「あうー、あうー。」

とてとてと真琴が祐一のそばによってくる。

日曜の昼下がり。

くだらない番組を見ていた祐一はその眠そうな目を真琴にむけた。

「なんだ?」

「あうー、あうー、あうー。」

真琴は手をパタパタと動かす。

「あうー、あうー、あうあうー!」

「だからなんだよ。」

祐一は、ばかにされているように思えて、口調に少し怒りが含まれる。

「あう〜・・・・・」

涙目になって真琴はうつむく。

「????」

その様子におかしなものを感じた祐一は、ソファから起き上がると彼女の前に立つ。

「真琴?」

祐一の言葉に真琴は顔を上げる。

瞳には涙がたまっている。

「あう〜.」

しかしその口から出る言葉はそれであった。

「真琴・・・・まさかそれしか言えなくなったのか?」

あう〜、といいながら頷く真琴。

「いつからだ?起きたらそうなってたのか?」

こくんと頷く真琴。

「なにか心当たりはあるか?」

祐一の問いに真琴はしばらく考え込むが首をふるふると横に振る。

「そうか、とりあえず病院だな。」

その言葉に真琴はびくりとする。

以前、風邪をひいたときに病院で注射を打たれて以来、病院嫌いになった彼女。

あわてて自分の部屋に逃げ込もうとするが、その腕を祐一がしっかりとつかむ。

「あう〜・・・・・・」

真琴はなんと言いたかったのだろうか?







にくまんの価値は





「それで、お医者さまにも原因が分からなかったのね。」

水瀬家のリビングでは家族会議が行われていた。

「ええ、そうなんです。」

祐一は真琴の頭をなでる。

「イチゴサンデー食べたら治るかも・・・」

「治るかい!」

祐一はスリッパで名雪の頭をはたく。

「あらあら、祐一さんそんなことをしたら名雪が余計におばかになっちゃいますよ。」

にこやかに秋子さんが言う。

「すでに救いようがないと思いますが・・・」

「それもそうね。」

お互いにお茶に手を伸ばして、それをすする。

「お茶はいいですね〜。日本文化の極みですよ。」

「ほんとね。」

さらに熱いお茶をすする2人。

「って、なごんでる場合じゃないですよ秋子さん!」

「祐一さんもしっかりなごんでいたみたいだったけど?」

言葉につまる祐一。

「とにかく、医者にも分からない病気なんですよ。」

体勢を立て直し、祐一は真剣な表情をする。

「となると・・・・・呪いとか、たたり関係かしら?」

「そんなものあるんですか?」

「世の中にはいろんなことがあるのよ。」

真琴の方をちらりとみる秋子。

その視線に祐一も頷く。

「とりえず、お祓いに行ってらっしゃい。なにか効果があるかもしれないわよ。」

「そうですね。とりあえず行ってきます。」

祐一は隣で疲れて眠っていた真琴に声をかけると、ひきずるように連れ出した。

実際、引きずっていたのだが・・・・・・









近くの神社に着いた祐一はさっそく社務所を訪ねた。

そこにはなぜか見知った顔があった。

「あら、相沢君どうしたの?」

「香里こそ、その格好はなんなんだ?」

「見て分からない?巫女よ。巫女のバイトしてるの。」

白と赤のコントラストがまぶしい香里の巫女姿であった。

「お祓いを頼みたいのだけど、神主さんはいるか?」

「ちょっとまってね・・・」

そういうと香里は奥に向かう。

少しして彼女は戻ってくると、祐一達を奥へ案内していった。

それらしい部屋に通された祐一達の前には、それらしいじいさんが座っていた。

祐一はその前に正座をして座った。

真琴も祐一のまねをしてすわる。

「私がこの神社の神主をつとめている、柾木勝仁と申します。さてさっそくですが、

 詳しくお話していただきましょうか。」

祐一は自分の分かっている範囲で説明をした。

「ふむ・・・・確かにそのお嬢さんにはなにか力が働いているようですの。」

老人とは思えないような鋭い視線が真琴をとらえていた。

「とりあえず、祓ってみましょう。」

神主は立ち上がると、真琴の前に立ちお祓いを始めた。

その真琴はというと、はやくも脚がしびれてきたらしい。

もぞもぞとしている。祐一ががまんしろと言うが、真琴には耐えられないようだ。

「足は崩してもいいわよ。」

後ろにいた香里がそっと祐一にささやいた。

祐一は正座を崩し、楽な姿勢になった。

真琴もそれにならう。

それから10分ほどしてだろうか、神主の表情は険しいものとなっていた。

「どうやらこのお嬢さんは、バチを受けたらしいのぉ。」

「バチですか?」

「そうじゃ。地蔵様か、社に何かしたんじゃないのかね?」

「そうなのか、真琴?」

真琴はふるふると首をふる。

「とにかく、その何かに対してあやまらない限り、言葉を話せないじゃろ。」

「どうしたらいいんでしょう、神主様。」

「そのお嬢さんの最近の足取りをおうことじゃな。

 どこかでバチあたりなことをしておるはずじゃよ。」

かくして翌日、祐一は学校を自主休校して真琴と出かけたのだった。

本屋、公園、コンビニと回って(途中でにくまんを買わされた祐一・・・)、

たどりついたのは、”ものみの丘”の下にあるお地蔵様であった。

だがそこには先客がいた。

「栞じゃないか、何してるんだこんなところで?」

そこの木の下には栞が座り込んでいた。

「祐一さん・・・・サボリですか?だめですよ。」

「そういうこと言うひと嫌いです。」

祐一が栞の口調のマネをしてみせる。

「そういう意地悪なひと、嫌いです。」

本家がセリフを返す。プイッと横を向く栞。

「悪い悪い、今度アイスおごるからさ。」

両手を合わせる祐一。その様子をちらっと横目でみる栞。

「約束ですよ。」

お姫様の機嫌が治ったようだ。

「それよりも栞は何やってたんだ?」

「えっと・・・お地蔵様にお願いしてたんです。」

「どんな?」

「それは秘密です。」

頬を赤らねて栞が答える。

そのお地蔵様の前にはアイスが置いてあった。

「まさか、そのアイスがお供えものなのか?」

「はい、だって自分の一番好きなものが1番喜ばれるかなと思って・・・

 毎日1つずつお供えしてるんです。」

「毎日通ってるのか?」

「はい。2日前以外はちゃんとアイスをもってきてますよ。」

その栞の言葉にひっかかりを感じた祐一。

「2日前はこなかったのか?」

「いいえ、ただアイスをもってこれなかったからかわりにコンビニでにくまんを買ってきたんですよ。」

2日前+にくまん・・・・・・

祐一の頭の中ですべてのパズルのピースが合わさった。

「謎はすべて解けた!!」

というほどの謎ではなかったが、祐一は心の中でそう叫んだ。

きっと天国のじっちゃんも微笑んでいることであろう。

「真琴、お前一昨日にここでにくまんを食べただろう。」

ふるふると首を振る真琴。

「怒ったりしないから正直に答えてくれよ。」

祐一の目を見ていた真琴はやがてこくんを頷いた。



















「こん、ばかたれが〜〜〜!!!」

それから祐一は真琴にお地蔵様についてひたすら語り、

真琴がそれを理解し謝ったことで、しゃべれるようになったとさ。





教訓:お地蔵様は大切に・・・





あとがき

真琴にあう〜しか喋らせない。
この一点からこれを書きました。
できは・・・・・よくないですね・・・・・・・
次回はうぐぅかな?(うそです)



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