の改正行政書士法制定過程の中でなぜそれを主張しなかったのか不思議でなりません。

また、この「電磁的記録」追加規定と同時に19条に適用除外規定を設けるという改正案には合理的理由があるとは思えません。特に、「定型的かつ容易におこなえるもの」を総務省が判断して選定し省令で自由に追加規定できるという仕組みですが、その判断基準さえ議論されないまま改正されるというのも実に不可解なことです。

 

  

A「業務上の新たな問題点」

 

「契約書類等の作成代理」や「提出手続代理」を1条の3という19条の適用がない、いわゆる非独占・自由業務規定として位置付けたことの弊害について若干述べてみたいと思います。

もちろん、何事にもプラス面もあればマイナス面もあると思います。

しかし、プラス面ばかり強調していてマイナス面に目をつぶっていると、行政書士制度の健全な発展は停滞する可能性が出てきます。あらゆるマイナス面を勇気を持って注視し、新たなる改善策を見出すのが組織革新と組織の発展には欠かせないことであると信じます。

そこで、私なりに考えたマイナス面をまとめてみますと以下のようになります。

 

第一に、この規定は弁護士以外の法律実務のプロである他士業者に対しても、この二つの業務が非独占・自由業務であるということが明確化されに周知されつつあるということです。

実は、同じような法改正が過去、税理士法でもありました。昭和55年の税理士法改正です。いわゆる「記帳代行業務」を非独占・自由業務と位置付けながら、税理士の独占業務である「税務代理」の付随業務であることを明確化した税理士法改正のことです。

当時の税理士は、この改正によって「記帳代行業務は公認会計士(旧計理士)独占の流れを阻止し、逆に税理士業務として確立されるべく明確に法定された」と絶賛していたものです。

しかし、それとは裏腹に、非独占・自由業務であることが明確に法定されたことにより、行政書士や社会保険労務士、中小企業診断士等による記帳代行業務が広く行われるようになりました。

それと同様に、行政書士業務の士業市場内拡散という現象が今後発生する可能性は否定できないわけです。

行政書士以外の者による作成書類といっても作成者の署名押印がなければ、当該書類の作成者を証拠を持って特定し訴訟に持ち込むことは、はなはだ困難なわけです。

第二に、行政書士業務と隣接する職域で活動している民間業者、例えば経営コンサルタント会社や人材派遣会社等もこの二つの業務が非独占・自由業務であることが明確に認識されたということです。

税理士の場合、昭和55年の改正税理士法施行後の記帳代行業務の士業市場内拡散に続き、PC会計時代に入ると、今度は会社組織による会計センターの林立という思わぬ壁に直面することになりました。行政書士にも同様の壁が立ちはだかることは十分に予想されることだと思います。また、場合によっては、会社組織による行政書士の下請化や行政書士の名板貸しという脱法的事例の増加も助長しかねないわけです。

第三に、杞憂ならいいのですが、今後の行政書士法の改正運動にブレーキがかかってしまったということです。行政手続上の代理や私法上の代理に関する規定が非独占・自由業務規定として位置付けられたことにより、行政書士が真に目指していた代理権、すなわち現在は弁護士法で禁止されている行政不服審査法上の「不服申立代理権」や私法上の紛争調整権限である「和解交渉代理権」等の獲得や提出手続代理権と並べての「申請手続代理権」の獲得が大幅に遅れてしまいそうだということです。

なにしろ、改正されたばかりの規定ですし、多くの方が歓喜して迎え入れた改正規定ですから、来年、再来年に、同じ規定について本質の異なる規定へと改正するわけにはゆかないと思います。

 

 

2.司法制度改革における行政書士の位置付け

 

@「最終意見書での行政書士の位置付けをどう評価するか」

 

 「弁護士制度の改革」の第7項目「隣接法律専門職種の活用等」で司法書士、弁理士、税理士につての活用は具体的に提案されていますが、行政書士等については、「訴訟の場で活用する必要性や相応の実績等が明らかになった将来において、出廷陳述など一定の範囲・態様の訴訟手続への関与のあり方を個別的に検討することが、今後の課題として考えられる」と述べるにとどまっているわけです。

 つまり、訴訟の場で活用する必要性が出てきて相応の実績が明らかになったとしても、出廷陳述レベルでの権限付与しか検討しないし、検討しないかもしれない。と述べているわけです。

 もっとわかりやすく言えば、行政書士等は隣接法律専門家としての司法(裁判手続)参加の可能性は限りなくゼロに近いものと判断しました、と言われているようなものです。

 司法書士のみならず弁理士、税理士にも隣接法律専門家という立場での司法参加を認めていながら行政書士等にはその可能性を限りなくゼロに近いものと判断したことに対しては、行政書士として、問題ありと言わざるを得ません。この点に関しては次の項目で述べてみたいと思います。

 行政書士の中には、隣接法律専門家の記載順に着目して「行政書士は隣接法律専門家としての地位が、司法書士、弁理士、税理士に次いで第4位になった」と言ってこの意見書を評価している者もいますが、それはちょっと違うだろう、言わざるを得ません。余興の小話としては面白いですが。

 

A「新しい司法制度における行政書士の役割」

 

 まず「司法概念」の流動化について述べたいと思います。

 1996年末の国会で、菅直人議員の質問に対し、内閣法制局長が「憲法65条の『行政権は、内閣に属す』の行政権という文言解釈については、憲法94条で制度的に保障している自治体による行政執行権を除いたのが内閣の行政権であると解釈します」と答弁しました。

 この答弁により、従来の「行政概念」は一変し、それに伴って国から自治体への機関委任事務制度は廃止されたわけです。

 「文書概念」についても、2002年1月22日の最高裁判決で「フロッピーディスクに入力された電磁的記録も商業帳簿として認定できる」との判断を下し、文書概念も一変しています。

 同様に「司法概念」もいま変化しつつあるように思えます。

 従来の司法概念は、「司法府概念」にみられるように「裁判所」と同義でした。「司法作用」という場合も、裁判所が法律上の具体的紛争を解決することとされていたわけです。

 しかし、近時、小島武司中央大学教授(民事訴訟法)の提唱によって「裁判所外の代替的紛争解決」がクローズアップされ、裁判外の代替的紛争解決も司法に準じて考える傾向が強まってきています。以下、小島武司著「プレップ新民事訴訟法」(弘文堂)にそって若干の解説をしておきたいと思います。

いわゆるA.D.Ralternative dispute resolution)と呼ばれている準司法的な仕組みのことです。

概念としては、調停及び仲裁機能をもった裁判外機関での紛争解決や調停に類する斡旋、仲裁に類する裁定という機能をもった裁判外機関での紛争解決の仕組みのことをいい、司法型A.D.R、行政型A.D.R、民間型A.D.Rの3種類があります。

司法型A.D.Rの例としては、簡易裁判所の調停委員会や家庭裁判所の調停委員会があります。

行政型A.D.Rは裁判所ではなく、国の行政機関や自治体に設置されるものであり、国民生活センターや川崎市市民オンブズマン条例に基づく公的行政オンブズマン委員会、消費者センター、消費者被害救済委員会、法務省人権擁護局などがあります。また、行政不服審査法上の不服事件の審査を行う審査庁も一種の裁判外紛争解決機関といえると思います。

民間型A.D.Rは、財団や社団などの公益法人によって設置されたものや弁護士会、弁理士等の業界団体内に設置されたものがあります。具体例としては、国際商事仲裁協会や第二弁護士会仲裁センター、日本弁護士連合会会と日本弁理士会で共同設置している工業所有権仲裁センター、交通事故紛争処理センター、交通事故相談センター、弁護士会紛議調停委員会、宅地建物取引業協会の不動産相談所などがあります。

 

このA.D.R、がこれからの行政書士にとって開拓すべき「新しい司法制度」となり得ることは間違いありません。

行政書士会も弁護士会や弁理士会、宅地建物取引業協会のように積極的に民間型A.D.R設置を推進するべきです。行政書士の「得意分野を選定」して、自主的あるいは他士業界と共同して常設の民間型A.D.Rを設置するべきです。他士業界との共同設置にはNPO法人を活用する手法もあります。

それにしても幸運なことは、わが行政書士会においても、すでに鹿児島会が民間型A.D.R「常設無料相談センター」を設置しているということです。自治体への苦情処理を含む法律相談を実施し、自治体住民の利便性向上に成果をあげているというお話をうかがい、心強く思っているところです。鹿児島会の先進的な取り組みに対しては敬意を表するとともに、他の単位会のモデルケースとなるよう大いなる期待を抱いています。

また、川崎市市民オンブズマン条例のような仕組みの条例制定を、全国3200の自治体に働きかけることも必要だと考えます。

全国3200の自治体に公的行政オンブズマン機関を設置し、各単位会から県内にある基礎自治体数に相応する人材を派遣できるようになれば、行政書士の社会的貢献の場は格段に広がるものと考えます。

さらに、あえて行政書士の得意分野を選定し、その上で、限定的不服申立代理権を獲得するという新たなる発想での対策が必要となってきていると考えます。

同趣旨の限定的不服申立代理権は、すでに司法書士、弁理士、税理士等においては獲得ずみであり、行政書士においても限定的なものであれば公認される可能性は高いと考えます。これから、本格的なオンライン申請時代と自治体の財政難時代が到来します。それに伴い、自治体と住民間で、行政上の紛争が増大してくるものと予想されますので、自治体住民の利便性のためにも、異議申立代理権や審査請求代理権の獲得は是非とも実現したいところです。

一方、民事裁判事務の実績づくりについてですが、私は、新民事訴訟法54条を活用することでその実績をあげる努力をしてみてはどうかと考えています。

新民事訴訟法54条1項は「法令により裁判上の行為をすることができる代理人のほか、弁護士でなければ訴訟代理人となることができない。ただし、簡易裁判所においては、その許可を得て、弁護士でない者を訴訟代理人とすることができる」と定めているわけです。

簡易裁判所や家庭裁判所の調停委員会においても同様の実績づくりは可能です。民事調停規則8条は「1項 調停委員会の呼出を受けた当事者は、みずから出頭しなければならない。但し、やむを得ない事由があるときは、代理人を出頭させ、又は補佐人とともに出頭することができる。2項 弁護士でない者を前項の代理人又は補佐人とするには、調停委員会の許可を受けなければならない」と規定しています。同様の規定は家事審判規則5条2項にもあります。

  行政書士が、簡易裁判所や調停委員会の許可を得れば、行政書士として訴訟代理人や調停上の代理人又は補佐人になり得るわけです。また、作成する書類が裁判所提出の書類であっても、行政書士法施行規則9条4項の規定に従って作成書類の末尾又は欄外に作成の年月日を附記し、記名して職印を押さなければならないという法令上の義務があるので、行政書士による裁判事務の実績づくりの証拠・データを蓄積することが可能となるわけです。

いわゆる「裁判所に提出書類」の代書業務も訴訟代理業務の一部です。大は小を兼ねるわけで代書だけの許可もあり得るはずです。当然、代書の前後の法的手続やアドバイスもしてあげられる方がいいに決まっていますから、訴訟代理権の方がいいに決まっていますが、代書だけの許可を得れば十分であるという場合もあると思います。さらには、裁判所の個別的判断で地裁レベルでの一部の提出書類の代書を許可することだってあり得ると思います。

  一部の地方裁判所では、個別的判断で行政書士に自己破産申立の代書を許可しているといううわさも耳にしています(但し、事実確認はしていません)。そういう裁判所の柔軟な判断は、弁護士、司法書士過疎の地域では今後、ますます重要になってくると思われますので大いに歓迎したいと思います。

また、この裁判所の個別的許可による行政書士の裁判事務関与の実績が顕著になれば、司法制度改革審議会が述べているように、将来、出廷陳述権を獲得するという機会がやってくるかもしれません。そうなれば、さらに行政事件訴訟の場においても、出廷陳述権を駆使し、外国人等の人権擁護に尽力することができるようになる。また、住民訴訟の後方支援活動も大いに躍進するはずである。

ちなみに、一部の行政書士の間で裁判事務(裁判所に提出する書類の代書業務)は当然、行政書士業務である、とする意見もあります。

その論拠は、「行政書士法1条の2第1項に規定されている「官公署」概念には「裁判所」も含まれているし、後法は前法を破る、という法格言があり、行政書士法より前に制定された弁護士法や司法書士法は、後法の行政書士法によって破られている」という趣旨のもののようです。

この論拠となっている理由そのものの説明は、全くその通りで私も異論はありません。官公署の中には裁判所のみならず、特許庁や税務署だって含まれます。社会保険事務所だって含まれます。そして、法格言もその通りです。さらには、「権利義務又は事実証明に関する書類」という概念も訴状や税務書類、登記申請書類なども含むものです。

ですから、行政書士法1条の2の第1項だけをみますと、弁護士や司法書士のみならず、税理士や弁理士も、「さあ、大変。税理士法や弁理士法も弁護士法も司法書士法も行政書士法の前ではひれ伏すしかなくなってしまうではないか」。

そこで、行政書士法の立法者は、行政書士法1条の2第2項で、他の士業法等で禁止している業務については行政書士といえども業務とすることはできません、という業務制限規定(確認規定の性格もある)を設けたと考えられるわけです。

したがって、行政書士法1条の2第2項が存在する限り、弁護士法・司法書士法のみならず税理士法・弁理士法等の他士業法も無視するというわけにはいかないわけです。

そういう意味で、一部の行政書士の間で主張されている「理論」そのものは正しいのですが、しかし、それをもって行政書士の職域が裁判事務にも及ぶとするには、根拠としては弱いように感じるのですがいかがでしょうか。それよりも、新民事訴訟法54条1項等の活用を図り、裁判事務における行政書士の人材活用を推進するよう運動していった方がいいのではないか、と私は考えるわけです。

 

  3.他士業法の改正による行政書士業務への影響

 

(1)改正弁理士法4条3項の、知的所有権に関する「売買契約、通常実施権の許諾に関する契約その他の契約の締結に関する代理若しくは媒介を行い、又はこれらに関する相談に応ずることを業とすることができる」規定が2002年2月1日施行されました。

 この改正法の影響は少なくないと思います。

「その他の契約」の客体範囲が知的所有権以外のどこまで及ぶのか不明確であるし、一部で主張されているように、もし「契約の締結の代理」と「契約書類等の作成代理」が一体不可分のものであるとするならば、この改正弁理士法4条3項の施行によって、行政書士法1条の2第1項の契約書類等の作成権限の独占性(相対的独占性)は、事実上、有名無実化することになるのではないでしょうか。

 また、行政書士の間においても「契約の締結の代理」と「契約書類等の作成代理」は一体不可分であり区別できない、という意見が根強く、一般国民・経営コンサルタント会社、人材派遣会社等もそのように考える方も多いと思います。弁理士や税理士、司法書士もそのように考えている方が多いと思います。

 そうしますと、非独占・自由業務規定である改正行政書士法1条の3第2項を根拠に「契約の締結の代理」と称して「契約書類等の作成代理」も行ってしまう可能性が大なわけで、後日、「契約書類の作成」についての行為は行政書士法1条の2第1項及び行政書士法19条で禁止されており処罰されます、と言われてもピンとこないと思うわけです。

 それこそ罪刑法定主義の原則からすれば問題となる可能性があります。やはり、罪刑法定主義の観点から考えても、立法政策的には、「契約の締結の代理」と「契約書類等の作成代理」は区別して規定するべきではないかと考えています。

 

(2)今国会で上程が予定されている司法書士法改正案(日司連案)によれば、簡易裁判所における民事の訴訟代理権のほか、簡易裁判所の調停及び即決和解事件についての代理権、和解交渉代理権、法律相談権が司法書士の独占業務として明記されることが予定されています。司法制度改革審議会の最終意見に照らしあわせれば、上記改正案の成立する公算は高いといえます。

この影響も実に大きいと思います。すなわち、行政書士の和解交渉代理を弁護士法と司法書士法の双方で禁止するという結果になるからです。

将来、行政書士にも和解交渉代理が可能なように行政書士法改正する場合の大きな壁になるはずです。

4.行政書士制度は再生可能か

 

@「行政書士制度は再生できるか」

 

 行政書士制度の再生は十分可能であり、逆に、新機軸の新展開で他の士業以上の発展を遂げる可能性ありと考えています。

 

A「再生のための具体的な方策は何か」

 

(1)    (1)行政書士会組織の活性化と共生的競争力の創出がポイントになると考えます。従来の「タテ社会的共同体」の体質を「フラットな機能集団」(実力者による専門委員会中心の組織にし、役職は役割の分担であって上下関係をあらわすものではないとの意識改革を徹底させる)に改善し、行政書士制度に関する情報はリアルタイムで全会員が共有し得るように、インターネットを普及させフルに活用して情報伝達体制をつくり、建設的な全会員による情報交換、意見交換、議論等のできる場(MLや研修会、シンポジューム等)を多数設置することが大切であると考えます。

(2)    (2)「法改正研究委員会」を兼ねて「行政書士法コンメンタール編纂委員会」を常設し、ここにも会員なら誰でも参加し意見交換できるMLを設置するといいと思います。もちろん、「行政書士コンメンタール」は現実に編集発行します。行政書士による行政書士法解釈のテキストを出版します。具体的業務モデルの例示も積極的に取り込むべきです。出版後、場合によっては行政書士側の解釈に関するクレームが届くこともあるかと思いますが、その時こそチャンスだと思うべきです。他士業界と正々堂々の論争も積極的にするべきでしょう。そういうことのできる組織づくりを(1)で提案しました。

(3)    (3)法務サービス市場における行政書士の競争力を増進させ、かつ業務開発研究の場ともなるような、「行政書士中央研修所」の設置を強く提案します。また、行政書士試験科目や出題形式も抜本的に見直す時期に来ていると思います。

(4)    (4)「契約の締結の代理」と「契約書類等の作成代理」を行政書士会自らが明確に区別し、「契約書類等の作成代理」は1条の2に、「契約の締結の代理」は1条の3に規定し直すことが大切であると思います。この再配置規定によって改正弁理士法4条3項の拡大解釈や契約書類作成代理業務の事実上の自由業務化に歯止めをかけることができると思います。「提出手続代理」についても「申請手続及び提出手続の代理」に変更を加えるべきであり、あわせて主力業務分野に限定しての不服申立代理権も獲得するべきでしょう。

(5)    (5)簡易裁判所等における訴訟代理権や補佐人の許可制度を積極的に活用し、許可が得られない場合でも、本人訴訟の後方支援・情報提供・調査支援等のサービス開発で司法手続にも関与する可能性を追究するべきであると考えます。

(6)    (6)中小・零細企業の法的整備によって予想外の経営危機を招かないような法務コンサルタント業務モデルを開発し、中小・零細企業のための経営革新に資する企業法務会計業務モデルを開発する必要があると思います。

(7)    (7)また公的行政オンブズマンとしての社会的責任を全うするべく、自治法制研究委員会を設置し、自治体法務・自治体財務のあり方を専門家の立場から提案してゆけるようにする必要があると思います。あわせて公益法人や福祉・環境系NPO法人向けの支援法務サービスもできるよう工夫してまいりたいと思います。

 

 以上ですが、最後に、組織的機能強化・改革という観点に立って提言しますと、単位会が地域の特性にあわせて独自の研修機構を設立するか、あるいは地方協議会ごとに連合研修機構を設立して行政書士の業務開発や法制度研究、実務書出版・手続ソフト開発販売、通学・通信・インターネット利用による実務研修・法律学研修等に全力を傾注し、新しい行政書士を育成すること、そして行政書士の実力を向上させていくことができれば、行政書士の未来はまだまだ明るいと確信しています。

 以上

 この論文は2002年9月25日発行「行政かごしま」(bX8)の33p〜43pに掲載されました。