シンジが入院したその夜のこと。

「碇、ぜえれとの話し合いは終わったようだな。」

指令室(碇家の茶の間)で将棋盤を挟んで、ゲンドウとコウゾウがお茶を飲んでいた。

「ああ、問題ない。シナリオ通りだ。」

ゲンドウは歩を動かし、角道をあける。

「そうか、今年は野球になったか。」

それを受けて、飛車の頭の歩を上げるコウゾウ。

「今年勝てば、5連勝だ。」

銀を上げるゲンドウ。

ふたりが話しているのは、毎年行われている”ねるふ・ぜえれ親睦会”の競技種目についてである。

親睦会と言うと聞こえがいいが、その実ライバルといえる商店街同士の、お互いの

誇りをかけた戦いとなっているのが現状だ。

ゲンドウが碇家に養子としてはいり、組合の支配者となってからは、対戦成績

8勝5敗と勝ち越しており、近年は4連勝となっていた。

「ぜえれも野球にするとは・・・調査不足だな・・・」

角道を開けるコウゾウ。

「いや、ぜえれもそれなりの人材がいるらしい。老人達にも勝算はあるのだろうよ。」

コウゾウの手に合わせて、歩を上げるゲンドウ。

「お前はどうなのだ? シンジ君が怪我をすることは誤算だろう。」

「死んでいるわけではない。」

ニヤリとするゲンドウ。

ながく付き合っているコウゾウもこれは未だになれないようで、顔をしかめていた。

「なにを考えている、碇?」

と言うコウゾウのセリフと共に、勢いよく襖が開いた。

そこにはにこやかにしているユイが立っていた。

(危険度Aだ!)

ユイとは彼女が学生時代からの付き合いであるコウゾウは瞬時に彼女の気配を読み取った。

「やあ、ユイ君お邪魔してるよ。」

「いらっしゃい、冬月先生。今お茶をお入れしますね。」

「いや、もう帰るところだよ。」

立ち上がるコウゾウ。

「待て冬月。勝負の途中ではないか。」

なぜか顔中汗のゲンドウ。

「いや、また今度にしよう。じゃあユイ君、私はこれで。みおくりはいいよ。」

素早く出ていくコウゾウ。その後ろ姿をゲンドウはうらめしそうに見ていた・・・





ねるふ商店街のみなさん
  第5話  さいんはぶい?





シンジが入院した翌日。

閉店後の日の出食堂にて毎月の定例会が行われていた。

今日の議題は来月行われる、ぜえれとの親睦会についてである。

「種目は野球に決定した。詳細は配布した冊子を見てほしい。」

定例会はコウゾウが進行役となっている。

ゲンドウでは、「ああ」や「問題ない」でなかなか進まないからである。

「参加してもらうメンバーもこちらで選出済みだ。各人の参加を期待する。」

冊子にはメンバー一覧もついていた。

少なくとも、このイベントの参加を断るような人間はねるふ商店街にはいない。

それほどのイベントなのだ。

さらに、勝利すれば商店街あげてのお祭りさわぎもあり、1年で1番熱いイベントとも言える。

「冬月先生。今年のMVP賞や、敢闘賞が空欄になってますけど。」

アスカの母キョウコが発言した。

彼女も学生時代に冬月の講義を受けていた。

ちゃんと聞いていたかは疑問だが・・・。

「それは当日までの秘密だ・・・」

お約束のポーズでゲンドウが答える。

この賞は参加した選手に送られるもので、毎年かなりなものが送られていた。

選手達の原動力の一つをもなっているものだ。

「期待は裏切らないつもりだ・・・」

ニヤリとするゲンドウ。

しかし、今日の彼は包帯まみれでいまいち迫力に欠けたが、いつもより不気味さは120%アップであった。

そのあまりの不気味さに、MVP賞は一体なになのかと想像する一同。

ゲンドウが自信をもって秘密にする各賞品。親睦会への注目度はさらに高まるのであった。





「今年は野球なんだ・・・」

「そうだ。」

翌日、ゲンドウはシンジの病室に足を運んでいた。

「でも、これじゃあ今年は参加できないね。」

自分の吊られた脚を見るシンジ。

「問題ない。」

「無理だよ!こんな脚で野球なんて、できるわけないよ。」

「治療を受けろ。」

「無理だよ・・・治るわけないよ・・・」

そのシンジのセリフを聞くと、ゲンドウは待っていたかのようにニヤリを笑い、1枚の紙を差し出した。

「ならばこれにサインしろ。」

ゲンドウが差し出した紙は、保険の契約書なみに細かい文字でなにやらびっしりと埋まっていた。

「お前には今年はメンバーを支援・応援してもらう。それが参加承諾書だ。」

「こんなもの去年までなかったよね?」

「問題ない、サインするなら早くしろ。でなければ・・・・・・・」

ゲンドウが一瞬間をおく。

シンジはいつものごとく”帰れ”と言われるのだろうなと思っていたが、ゲンドウの口からでた言葉は想像を越えていた。

「アスカ君に説得してもらうことになる。」

ニヤリとしてゲンドウは言い放った。

その矢がシンジに突き刺さる。

アスカの説得というものは、シンジにとって一種の脅迫なのだ。

拒否権というものも存在しない。

シンジは無言でペンをとると、サインをした。たいして読みもせずに・・・。

ゲンドウはそれを受け取ると、ポケットにしまいこんだ。

「シンジ、早く治せよ。」

「うん、ありがとう父さん。」

シンジのセリフに陰ながらちょっと(相当)テレたゲンドウが病室を出ていった。

それを見送ったシンジが一息つくと、勢いよくドアが開いてあらたな来訪者がやってきた。

「バカシンジ!元気にしてる?」

「・・・・」

「シンちゃん元気〜」

「センセ、元気そうやの。」

「大勢でまたおじゃまするよ。」

「こんにちわ、碇君。」

学校帰りのアスカ、レイ、レナ、トウジ、ケンスケ、ヒカリの6人が入ってきた。

「さっき、そこでおじさまと会ったわよ。」

「うん、さっき親睦会のことを話してたんだ。」

「そないな怪我しとったら出られへんやろ。」

さっそくシンジのお見舞いの品を漁っているトウジ。

「うん、今年は出られそうにないよ。でも父さんの話だとマネージャーみたいなことをやるみたいだよ。」

シンジなりにさっきの話を理解したようだ。

「・・・・・・・・・・・(ぽっ)」

選手として参加することになっているレイは、シンジが自分にドリンクを渡してくれるシーンや、

怪我をした時に治療してくれたりするシーンを思い浮かべて顔を赤くしていた。

さらに妄想はふくらんで、試合に勝利した後の夕暮れのグラウンドで2つの影が重なっていたりもしていた。

「私は選手として参加よ。怪我したらよろしくね、シンちゃん。」

レナがベッドに腰掛ける。さすがに姉妹だけあって考えることは同じようだ。

「当然、私も選ばれてるわよ。しっかり応援しなさいよ!」

本当は自分だけを応援してほしいアスカ。

「私もマネージャーに選ばれたの、よろしくね。」

しかし、心はトウジの専属マネなヒカリ。

「俺はいつもどうり撮影係さ。」

カメラを構えるケンスケ。

「今年こそはシンジがおらへんだけにMVPはワシのもんじゃ。」

「えっ?去年ってシンちゃんがMVPだったの?」

レナが目を丸くする。

一通り親睦会の説明を受けていたレナは、選手に送られる賞のことも知っていた。

「こいつ、みかけによらずスポーツ万能なのよ。」

アスカがおもしろくなさそうに言う。

実際はシンジが活躍してうれしいのだが・・・。

「父さんに小さい頃から鍛えられてね。」

シンジが照れながら言う。

実際、シンジは幼少時よりゲンドウによって鍛えられていた。

それも半端ではなくだ。

怪しげなギブスでトレーニングしたりしたらしい。

それでいながら、筋肉質な体型にならないのは、謎である。

「そうなんだ・・・見たかったな、シンちゃんのプレー。」

レナ残念そうに言う。ちなみにレイはまだ妄想中だ。

「シンジ抜きでも今年は大丈夫だろ。野球ならウチはそうとう強いハズだぜ。」

ケンスケが携帯端末を取り出しながら言う。

「一応、今日の体育のソフトボールから、綾波とレナさんのデータをとったんだけど・・・」

カタカタと何かを入力すると表が表示された。

一体いつそんなデータを取ったのかは謎なのだが、それがケンスケがケンスケたる所以とも言える。

「これが一応の予想オーダーだな。」

一同(レイはまだ妄想中)はその画面に見入った。


1 センター   綾波レイ
2 サード    日向マコト
3 ファースト  青葉シゲル 
4 キャッチャー 葛城ミサト
5 ライト    鈴原トウジ
6 セカンド   惣流アスカ
7 ショート   綾波レナ 
8 レフト    赤木リツコ
9 ピッチャー  伊吹マヤ


「というのが予想オーダーかな?綾波の俊足は1番向きだし、レナさんの反射神経は

 守備に生かされるだろうから、こんなとこだろうな。本当ならシンジが4番サード

 が一番なんだけど、マヤさんの球はそう打てない。まず勝てるよ。」

「まっ、こんなとこね。」

「そうやな。」

アスカ・トウジも納得する。

「マヤさんて、あの優しそうなひとよね?そんなにすごい球を投げるの?」

来たばかりのレナは商店街の人々のことをよく知らない。

「5年位前に有名だったのよ。女子の参加も認められた選抜の予選で、快進撃をする

 K女学院のエースって。準決勝で負けちゃったけどね。」

リンゴを剥いていたヒカリが答えた。

「そうなんだ、人って本当にみかけによらないわね。」

「アンタ達姉妹だって今日はすごかったじゃない。」

珍しく他人をほめるアスカ。

「そや、レナはんの守備の反応のよさも凄かったけど、綾波の足の速さにもホンマ驚いたわ。」

「そうね、今年も勝てそうよね。」

剥き終わったリンゴに爪楊枝をさして、皿を差し出すヒカリ。

「あの、一つ気になることがあるんだけど。なんで親睦会でそんなにみんな燃えるの?」

今朝からの商店街の異様な盛り上がりから浮いていたレナの疑問であった。

「昔からやしなぁ」

「確かに昔からのお祭りだからね。よかったらビデオあるけど見る?」

「それって去年の?」

「そう、去年のを撮っておいたのがあるんだ。」

「見たい!シンちゃんの活躍シーンもあるんでしょ?」

「ああ、よかったらこれから見るかい?」

ケンスケの言葉にレナは即答する。

さらにはレイもひたすら頷いていた。




<つづく>


こんばんわ(こんにちわ・おはようございます)、せーりゅーです。
いつもながらの軽い”ねるふ商店街のみなさん”。
いかがでしたか?
短いというツッコミはかんべんしてください。
さて、次話は野球をまったく知らない方にはわかりにくい話となってしまいます。
では、また次話でおあいしましょう。



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