澄み渡った空。
朝のさわやかな風が全てをやさしく包んでいた。
電線で挨拶を交わすスズメも一日のスタートをさわやかに切っていることであろう。
彼らが挨拶を交わしている下をさわやかに(?)ランニングをする男がいた。
ねるふ商店街の支配者であり、指令と呼ばれる碇ゲンドウその人である。
その容姿や雰囲気からは察することができないほど、彼の生活は健康的だ。
毎朝のランニングとラジオ体操が彼の日課。
健全な精神は健全な肉体に宿る・・・・・・そう言ったのは誰なのだろうか?
そう思ってしまうほど、健全な生活を送っているのである。
河川敷のグラウンドに着くと、首にかけたタオルを使う。
めったに外すことのない色メガネを外して、何も通さずにそのグラウンドをみた。
今日ここで行われる決戦の行く末を思い浮かべる。
本人は決して口に出さないが、最も頼りにしていた戦力をフル活用できなかったのは痛い。
それでも、それなりの使い方は考えてあった。
そして切り札も・・・・・・・
ニヤリ・・・・・・・
その想像は、彼の望む結果になるようであった。
選手として活躍した時を思い出し、マウンドへ向かう。
ここを任せる人物はすでに決まっていた。
彼女の実力を十二分に発揮させる策もいくつか思案済みである。
タオルを右手にもつと、その場でピッチングフォームを朝日に披露した。
ねるふ商店街のみなさん 第8話 かいまく
「この朝で、終わりだからね!」
腰に手を当てたアスカが、朝食中の碇家食卓を直撃した。
すでに胸のところに”ねるふ商店街”と入ったユニフォームに身を包んでいる。
「わかってるわよ・・・・名残おしいけど・・・・」
ちょっと不満そうにレナが食事中。
その横では、レイがシンジに食べさせてもらっていた。
あの”地震でどっきり抱きついちゃった事件”において、被告惣流アスカ・碇シンジは
学校においてはごまかしに成功したものの、帰宅後の綾波姉妹の追及には屈してしまった。
そこでかわりに、シンジの作った食事をシンジにたべさせてもらうという要求をのまざるを得なくなったのだ。
今日の試合前までがその約束の有効期限。
「・・・たまごやき・・・」
頬をちょっと赤らめたレイが催促する。
シンジは箸でたまごやきをはさむと、レイの口元にもっていった。
「レイ、あーん。」
最近の日課的な行動だが、さすがになれるわけがなくシンジは顔を赤くしていた。
正しいご飯の食べさせ方マニュアルをレイ・レナが作成し、彼に渡していたのだ。
彼女達が何を参考にそのマニュアルを作成したのかは謎であるが、みごとに”新婚さんいらっしゃ〜い”・・・・・。
そんな新婚さんみたいなやりとりを目の前で繰り広げられては、アスカも当然おもしろくない。
毎晩母親特製の”ビッグ猿吉君”相手にスパーリングを行っていたため、最近からだのキレが増したようだ。
彼女がコークスクリューパンチを会得する日も遠くないかもしれない。
しかし、約束は約束である。
このくやしさは、試合までとっておくのよっ!
心の中でそのセリフを繰り返すアスカ。
これまでに毎日、何回心の中でそう叫んだことだろうか。
そこれもこれが最後となるであろうが。
その怒りの矛先となった猿吉君はちゃんとキョウコが治しておいてくれたので一応問題ない。
「やっぱ、順番後にしとくんだった・・・・」
昨日の夕食で権利が終了してしまったレナも残念そうだ。
レイの作戦勝ちか?
「シンジ、時間だ。」
黒い詰襟というねるふ商店街の支配者ルックに着替えたゲンドウがシンジを少しせかした。
決してこれから野球の試合に監督として出向く人間の格好ではない。
ピキーン!
刹那、レイの目が光ったように彼にはみえた。
それはどんな眼光にも(ユイを除く)屈したことのない彼を十分震撼さしめるものであった。
碇君との幸せな一時を邪魔しないで・・・・
まさにそう語っていた。
いや、実際ゲンドウの頭の中には彼女の声が響いていたのかもしれない。
この時シンジの視界にレイが入っていなかったことが、彼にとって幸運なのか不幸なのかは定かではない。
「そうだね。じゃあ最後、ヨーグルトだよ。」
スプーンをレイの口に差し出す。
分かる人にしか分からない笑顔を浮かべながら、レイはスプーンをくわえた。
シンジ達が球場に到着した時には、すでにギャラリーがひしめいていた。
両商店街とも今日は臨時休業である。
先に球場入りしていたメンバーがグラウンドでキャッチボールを行っていた。
「おはようございます。」
マネージャー洞木ヒカリがいち早く到着に気が付いて挨拶をする。
「おっはよ、ヒカリ。」
「はよ〜♪」
「・・・おは・・・・」
「おはよう、洞木さん。」
それぞれベンチに荷物をおいた。
ゲンドウは無言で冬月の隣に座る。
「碇、ゼーレは手段を選んでこなかったようだ。」
「問題ない・・・」
二人はゼーレ側のベンチを見て言葉をかわす。
そこにいるゼーレの選手は、全員どうみても日本人ではなかった。
「キール議長が実家を通じてドイツから出稼ぎを雇った。問題なく商店街の従業員だ。」
「ドイツのあの男からの情報か?」
「そうです。」
「で、勝算は?」
冬月の問いにゆっくりとサングラスを指で押し上げる。
「そのための”ねるふ”です。」
「ああ・・・・・・まぁ、お前を信じているさ。」
「ありがとうございます、冬月先生・・・」
そう言うとゲンドウは立ち上がった。
「全員、集合・・・・」
低い声が選手に届くと全員がベンチ前に集合した。
「冬月、説明を頼む。」
全員を見渡すとゲンドウは冬月にバトンをわたした。
監督らしく選手を呼んだだけである。
「みんな体調はいいみたいだな。」
「「「「ハイッ!」」」」
返事がこだまする。
モチベーションはすでに高まっているようだ。
「見てのとおり、相手はあれだ。」
全員が目標を肉眼で確認する。
「私は君達が勝つ事を信じている。だがあえて諸君に言い渡すことがある。」
全員が頷く。
「今日、勝てば祝勝会。負ければなしだ。」
神妙な顔つきで頷く一同。
「司令部から今年も勝つことを前提に、各種賞を出す予定だ。全力で勝ちとってほしい。以上だが・・・碇。」
ゆっくりとゲンドウがベンチから出た。
毎回恒例、試合前の訓示を行う。
「伊吹君。野球で大切なことはなんだ?」
「気合です!」
高校野球出身のマヤらしい答えであった。
「葛城君、キャッチャーとは・・・・監督の分身だ。私の意思を読め。」
「・・・・・はい・・・・」
苦笑いのミサト。
ヒゲの思考が読める人間は、ユイくらいではなかろうか?
「青葉君。野球とはなんだ?」
「愛です!!」
何故かマヤの方を見ながらそう力説するシゲル。
しかし、マヤは全然気がついていない。
「アスカ君、君はなんの為にここにいる?」
「勝つためよ!当然MVPも私のものなんだから!」
腰に手を当てて高らかに宣言するアスカ。
「日向君、ノーアウトランナー1塁。点差は1点、君の打順だ。」
「バントします!葛城さんにつなげればきっと返してくれますから。」
さりげなく視線をミサトに送るマコトであったが、ミサトはさっきの苦笑い状態からまだ戻ってなかった。
「レナ君。」
「シンちゃんが好きです♪」
どかっ!いっせいにグローブで叩かれた。
「誰もそんなこと聞いてないでしょ!」
「あはは〜」
レナはちらっとシンジの顔をみた。
当然ながら、完熟トマトになっていた。
そのシンジを見て、「シンちゃんかわいすぎますわ〜」といいながらビデオを回したくなったレナであったが
(タイトル レナちゃんの愛にこたえるシンちゃん♪〜完熟トマト編〜)そこは近くでこの映像をとっている
カメラマンに後からしっかりともらうつもりでいた。
「赤木君、野球とは?」
「ロジックじゃないわ・・・・」
筋書きのないドラマであることは認めているようだ。
なんといっても、圧倒的な戦力をもってしても勝つことができないことがあるほどだから・・・・
「レイ君、自分にとって野球とはなんだ?」
「絆、碇君との絆・・・・碇君の分までがんばる・・・・」
少女漫画で勉強したであろう、”がんばるポーズ”をとるレイ。
さすがにちょっと恥ずかしいみたいで、ほんのりと頬に朱が入っていた。
そんな売れること間違いなしの映像を撮りにがすことなかったカメラマンKのレンズはしっかりと彼女をとらえている。
そのレイのしぐさにさっきとは違った顔の染め方を見せるシンジ。
姉に技を教えた妹はちょっと後悔していた。
ちなみにアスカは試合のことに気がいっており、そんなことは気にしていなかった。
「鈴原君、勝ったら食べ放題だ。」
「おっしゃ!!」
トウジのモチベーションを上げるのは単純でよい。。
「出撃・・・・・」
「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」
力強く9人がホームベースめがけて走っていく。
すでに相手はそこに整列していた。
さすがに大きい。
「主審の時田です。今日はお互いに全力を出し合っていい試合をしてください。ではトスを。」
コインを投げ上げて手の甲で受け止める。
「表だ。」
「裏よ。」
ぜえれの主将らしき男とミサトが答える。
時田がかぶせた手を開けると・・・・・
「アスカ、どっちがいい?」
横にならんでいるムードメーカーに問い掛けるミサト。
「もちろん、後攻よ!後攻じゃないとサヨナラできないじゃない!」
実際接戦が予想されるだけに、この場合は後攻がいいのかもしれない。
そう考えていたミサトと一致した。
「ではこちらは後攻で。」
「我々が先攻だな。今日はお互いがんばろう。」
ドイツからの助っ人にしては流暢な日本語だ。
ミサトと向かい合って並んでいる男が握手を交わす。
「ではがんばってください。」
「「「「「「おねがいします!!」」」」」」
互いに例をするとベンチに下がるぜえれと、守備位置に散っていくねるふ。
マウンドに立ったマヤは大きく深呼吸をした。
そして軽い投球練習を始める。
「伊吹君はよさそうだな。」
「ああ。」
ベンチでその様子を見ていた二人は頷きあっていた。
向かい側の1塁側ベンチでもモノリスが思案にふけっていた。
意を決すると、全選手を集める。
指示が行き渡ると、1番バッターが打席に入った。
<つづく>
こんばんわ、せーりゅーです。
久しぶりの更新となりました。
やっと野球が始まる♪
いろいろとわかりにくいネタつかっちゃいますけど、
またおついあいしていただけるとうれしいです。