「祐一・・・早い・・・」

「祐一さんにかぎってそれはないんじゃないんですか〜」

テレビの前。2人の美女がお茶を飲みながら、有馬記念の放送を見ていた。

レースは4コーナーにさしかかっていた。

いっきに詰まる前との差。

先頭の馬はすでに一杯のようだ。

直線に入り祐一の馬が先頭をかわすが、2人の表情は険しいものになっていた。

ゴール直前、かわされるシオリンファースト。

「はえ〜、祐一さん負けちゃいましたね〜」

リボンの女性”倉田佐祐理”は呆然としている。

もう一人の女性”舞”はきゅうすからお茶を注いでいた。

画面からは北川コールが聞こえてくる。

部屋にはその声しか聞こえない。

舞はお茶を飲み干すと立ちあがった。

「あの子の世話ですか〜。私も行きますよ〜」

佐祐理も立ちあがり、舞に続く。

2人の行く先は馬房であった。

そこの1頭の馬の前に2人はいた。

「年明けには入厩ですね。」

佐祐理の言葉に舞は無言で草を馬にさしだす。

「祐一は大丈夫・・・」

馬が草を食べると、舞は口をひらいた。

「そうですね、きっと祐一さんなら・・・・・」

佐祐理はそっと馬をなでた。





Kanon連載SS ターフに咲く恋の花?  第3R




もう数日で今年も終ろうかというころ。

とある神社の境内。

CM撮影が行われていた。

美坂グループのCMで、美坂香里自らが出演しているものだ。

共演には、全国及び関西リーディングジョッキーの伊藤騎手。

内容は、神社に参拝に来た伊藤騎手がお参りをすませたあとに、

破魔矢を買って帰るというもの。香里は巫女姿で破魔矢を渡す役となる。

撮影は、緊張した伊藤騎手のミスでテイク8までかかったという。

そのCMは後日、若い男性に人気であったということだが、そんなことは今は関係ない。

姉がしっかりと仕事をしている中、妹は水瀬厩舎に来ていた。

「祐一さん。今年も一緒に初詣に行きませんか♪」

なぜか振袖姿の栞。気が早い。

「だめだよ、祐一は私と一緒に行くんだよ。」

こちらは普段の格好。

「ボクもオフが(強引に)とれたから初詣いけるよ、祐一君!」

仕事はいいのか?ほされるぞ!

「あぅ〜、肉マン・・・」

バックでは美汐が目を光らせている。

「今年は寝正月がいいんだけど・・・・・・・・」

騎乗依頼が増え、昨年の疲れを癒したい祐一は正月は寝て過ごしたかった。

それに、去年このメンバーで初詣に行った時は余計に疲れてしまった記憶が

あるだけに、それは避けたかった。

「じゃあ、正月は一緒に寝て過ごしましょうね、祐一さん♪」

栞が祐一に抱きつく。

「祐一と一緒に寝るのは私だよ。」

祐一の左腕を名雪が取る。

「うぐぅ、ボクだって」

あゆは右腕。

「あう〜」

真琴は後ろから首に抱きつく。もちろん美汐は見てるだけ。

「わかった!行くから離れろ〜!!」

いいかげんうっとおしく感じた祐一は仕方なく初詣に出かける約束をする。

これでは、余計に疲れそうである。

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初詣はやはり、疲れた祐一であった・・・・・・






明けて1月4日。

今年最初の競馬が始まる。

祐一は9鞍に乗り、第8レースで勝ち星をあげた。

メインレースである中山金杯は、伏兵の”ビヨンザタイム”が直線つきぬけた。

この馬は、以前から能力はあるといわれていたが、その気性のために、

出世できなかった馬であった。それを今回乗り変わった昨年関東リーディング

の佐藤騎手により、みごとな末足を披露した。2着にはその後ろから

追いこんできた、昨年関東リーディング2位の小出騎手。

祐一は1番人気であったが、直線でうまく出せなく、4着に終った。

年始めから、改めて上位騎手との腕の差を見せられることとなってしまった。

そして、2日目が終わり水瀬厩舎で祐一は懐かしい人と会う。

「ひさしぶりですね、祐一さん。」

「・・・ひさしぶり・・・・」

牧場からやってきた佐祐理と舞であった。

この2人と祐一は、親がどちらも競馬関係者ということで、幼少のころから

親交があり親しい仲であった。

「1年ぶりですね。元気でしたか、佐祐理さん。」

祐一は佐祐理と握手して話しこむ。

それがおもしろくない舞は祐一にチョップをする。

「ぽんぽこたぬきさん・・・・」

「舞もひさしぶり。元気だったか?」

祐一は舞に抱きつく。

顔を真っ赤にして硬直する舞。

祐一は舞の感触を楽しんでいる。

「舞はやわらかいなぁ〜」

祐一の悪ふざけは続く。

「祐一さん、それくらいにしとかないと、舞がこまってますよ。」

佐祐理は笑顔でいう。

「チョップのお返しですよ。」

いたずらっぽく祐一は笑って見せた。

こういうことが通用する仲なのだ。この3人は。

ビシッ!ビシッ!

舞のチョップが2連発で入る。

当然、顔は真っ赤だ。

「わるかった。ごめんな舞。」

それでもチョップは止まらない。

「舞、それくらいにしてくださいよ。用事を忘れちゃだめですよ〜」

佐祐理のなだめに真っ赤な舞はチョップをやめる。

「今日は秋子さんに馬をお願いしにきたんですよ。」

その言葉に舞も頷く。

「それは楽しみですね、どういう・・・」

祐一が2人に馬の事を聞こうとしたが、その言葉を遮るタックルが彼を襲った。

突然、後ろから首に抱きつかれる。バランスが崩れて二人とも倒れてしまう。

「うにゅ〜、祐一しっかりうけとめてよぉ〜」

祐一の下敷きになった名雪。

「お前がいきなりあんなことするからだろうが!」

「だって〜、うれしかったんだもん・・・・」

なにがと聞きながら、名雪を引き起こす祐一。

「おかあさんがね、佐祐理さんの馬を私に任せるって!」

はしゃぐ名雪。

なぜなら、2人の連れてきた馬は秋子が走ると言い切った馬だったから。

そして、ぽつりとダービーを狙えるともらしたのを名雪は聞き逃さなかった。

幼い日の約束を果たせるかもしれない馬に出会えたのだ。

その気持ちをストレートに表現したのがあのタックルであるが・・・そうとううれしかったのであろう。

そして、祐一も出会うこととなる。

今年のクラシック戦線を揺るがす馬と。

その名は・・・・・・・・・・





<つづく・・・>



ごめんなさい。
今回はこの一言で。



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