第三新東京市。
以前は遷都されるのではということで、
土地が次々と買収され、それなりの「街」となる様相であったが、
首相の「次の首都は名古屋だぎゃ」の一言で「町」レベルへと
変わっていった。そんな第三新東京市の一角に
「ねるふ商店街」はある。

 

 

ねるふ商店街のみなさん
      第1話 ようこそねるふ江
 
 
 
 
ねるふ商店街の支配者《碇ゲンドウ》の朝は早い。
支配者、と言っても只の商店街組合長という地位にいるだけなのだが、
色メガネに髭、そして何よりもその人の持つ雰囲気が皆から『支配者』と言われる所以なのだ。
そんなどこか危ないような雰囲気をもつ彼であるが、
その実体は極めて健康的なおじさん・・・かもしれない。
朝4時30分に起床し、ラジオ体操第2を行い仕入れ兼ジョギングへと行く。
彼は商店街の一角で「日の出食堂」という食堂を営んでいた。
小さな食堂だが、誰にも愛される食堂である。
市場には先に妻兼商店街の影の支配者と呼ばれている《碇ユイ》が来ており、
彼は妻の選んだものを運ぶ。
ここで諸兄に勘違いして欲しくないことは、『影の支配者』と呼ばれている妻も
別に何代目姉といったような貫禄のある姉さん等ではないということだ。
30も半ばを過ぎてもまだまだ20台前半で通る容姿。
30半ば過ぎの女性の持つ『心遣い』と『話術』で商店街の組合員からの信頼は厚い。
商店街の男性全てが「あの亭主にあの奥さんは勿体無い」と言い切るほどだ。
ただ、碇ゲンドウという人がその風貌からはとても想像できないような
『愛妻家』であり『恐妻家』である為、碇家の最終決定件はユイが握っていた。
それが『影の支配者』と呼ばれる所以である。
さすがに帰りはジョギングしていては遅くなってしまうのでユイと共に車で帰宅する。
ゲンドウはバイクの免許は持っているが車の免許は持っていないため、運転は常にユイの担当。
妻の運転する軽トラックの助手席でシートベルトを締めて大人しく座っているだけである。
家に帰り荷物を降ろすと朝風呂。そして新聞をひたすら読む。
碇家では店で客用に置く分もあるのだろうが、
朝刊を4種類・スポーツ新聞3種類・夕刊2種類をとっていので
ゲンドウは読む新聞には事欠かない。
ユイが読むのをとめないとひたすら読んでいてしまうほどである。
これが彼の1日の始まりだ。
彼が新聞を読んでいると、彼の愛する(息子にはそんな自覚はないが)
息子《碇シンジ》を起こすためにシンジの幼なじみ
《惣流アスカ》がやってきていつもの叫びが聞こえてくる。
小学5年生からほぼ毎日起こしに来てくれていた。
碇シンジはゲンドウの息子とは思えないほど彼に似ていない。
容姿は母親似であるが、性格はどちらかというと内向的な性格で、
いわゆる人見知りをしてしまうことが多い。
それでも母親似の容姿は、頼りなさも手伝ってどこか中性的な雰囲気をかもしだし、
その笑顔は破壊力抜群で本人は知らないが学校でも女子からの人気は結構ある。
・・・影では男の子にも人気があるとかないとか・・・
先人は「女の子の笑顔は破壊力で計るんだよ」と言ったものだが、
男の子の笑顔も破壊力で計るものだと思えるほど
シンジの笑顔は老若男女に通用する破壊力を秘めている。
本人が無自覚で繰り出すものだからある意味絶妙なタイミングで決まってしまうのだ。
惣流アスカはドイツ人と日本人の混血である。
ゲンドウの学生時代の同級生でドイツからの留学生で悪友の「ジークフリード」と
ユイの親友の「惣流キョウコ」の娘で、美男美女からは美少女が生まれるというのは
確かであると思わせる容姿で、アスカは「超」がつく美少女であった。
美しい青い瞳に魅せられた男は数知れない。
友人の娘で家も近いことがあって碇家・惣流家は親交が深かったが、
それを抜きにしてゲンドウはこの娘に対して好意的であった。
ゲンドウやユイの前では「いい子」であろうと振舞うアスカの日常はすでにバレバレであるが、
その本質は非常に女の子らしくかわいいものであるとゲンドウは分かっていたのである。
親としてこれだけ器量よしの女の子が自分の息子にほぼ間違いなく好意を抱いてくれていることは
とても喜ばしいことでもあった。
いうなれば、自分のことのようにうれしいのである。
まぁ、一番単純な理由としては、『孫が楽しみ』というものなのだが・・・。
「起きろ!バカシンジ!!!」
毎日アスカに過激に起こされるシンジの姿を想像してニヤリと笑うゲンドウ。
今日はドカッ! という音まで聞こえてきた。
ついでにパシッ! という音も・・・。
わが息子ながらなさけないと思い、思わず苦笑いしてしまうゲンドウだった。
苦笑いといっても、傍から見たら「ニヤリ」としているだけなのだが・・・
つまり、朝っぱらから不気味な笑いを浮かべている・・・ということだ。
そんな二人を見てゲンドウに対してユイ曰く
「あなたの息子だからですよ。よく似てるじゃないですか」
妻として母としてみくらべても、二人はやはり似たもの親子なのだということか。

 
 

 

碇家の朝食が始まる。
アスカも店の都合で、小学校のころからシンジを起こしに来て、
そのまま朝食をごちそうになるのはいつものことだ。
アスカの家は《パーラーSOURYU》という商店街唯一のパチンコ店。
この時間は開店準備で母は忙しいらしい。
父親は3年前から修行の旅に出ているとアスカは聞いていたが、
何の修行なのかは知らなかった。
いや、自分の父親のことだから禄でもない修行だと思い、
聞かなかったというのが正しい表現か。
修行先から何の修行をしているか分からない手紙が2ヶ月に1回はきているので
惣流家では誰も心配などしていない。
パチンコ店も父はほとんど関与していないため、家業に支障もでない。
惣流家としては現状は特に問題ないのだ。
今の修行の旅の前は「雀鬼」になるといって1年修行したのはいいのだが、
戻ってきた即日ゲンドウに倒されてしまった経歴もある。
さらにその前は「武道の道を極める」と言って1年ほど家を開けたら、
『相手に隙を作らせる格闘術』なる怪しいものをマスターして
その技を披露する為、ゲンドウと手合わせを行ったのだが、
情けないポーズをとった刹那、ゲンドウに投げられて終了であった。
後には碇・惣流双方の記憶にそのへっぽこな構えが残っただけである。
そんなわけもあって、惣流家はジークフリードの修行の旅に干渉しない。
旅費自体も彼が昔作った個人資産でまかなっているため台所事情に関係しない。
「ねぇ、おじさま。結局ここの隣には何が入るの?」
食事が終わって暖かい御茶をすするとアスカは以前から思っていた疑問を口にした。
1年前、古書店を営んでいた《榛名トメ》さんがご臨終されて、それ以来空家なのだ。
すでに改装工事が始まっているが、シートの為外からみて何なのかよくわからない。
元々そう広い書店ではなかった為、次に店を出すとしてもいろいろと融通が利きにくい。
それが2ヶ月前から改修工事が始まったのだ。
何ができるのか誰に聞いても明確な答えが帰ってこない。
アスカも母親に聞いてみたのだが、キョウコにも新しい家主の意向で改装完了まで
内容は伏せられているとのことだった。
通常商店街として望ましくない店ができないように審査があるのであるが、
ゲンドウが商店街の副会長を務める《冬月コウゾウ》の同意を受けただけで
独断で許可をしたとのことだった。
ゲンドウのこれまでの商店街に対する姿勢と、
何よりも常識人として通っている冬月が了承したのだから
誰も強く意見することもなかった。
碇ゲンドウという人は案外商店街において「人望みたいなもの」があるのである。
その理由も後に語られることになるであろう。
・・・ただ単に商店街の誰もが面白そうだと思って意見しないだけなのかもしれないのだが・・・
「今日、業者さんが来て最後の工事をするらしいわ。」
ユイがゲンドウの新聞を取り上げて答えた。
「へぇ、やっと終わるんだね。なんか楽しみだな」
「シンジは何が楽しみなの?」
「う〜ん、色々かな」
「ど〜せシンジはスケベだからかわいい女の子が隣にこしてこないかなぁとか、
 綺麗なお姉さんはこないかなぁとか考えてたんじゃないの」
「ち、ちがうよ」
「ハン、ど〜だか」
実際にはアスカの言ったことが正しく、
彼は友人と「どんな人がくるか」という話題で盛り上がっていたこともあるのだ。
当然ながら、自分達に都合のよい想像ばかりなのだが・・・
「で、何が入るの?」
今の話の流れの方向を変えようとシンジはゲンドウに振った。
「問題ない。」
「それじゃわかんないよ、父さん。」
シンジに突っ込まれたことによりゲンドウの《シンジいじめ》ポイントが5あがった。
後で仕返しをしようと決意するゲンドウ。
「それは秘密よ、きっと帰ってきた時には分かるから♪
 さあ、学校に行きなさい。もうこんな時間よ。」
ユイがにこやかに時計を指差す。すでに始業15分前。全力疾走でギリギリだ。
「うそ? 行くわよ、シンジ!」
「まっ、まってよ、アスカ。」
食器を流しに置くと玄関へ向け急ぐアスカ。
シンジもその後に続こうとする。
「シンジ、待て。」
ゲンドウが両手を顔の前で組み彼の決めポーズでシンジを呼びとめる。
「なに、父さん。急いでるんだけど。遅刻するとアスカに半殺しにされちゃうよ」
「これをもっていけ。役に立つ。」
シンジの前に本を二冊差し出した。
それには《よこそネルフ江》とかかれている。
商店街のパンフで、ゲンドウが編集したものである。
内容は一部を除いて悪くなのだが、表紙のセンスがない。
商店街のマークと《よこそネルフ江》という文字がかかれているだけ。
それ以外では最終ページに商店街組合長の写真と短く
『来い。 
     ゲンドウ』
とあるのがある意味インパクトがある部分だろうか。
それさえなければなんてことのない只の商店街の地図と
各店の紹介だけのおとなしいものなのだが・・・
参考までにこのページを編集したのはゲンドウではなく
ユイであることを記しておく。
会議の資料なんかならこれでいいかも知れないが(写真は問題だが)、
商店街のパンフレットとしてはもう少しやりようがありそうなものだ。
「いいからもっていけ。役に立つ。」
シンジがそんなものいらないという顔をしていたので、ゲンドウは重ねて言った。
例えるなら、既に時代遅れともいえる強化パーツを
父が息子におしつけるようなものだろうか。
ゲンドウをいじけさせると後がやっかいなので、シンジはそれを鞄に詰め込む。
なんとか2冊とも鞄に入るが、パンパンになった鞄を見て嫌な顔をするシンジ。
「シンジ、もたもたしてると置いていくわよ!」
玄関からアスカの怒声がシンジの耳に届く。
そう言いながらもアスカはシンジを置いていくことはない。
後で『かなり』文句は言うが一緒に遅刻するのだ。
反射的に玄関へ飛び出していくシンジ。
「急いでて、人にぶつからないようにね〜」
ユイの声は届いていなかった。

 

 
 

 


「なんとか間に合いそうだね」
公園の坂を下りながらアスカに声をかけた。
学校までは半分あたりまできてる場所だろうか。
「そうね・・・ホント、アンタの所為でいっつも走ってばっかりよ」
「ごめん・・・」
「とりあえず謝ればいいってもんでもないんだから、もう少しスパッと起きて欲しいわね」
「あはは、がんばるよ」
ほぼ毎日走っているおかげなのか、走りながらでも会話ができている。
「このアタシが起こしてあげてるんだからね。ありがたいと思いなさいよ」
「うん、ありがとう」
隣を走るシンジの笑顔に一瞬みとれてしまうアスカ。
完全な不意打ちは笑顔に耐性のあるアスカも思わず赤くしてしまう。
走るスピードを上げるアスカ。
きっと赤くなっているであろう自分をシンジに見られたくはない。
「待ってよ、アスカ」
シンジは何か自分がアスカの気にさわることをしたため、
怒ってアスカが急にスピードを上げたのではないかと思い追いつこうとするが、
アスカの方が運動能力が高い為シンジが後を追うが追いつけない。
ただ、後になってキレられても困るので
とりあえず謝っておかなくちゃ、と思っているだけなのだが。
そういうわけでシンジの視線は前を行くアスカの背中しか見えてなかった。
ゴツン!!
交差点に入ったところで、シンジはいきなり頭に何かがぶつかったことを感じた。
斜め前のアスカの背中をみていた為、逆方向から出てきた何かに気が付かなかったのだ。
一瞬視界がブラックアウトし、次に見えたものは・・・・
「白?」
顔のわずか20cm前方の白い物体だった。
それがなにか認識する前に、彼の頬に痛みが走った。
「急いでるからこれで許してあげる。」
そう言って少女はシンジの視界から遠ざかっていった。
「白・・・」
目に入った物体も白ければ、今の女の子も肌が透き通るような白であった。
顔を赤くしたかわいい少女だった・・・のだがそれよりもシンジは
「白・・・」
こちらに気がいってしまっていたようである。
後に残されたシンジはアスカに張り倒されるまで呆然としていた。
当然ながら二人は遅刻した。

 

 




つづく




以前書いたものを設定から見直して書き直しました。
その時は「とにかくマヤにピッチャーをさせる」ってことを念頭に書いていたので、
野球させることを第1に書いてました。
中途半端でとめていたのですが、その時に作ったねるふ商店街の設定を
きっちり使ってもう一回1からやりなおしてみようと完全に書き直しました。
よって、各キャラの設定も前回と違うところもあります。
・・・といっても覚えてる人いないでしょうけど(^^;
感想、御意見がありましたら、こちらまで。




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