その日も雪が降っていた。

「今日は冷えるな〜。」

公園の一角でたいやきを売って生計を立てている屋台のおやじ。

今日は残念ながら、予定ほど売れていなかった。

「冷えるな〜・・・・・」

懐も寒いおやじ。

なかなか客もこない。

「今日はもう、店しめるか・・・・・。」

最近近くにたいやき屋台ができたため、売上は激減している現状。

味には自信があった。

しかし、相手はわけのわからないたいやきを売り物にしている。

その物珍しさからか、客はそちらへ流れていった。

もともと、学校帰りの学生や主婦相手の商売だ。

目新しいものがあればみなそちらへ行ってしまう。

たいやきは”あん”だ!

と頑固一徹なおやじの屋台が飽きられるのも無理はない。

わざわざあんを作るために、有名な和菓子職人に弟子入りしたこともあるほどだ。

が、やはり同じものではあきがくるらしい。

時代なのか・・・。

自分が一番口にしたくないセリフが自然と出てくる。

鉄板上の焼きたてのたいやきに見入る。

自分は間違っていない。

そう言い聞かせる。

しかし、なぜだろう?涙が出てくる。

首からかけていた手ぬぐいで、その涙をふき取る。

そして、人のいないさみしい公園を見る。

つもりであったが・・・・・・・小学生くらいの女の子が視界に入った。

当然だ。屋台の前にたって、じっとたいやきを見つめているのだ。

「お嬢ちゃん、たいやきがほしいのかい?」

おやじなりの笑顔で迎える。

「おいしそうだね。いい匂いだよ。」

彼には少女の瞳が輝いているように見えた。

たいやき職人だけが会得できるという、”たいやきサーチ”で

この少女が無類のたいやき好きということは一瞬で分かっていた。

「いくつ欲しい?」

「・・・・あるだけ。」

少女の瞳にはたいやきしか映っていない。

そんな少女の姿がうれしくて彼は袋に焼きたてのたいやきをつめてやる。

もちろん、少し前に焼けたものもあったが、この少女には焼きたてのもの

を食べさせたかったのだ。

さっそく紙袋からたいやきをひとつとりだして口に入れる少女。

「うぐぅ、おいしいよぉ♪」

本当にいい笑顔でたいやきを食べる少女だった。

「ありがとう、おじさん。今おさいふないから、今度はらうね♪」

たいやきをくわえて、少女はダッシュで公園から出て行こうとする。

一瞬あっけにとられたおやじ。

が、さすがに人生経験豊富な彼はすぐに硬直から脱出した。

「食い逃げか〜!」












翌日。

いつものように屋台を開いているおやじ。

昨日はあの女の子を追いかけてるうちに日が暮れて、商売にならなかった。

今日は気合を入れてがんばろうと、せっせとたいやきを焼くが客足はよくない。

焼きあがったたいやきをかじる。

この味だ。

俺が出したい味にちゃんと仕上がっている。

しかし、売れない・・・・・・。

実際、このおやじの焼くたいやきは非常においしい。

そこらのたいやきとはレベルが違った。

だが、売れない。

ちょっと変わったものに、若者は惹かれていく。

話題に上れば、主婦もそちらへ行ってしまう。

味だけでは勝負できないのだろうか?

「おじちゃん、たいやきちょうだい。」

かわいい女の子が手におこずかいの100円玉をにぎってくる。

その後ろの男の子も目をキラキラさせて、待ってやがる。

そんな子供達をみたのはもう、いつのことだったろうか?

南から流れ流れてきた、北の街・・・・・ここが俺の店じまいの地なのか?

思い出した過去に思わず涙ぐんでしまったおやじ。

「けむりがしみただけさ。」

誰にいうでもなくつぶやく。

「うぐぅ・・・・・・」

誰もいないはずの店の前に、昨日の少女がいた。

「じょ、じょうちゃん!?いつから!?」

すばやく涙をふき取るおやじ。

「さっき・・・・・」

しかし、少女の目には鉄板しか入っていないようだ。

「おじさん、たいやきください♪」

そこには、あの日の無垢な笑顔があった。

「いくつだい?」

「あるだけ♪」

なにも考えなくても、体が少女の声に反応する。

真っ白な紙袋にたいやきを詰める。

「ほらっ。」

「ありがとう、おじさん。今日も財布忘れたから今度はらうね〜。」

袋を抱えてスキップしていく少女。

「ああ、きぃーつけて・・・・・って、またかい!!!」

ダッシュで少女を追いかけるおやじ。

しかし、その顔にうかんでいるのはなぜか怒りの表情ではなかった。











あれから数日がたった。

相変わらず、たいやきの売れはよくない。

「ふぅ〜・・・・・」

最近ため息が増えてきたような気がするおやじ。

白い息と同じ色をした白髪がおやじの苦労を主張しているかのようであった。

「おじさん・・・・・・・」

「おっ、いらっしゃ・・・・・」

そこには、食い逃げ犯がいた。

「ごめんね、今日もお財布わすれちゃって、これだけしかもってないんだ。」

握った手を差し出す少女。

ゆっくりとその手を開いた。

その上には色あせた100円硬貨が一枚。

しばし無言でその手をじっとみていたおやじ。

たいやきを売ることが楽しかった日々が蘇ってきた。

無邪気な子供が、母親からもらったおこずかいでたいやきを買いにきてくれたこと。

毎日公園のベンチでたいやき片手に小説を読んでいる女子高生こと。

いつのまにか、彼氏ができてたっけ・・・・・・。

たいやきを食べていた妊婦が急な陣痛をおこしたこと。

確かあの亭主、その時生まれた息子に”たいき”って名前つけたって聞いたな・・・・・。

楽しかった日々・・・・・

そう、あの頃は充実していた。

お客も笑顔。

自分も笑顔だった。

それが今はどうだ?

ため息ばかりで、覇気のない自分。

たいやきのあたたかさは、できたての暖かさだけじゃない。

修行時代に師匠がそういってたことが急に思い出された。

今、その意味がやっとわかった気がした。

そう思えたおやじは、いつもの白い袋にたいやきをひとついれた。

「ほら、前の分はこんど払ってくれればいいから。」

「うぐぅ、ありがとうおじさん。」

最高の笑顔で紙袋を受け取る少女。

「いいや、こっちこそおじょうちゃんに礼をいわなきゃな。探していたものがみつかった礼をな。」

「そう・・・なんだ。」

一転して暗い表情になった少女。

「どうしたんだい!?」

「ううん・・・なんでもないよ。ただ、ボクの探し物はみつかるのかなって・・・」

「きっとみつかるぜ。おじょうちゃんなら」

自分でも驚くような、穏やかでやさしい声が出た。

「うん・・・そうだね。きっとみつかるよね♪」

「ああ。必ずだ。」

「ありがとうおじさん。また来るね〜」

去っていく少女に手を振るおやじ。

やがてその羽が見えなくなった。

「さて・・・と。おじょうちゃんが次来たときには、もっとうまいたいやき食わしたらんとな。」

はちまきを締めなおし、鉄板を掃除する。

そして生地をひいて、特製のあんをのせる。

生地に火がとおるのを待つ間のおやじの表情は、今までのような厳しい表情はない。

やがて、こげめもついていいにおいがしだしたころ・・・・

「おじちゃん、たいやきひとつください!」

仲の良さそうな兄妹が笑顔でやってきた。






END




あとがき

たまにはこんなのもいいかな?と思い書いてみました。
こんばんわ、せーりゅーです。
連載そっちのけに、書いてしまいました。
いかがでしたか?
ちなみに私のすきなたいやきは、”クリーム”です。
近くのスーパーに買い物に行ったときは、必ず買ってます。
みなさんは、どんなたいやきが好きですか?
感想ついでに教えてください〜。