「みなさん、こんにちわ。月宮あゆです☆」

テレビ画面一杯に、にこやかなかわいい女の子が映る。

なぜか背中には羽がついている彼女は、去年から契約したアイドル”月宮あゆ”である。

歌が特別うまいわけでもなく、演技がうまいわけでもないが、

その愛らしさと、”うぐぅ”というセリフでブレイクしたタレントである。

「今日はみごと朝日杯を勝ち、今年G1をなんと9勝している相沢騎手に

 インタビューします。相沢さん、2週連続のG1制覇おめでとうございます。」

「ありがとうございます。ワンダー・アイスそれに関係者のみなさんのおかげです。」

「それにしても、今年はこれまで相沢さんが”シオリン”の馬に乗った時の

 成績はすごいですね。やはりうわさされているとうり”愛”の力ですか?」

なんだか質問している彼女の笑顔がひきつっている。

ポーカーフェイスのできない彼女。

実は小学生のころから、祐一君にラブだったりする。

「そうなんですか?」

しらじらしく祐一は答える。

もちろんこんなことは祐一だってわかっている。

なぜなら、”シオリン”という馬に乗っているのは祐一のみだからだ。

その”シオリン”の冠名を持つ馬が今年5頭いる。

”シオリンファースト”。祐一が初勝利を挙げたのは、この馬の初戦だった。

その後、500万、オープン、朝日CCを勝ち・天皇賞ハナ差2着。

当時の最強馬”ダンストゥギャザ”を見事おいつめた。

そして有馬記念をまっている中間に骨折。復帰後には宝塚記念・秋天を勝ち、

今年の有馬記念を狙う現役最強馬である。9戦8勝。

”シオリンフラワー”。祐一が初G1勝利を挙げた馬である。

祐一がG1に騎乗できる勝ち鞍をあげたのが、6月の東京開催であった。

そして、その年の秋華賞においてみごとにG1初騎乗、初勝利をあげたのだった。

フラワーで今年はすでにエリザベス女王杯・安田記念を勝っている。

最強の女王だが、昨年2着した有馬記念には出走しない模様。

今年で引退との噂もあり。10戦8勝。

”シオリンクラウン”。今年の皐月・ダービー馬。三冠最後の菊花賞は、

距離の壁か最後の伸びを欠き”ゲンスイフ”に逃げ切られることとなった。

現在は菊の疲れが大きいとのことで、放牧中。6戦5勝。

”シオリンアイス”。新馬・500万を大楽勝し、圧倒的1番人気のもと、

阪神3歳ステークスを勝った”女王の後継者”とよばれる馬。

”シオリンワンダー”。これについては1話参照のこと。

「シオリンの冠名の馬に乗ってるのも相沢騎手だけなんですよね。」

「そぉなんですか・・・」

あゆがジト目で祐一を睨む。

だんだん雲行きがあやしくなってきた。

だが、ディレクターは止めない。

むしろヤレ!である。

「そおだよ、祐一君わかってるの!あの子にだまされちゃだめだよ!!」

口調がレポーターモードから通常モードに戻ってしまっている。

「どうせ、シオリンだけじゃなくてこっちのしおりんにも乗って、なんて誘惑

 されてるにきまってるんだよ!」

あゆ、暴走モード・・・

「そりゃぁ、ボクも発育はよくないし、色気なんてものとは無縁だけど、

 栞ちゃんよりは自信があるもん。」

と胸をはってみせる。確かに栞よりはありそうだ。

「それとも祐一君はない方がいいの?」

確かに世の中には、あまりない方がいいという漢もいる。

「だから・・・・・・・なんでこうなるんだ?今週のレースインタビューじゃ

 なかったのか?仕事だろう?」

さすがに祐一は、こういう展開に慣れていた。あゆの頭にポンと手を置く。

そしてどこにもっていたのか、たいやきを取り出しあゆの口に突っ込む。

「・・・もぐもぐ・・・・・うぐぅ・・・熱くなってたよ。ごめんね祐一君・・・」

祐一の言葉(むしろたいやきにか?)に自分をとりもどすあゆ。

が、

「なら冷やしてあげますね♪」

突如あゆにふりつもる雪。

一瞬にしてあゆは雪にうもれる。

「よく冷えましたか?アーパーアイドルがインタビューの仕事なんて10年

 早いということですね♪」

カメラが声の主を捕らえる。

その人物が右手をふると、厩舎の屋根にいた黒子らしき2人組が消えた。

世に有名な”美坂栞隠密部隊”である。

隠密が有名なのはマズイのだが、隠密とは名ばかりで、今回のように栞の

さまざまな命令(なさけない任務ばかりだが)を忠実に実行する最高の裏方である。

「確かに冷えたよ・・・・・・」

雪の山から声がし、あゆが這って出てくる。

そして、立ちあがったかと思ったら、おもむろに祐一の方に倒れこんだ。

「冷えすぎて寒いよ、祐一君・・・・・・・・ボクを暖めてよ・・・」

栞の作戦を逆手にとったあゆの行動である。

あゆを受け止めた祐一はこれをどうおさめようかと思案にくれるのであった・・・




Kanon連載SS ターフに咲く恋の花?  第2R




朝日杯を圧勝した祐一は年間G1勝利10勝に王手をかけていた。

残る最後のG1有馬記念を勝てば、10勝目が手に入る。

その有馬記念の騎乗予定馬は、現役最強馬シオリンファーストである。

水曜日にその最終追いきりが行われた。

その結果は・・・・・・・万全である。

秋の天皇賞から間隔が開いたが、仕上がりはいいようだ。

名調教師である父の跡を継いだ水瀬秋子師の調整に狂いはなかった。

がぜん年間10勝が期待されるムードとなった。

その対抗馬は、菊花賞を逃げ切った”ゲンスイフ”。

鞍上は「男は黙って出ムチ」と公言する山本騎手。

菊花賞の後は有馬記念を目指して調整され、55キロでの逃げに期待がかかる。




そしてレース当日・・・




「とま〜れ〜〜〜」

パドックで周回を続けていた馬たちがとまり、騎手が騎乗する。

「名雪、ごくろーさん。」

シオリンファーストの手綱を引いていた名雪は祐一を笑顔で迎える。

今日はファーストの厩務員”大工源三”が体調不良にため、名雪がかわって、手綱を引いていた。

そんな2人の様子を、他の馬主と社交事例の見本のようなあいさつをかわしていた

栞がしっかりと見ていた。

やはり、あの光景を見るのは辛いものがあった。

祐一に自分の馬で勝ってほしいだけに、自分が一番信頼をおける厩舎に馬を

預けるとなると、やはり水瀬厩舎しかない。自分に競馬の事を教えてくれ、

セリ市にもよく同行する名伯楽の娘の厩舎に預けるのは当然といえる。

騎手を乗せてパドックの周回をはじめる各馬。

現在1番人気は現役最強馬シオリンファースト 2.3倍

2番人気に菊花賞馬ゲンスイフ 3.8倍

3番人気に春の天皇賞馬カラーディスプレイ 4.6倍

4番人気にJC2着のロジスティクス 7.7倍

5番人気に今期不調、去年の秋の天皇賞馬、ダンストゥギャザ 10.2倍

となっている。

パドックで祐一がみているのはゲンスイフ。

三冠最後を阻んだ馬。今度は逃げきらせるものかと燃えている。

すでにカラーディスプレイとは宝塚記念、秋天で対戦して勝負づけは終っている。

ロジスティクスは祐一の目から見て、JC当時ほどのデキにはなくみえた。

ダンストゥギャザは、夏秋の一連のレースからもう力が落ちていると考え、

敵をゲンスイフ1頭に絞っていた。

そしてある策を練っていたのだった。





「さあ、暮れの中山。今年最後のグランプリを制すのは一体どの馬か?

 今年最後のファンファーレが鳴ります!」

中山競馬場をファンファーレとファンファーレ以上のファンの手拍子と歓声が包む。


枠順


「さあ、順に枠に入っていきます。大窪さん、最後にまとめてください。」

「現役最強馬シオリンファーストの差し脚と菊花賞を逃げ切ったゲンスイフの

 逃げがどうなるかといったところでしょうか?ゲンスイフも菊花賞の時より

 マークがきつくなるでしょうから、そううまく運べるとは思えません。

 しかし、なにがなんでも行くという馬がいないようで展開は向くと思います。

 他では、春の天皇賞馬カラーディスプレイやJCで日本馬最先着である2着の

 ロジスティクスは牝馬ながら力強いです。夏の札幌から不調続きの

 ダンストゥギャザは稽古は動いているのでいつ走ってもおかしくありません。

 ですが、地力でシオリンファーストが1歩出ている感じですね。」

「ありがとうございます。ゲートに最後のケイマルチェーンがひかれていきます。

 さあ、係員がはなれて・・・・・・・スタートしました!ゲンスイフ好スタート!

 出ムチをいれて後続を引き離しにかかります。後続は現在ほぼ一団となっていますが、

 シオリンファースト早めの2番手につけている。今日は好位からではなく、先行していく

 模様です。その後ろにパットン。さらにはプリンセストレイン、パワーゲイザーと続きます。

 先頭のゲンスイフが3コーナーをカーブしていきます。荒れた内を嫌い、

 そとめをまわる各馬。1週目のスタンド前に各馬やってきました。歓声が各馬を

 後押しします。ここでポジションの確認をしましょう。先頭はゲンスイフ。後続に

 6〜7馬身の差をつけてハナを切っています。2番手は外からかかりぎみにパットン。

 その内に現在G19勝の相沢鞍上3番シオリンファーストが行きます。

 相沢、今度はゲンスイフを逃がさない構えだ!直後に並んでプリンセストレインとパワーゲイザー、

 外からJC2着のロジスティクスとファーミニャ。その後ろに4番マーケティング、ピンアクション、

 ドライブイン、イレイザードラゴンと続き、少し切れまして春の天皇賞馬・カラーディスプレイ。

 鞍上伊藤は本日すでに4勝と絶好調!それをマークするようにダンストゥギャザ。

 さらには後方3頭一団、ケイマルチェーン・クロペン、最後方にマーケットリサーチです。」

レースは大方の予想道りの展開となった。唯一、シオリンファーストが前での競馬をしていることを除いて。

先頭をひた走るゲンスイフはコーナーを利してさらにリードを広げた。

その差はすでに9馬身以上。

祐一は機会をうかがっていた。

彼の今回の作戦は”早めに仕掛けて並びかける”である。

もともと他馬に並ばれると競馬をやめてしまうゲンスイフであったが、

テンが速くなく、楽に逃げれる長距離で才能が開花し、菊花賞を制覇できたのだ。

つまり、並んでしまえばゲンスイフを競り落とす事は容易であるということである。

しかし、早め仕掛けは後ろの差し馬の絶好の的だ。

そのため、祐一は仕掛ける一瞬のタイミングを狙っていた。

敵は前のゲンスイフと、後ろのカラーディスプレイ。

前と後ろとの距離を測る。

ゲンスイフを直線残り100Mで捕らえるのが狙いだ。

そしてついに待っていたタイミングがやって来た。

GOサインを送る祐一。

それに答え、シオリンファーストは加速する。

「シオリンファーストが上がっていった!連れて後続も上がっていく!ゲンスイフは手が激しく動いている!

 2頭の差がなくなっていって、直線に入った!先頭はゲンスイフ、後続とは3馬身ほど!

 2番手からシオリンファーストが上がってくる。さらに外からカラーディスプレイだ!

 シオリンファーストが前を捕らえて先頭に立った!が、外からカラーディスプレイ、

 さらに大外からダンストゥギャザも凄い脚で追いこんでくる!!先頭シオリンファースト!

 2番手にダンスが上がってきた、さらに先頭を伺う!懸命の追い比べ!!内シオリン、外ダンス!

 カラーディスプレイも来ている!ダンスがかわした!かわした!半馬身ほど出てゴールイン!!!

 ダンストゥギャザ、花道を飾った!!!」

小さくガッツポーズをする鞍上北川。

北川潤が初G1を制した瞬間であった。



着順





<つづきます!>


ふい〜・・・・・やっとあがったよ・・・・・
どうも、せーりゅーです。
”ターフに咲く恋の花?”第2話お送りいたします。
今回、あゆを出しました。
予定どうりの使い方です。
これで残るはあの2人となりましたが、次回あたりで登場予定となっております。
香里「ちょっとせーりゅー君、あと2人って誰のこと?」
それはもちろん・・・・・・・・って香里忘れてた!(爆)
香里「そうよ!真のヒロインの私を忘れるなんてどうかしてるわ。」
いや、今回貴方は真のヒロインでも影のヒロインでもないのですが・・・・
香里「裏切ったのね、私の気持ちを裏切ったのね!」
大丈夫!君にも見せ場はある!!(予定)
香里「いつ?」
最終話の前あたりかな・・・・
香里「最終話までいくの?コレ・・・」
うぐぅ・・・・・・・・・

 

 

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