Kanon祭 企画第1週 名雪シナリオ




「明日なんだ。」

『うん♪』

電話の向こうの名雪は、夜だというのに声が明るい。

非常にめずらしいことかな。

それほどにうれしいことなのだろう。

いつもならこの時間の名雪から、ここまで歯切れのいい言葉は返ってこない。

それどころか、話の途中に「くー」と眠りだしてしまうほど。

とても失礼なことだけど、名雪のことは少しはわかったつもりだから、

あたしは怒りというよりも、名雪らしいとある種の納得を覚えてしまう。

いつも夜の電話は名雪が寝ておしまいなのだけど、

今日はそういうわけにもいきそうにない。

その話題の主役は、名雪の従兄弟君”相沢祐一”。

いろんな折にその子の話は聞いていただけに、相沢祐一という人物が気になってはいた。

「いつ来るの?」

『明日の1時に駅で待ち合わせだよ。』

「名雪が迎えに行くの?」

『うん・・・・』

そう答えたのが恥ずかしかったのか、名雪のトーンが下がった。

名雪の気持ちはもうバレバレだから、そんなに気にしなくてもいいのに・・・。

いつもあんなにうれしそうに、楽しそうに彼のことを話されるとさすがに誰でも気づくわよ?

クスッ。

思わず笑ってしまった。

『何かおもしろいことでもあったの?』

「ううん、なんでもない。」

名雪のぽけぽけ気味にさらに笑いがこぼれた。

『む〜、気になるよ〜』

「そんなことより名雪。そろそろ寝ないと、明日遅刻しちゃうわよ。」

名雪の追求をかわすために、時計を確認させた。

『えっ!?・・・・・もうこんな時間なんだ・・・・・』

やっぱり名雪は時間のことを忘れてしまっていたらしい。

名雪のこういうところも好きだ。

私もこれくらい素直になりたい・・・・そう思う。

『ごめん〜、もう寝るね。』

「ちゃんと部屋で寝なさいよ。」

『わかってるよ〜。おやすみ、香里。』

「おやすみ、ちゃんと起きるのよ。」

受話器をそっと置いた。

あの子、本当に起きれるかしら?

さすがに不安になってきた。

ちゃんと時間どうりに迎えに行けたか、確認にいこうかな・・・・・

明日は予定もないし、何よりも相沢君のこともどんな人か気になるし・・・・

うん、いくことにしよう。

そう決めると、私もすでに名雪がそうしているであろう、布団に入ることにした。










翌日、12時30分にロータリーが見える喫茶店に私は入った。

最近できた店で、雰囲気がいいのがウリ。

あたしは運良く空いていた窓際の席に座り、ミルクティーを注文した。

ロータリーの様子が良く見える。

もちろん、ここに座っていると名雪に気がつかれる可能性があることは気づいていた。

そのため、大きめのダテメガネをかけてきた。

普通の人なら気がつきそうだけど、名雪なら大丈夫。

付き合いからそう考えた。むしろ、へんにこった方が危ない気さえする。

お店の窓ガラスに映る変装した自分を再確認した。

バレたら、イチゴサンデーで誤魔化せばいいか・・・・・・

あたしはただ待っているだけでは暇なので、持ってきた文庫本を読み出した。

そして1時になった。

少し前からベンチに男の子が座っていた。

なんとなくあの子かと思ったけど、まだ確信をもてなかった。

とくに美形とかいうわけではないみたいね・・・・・。

あたしは彼が本当に名雪の相沢祐一君なのか気になりだした。

ベンチに座ってぼーっとしている。

ときおり、口をあけて雪を食べているみたい。

外は雪が降っていて、寒い。

でも彼はそこを動かなかった。

2時になった。

彼はまだベンチに座っている。

あたしはなんとなく確信に近いものを得ていた。

彼が相沢祐一君であろうと。

名雪から聞いていたとおりの人に見えたから。

あのつまらなそうに空を見上げているところとか、

多分、連絡先を控え忘れたであろうところとか、

雪の降るなか、ずっとその場所にいるところとか・・・・・。

なによりも、あたしのカンがそういっている。

彼の頭には少し雪が積もっている。

やはり名雪は寝坊したようだ。

それとも、1度起きてお昼寝したままなのだろうか?

なんにせよ、彼は名雪が来るまで待つと思う。

私はミルクティーのおかわりを頼んで、彼と一緒に名雪を待つことにした。







もう、3時になる。

彼の頭には雪が積もっていた。

名雪が来る前に彼に会うのはいけないと思って、声をかけまいとしていたけど、

このままでは彼が風邪をひいてしまいそうなので、あたしは伝票を持って立ち上がろうとした。

けど、その必要はなかったみたい。

名雪が彼のそばに立ち、缶コーヒーを手渡していた。

思わずほっとして、胸をなでおろす。

なんで私がこんなに安心しなくちゃいけないのかしら?

自分にあきれて笑いがこみあげてきた。

さて、学校が始まったら紹介してもらえるかな?

あたしは少し下がったダテメガネを押し上げると、伝票を持ってキャッシャーに向かった。

外は雪が静かに降り積もっていた・・・・・・・・







あとがき

ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
せーりゅーと申します。
いかがでしたか?
名雪シナリオなのに、香里SSに仕上がっています(笑)。
たぶん、名雪シナリオを扱ったということでOKだと思いますが・・・・・・・
さて、香里と名雪の電話〜というところから書いてみました。
本編からして、名雪が祐一のことを香里にくわしく話していた・・・とは考えにくいのですが、
こういうのもいいかな?やっぱり好きな男の子の話はするんじゃないか?
別れの時の事件からもずっと祐一のことが好きだった名雪なら・・・そう思って書きました。
時間があれば、最終日までに名雪シナリオの感想を書いて投稿したいと
思っていますがちょいと厳しいので、これを読んでくださった方。
時間がおありでしたら、参加型コンテンツのチャットで名雪について
語りましょう♪



PS.香里に大きめのダテメガネというのは似合うのかな?