湧き上がる淀。

先頭と後続の差はまだ10馬身以上あった。

2番手集団から2冠馬シオリンクラウンが追ってきた。

先頭を行くゲンスイフの手ごたえはまだ十分にあるように見える。

4コーナーを回って直線。

すでに2番手のシオリンクラウンと3番手以降は少しずつ差が開きはじめていた。

観客の視線が2頭にのみ集中する。

確実に差は詰まっていたが、ゴールまでの距離も確実に詰まっていた。

必死に追う祐一。

だが、前との差は思ったほどつまらない。

外をまくるのに脚を使いすぎたためだ。

それでもさすがは皐月・ダービーの2冠馬。

あと半馬身まで追い詰めた。

そこがゴール。

ゲンスイフ鞍上の山本騎手は軽くガッツポーズ。

スタンド前をウイニングラン。

祐一は・・・・・・・馬を止めると検量室に向かった。

優勝騎手が帰ってくるまで、検量室で呆然とモニターを眺めていた祐一。

ダービーで2着、神戸新聞杯1着の先行馬”セイトカイチョウ”とお互いに牽制しあった結果がこれであった。

祐一は4・5番手を進むセイトカイチョウの動きに、セイトカイチョウの北川は追い込み馬のシオリンクラウン

を気にしてお互い仕掛けが遅れてしまった。

結果、セイトカイチョウはこのよどみのないペースの中スタミナが尽き4着を確保するのがやっとであっただけにくやしい敗戦だ。

そしてなによりも、久々の3冠馬誕生に周囲の期待と自分の希望が高まっていただけに悔しかった。

山本騎手が検量を終え・・・確定した。

検量室から出てきた祐一に声をかけるのものはいなかった。

シオリンクラウンの厩務員である梅さんも秋子も声をかけられなかった。

その祐一がたどり着いたのは・・・・・・馬主である栞の元。

「ごめんな、3冠逃したよ・・・・」

自分の騎乗ミスをオーナーに謝罪する祐一。

深々と頭をさげた。

こんな祐一を見たことのない栞は困惑した。

別に3冠なんて、彼女にしてみればどうでもいいこと。

ただ祐一が大舞台で活躍してくれて、表彰式の時に自分と一緒にその喜びを分かち合えればよかったのだ。

「祐一さん、まだ来年も再来年もその先もありますよ。」

祐一の頭をそっと抱きしめる栞。

その光景に辺りは静まりかえった。





ターフに咲く恋の花?  5R






「おくれちゃいました〜。」

栞が馬主席に姿をあらわしたときには、すでに第9Rが始まろうとしていた。

もっと早く馬主席に座れるつもりであったが、会議が長引いてしまったのだった。

「おぉ、栞ちゃん。」

祖父の友人が声をかけてきた。

「こんにちは、おじさま。」

笑顔であいさつを返した。

祖父の友人にもいろんな人がいるが、この人は嫌いではなかった。

小さい頃からやさしくしてもらった思い出がある。

気さくで、最近はよく馬主席で競馬のことを教えてもくれる。

「惜しかったなぁ。もうちょっと早くくれば凄いのみれたのに。」

「そんなに凄いレースがあったんですか? 私全然新聞もみていないから。」

「ほら、これだよ。」

新聞を広げて馬柱を指差す。

”サラ4歳500万以下 ダート1800”

というレース名と距離よりも先に栞レーダーは愛する人の名前を見つけた。

どの記者も◎を打っている馬の騎手・・・相沢祐一の名前を。

「祐一さん勝ったんですか?」

「ああ・・・勝ったよ。ゲートが悪くて最後方に置いてかれ、4コーナー回ってまだ最後方。

 それでも差しきりだ。いくらハイペースだったとはいえ中山であんな芸当ができる4歳馬なんて末おそろしいや。」

話を聞きながら新聞に眼を通していた栞はあるものを見つけた。

”生産者 倉田佐佑理”

倉田・・・・・・・・・・・・

その名前は祐一から幾度となく聞かされていた。

祐一に見せてもらったビデオの馬を生産した牧場主の名前。

あの勝負服を着て、ダービーを勝ちたいと夢を語っていた祐一。

クシャッ・・・・

何故だか急に、栞の中に不安が広がりだした。



弥生賞枠順



「まだ風も少し冷たい中山競馬場。4日目のメイン競走を迎えました。クラシックへむけて

 若駒達がターフを駆け抜けようとしてます。解説は大窪さんです。大窪さん、クラシック

 へ向けての最初のトライアル。いかがですか?」

「例年、この弥生賞には好メンバーが集まるのですが今年はちょっと層が薄めのレースになりました。」

「断然の1番人気シオリンワンダー以下は人気も割れていますね。」

「2番人気に推されている京成杯勝ち馬ヤキタテタイヤキは、このコースこの距離を経験しているのが

 強みですが、当時の勝ちタイムも平凡でしたし厳しいところでしょう。2着馬を探すレースですね。」

「大窪さんの言葉どうり、レース締め切り直前オッズは単勝110円。圧倒的人気です。そろそろ

 時間となります。スターターの旗が振られ、各馬ゲート入りを始めました。大窪さん、最後にまとめを

 お願いします。」

「はい。3歳チャンピオンシオリンワンダーのスピードは抜けています。血統的にもスタミナも

 兼備していそうで皐月賞へ向けていいスタートをきれそうです。逆転あるならヤキタテタイヤキ

 と前走好時計勝ちしたサンダルティーチャ。末足のはまったバブルクエストですね。」

「ありがとうございます。枠入りあと3頭。すでにシオリンワンダーもゲート入りを終わっています。

 クラシックへ向けて初戦。最後の1頭がゲートに入ります。ちょっといやがりましたが・・・・

 入りました。体勢完了。スタートしました。おっと、シオリンワンダーわずかに出が悪かったか? 

 他馬はまずまずのスタートですが・・・さてどの馬が出てきますか? 大方の予想どうり・・・・

 いや、鞍上山本が涼しい顔をして出ムチを数発入れたランチタイムがハナを切ります!

 前走追い込んで勝ったランチタイムがハナを奪いました。3馬身後方から一団になって後続も続いています。

 先頭はぐんぐん飛ばすランチタイム。後続とはすでに7馬身以上の差がついています。

 思い切った逃げを打ちました。その2番手は内枠を利してタイニーカンガルーが行きます。

 そのすぐ外に並ぶようにフラッピーボーイとソレイユハーモニーとさらにその後ろも一団、

 マジックザガンジー・グリッドイン。その外にスタート一息だった人気のシオリンワンダー。

 ポジションを上げてここにつけました。この一団にはヤキタテタイヤキ・サンダルティーチャ

 ・ブラックブラック・ミカタレインボー・ユキノトプロードとなっております。2番人気の

 ヤキタテタイヤキはいつもより前目の位置でシオリンワンダーをマークする作戦なのでしょうか。

 1馬身ほどはなれましてバブルクエスト、その後ろ最後方に控えるのがミラージュシュートとな

 ります。先頭から最後方まで20馬身ほどでしょうか。先頭のランチタイムが軽快に大逃げを打ちます。

 2番手以降は以前として団子状態。先頭が1000M標識を通過しました。58秒後半から59秒しょうか。

 早い流れになりました。どこで後続はしかけるのか。人気のシオリンワンダーがじわりと外を上がっていきます。

 それにつられて他馬もペースをあげていく。先頭が3コーナーに差し掛かります。

 依然としてリードは10馬身はあります。このまま逃げ切ることができるのか。2番手はすでに

 シオリンワンダーが上がっています。その後ろからはヤキタテタイヤキも上がってきている。

 先頭と後続の差が詰まってきました。シオリンワンダーは果たして届くのか!?

 4コーナーに差し掛かります。先頭で直線に向くのはランチタイム。リードはまだ6馬身は
 
 あるが脚色がやや衰えてきたのか、それとも追い上げてきているシオリンワンダーの勢いか、

 差はぐんぐん詰まってきます。ヤキタテタイヤキは伸びない! 後ろの集団もじりじりと伸びてきた! 

 先頭はランチタイム! 粘ります、粘りますが、その外をシオリンワンダーがかわしていく!!!

 シオリンワンダー先頭! 2番手はランチタイム! その後ろから一気にサンダルティーチャと  

 バブルクエストが3番手から2番手をうかがう! ヤキタテタイヤキは沈んだ! 先頭はシオリンワンダー!

 クラシックの主役を主張するかのように今ゴールイン!! 2番手以降はは接戦の模様です!!

 シオリンワンダー圧勝! 皐月賞に向けて順調な滑り出しとなりました。大窪さん、いかがでしたか。」

「残り1000Mで目標をランチタイムのみに定めての早め進出。強い勝ち方でした。」

「展開についてはいかがでしたか。」

「ランチタイムの意外な大逃げで2番手以降一団。シオリンワンダーを気にして行くにいけない展開となり、

 ランチタイムはうまく息を入れることができましたね。もともと力はあるという評判馬だっただけに

 馬込みにはいらなければその力を発揮できるといったところでしょう。2番人気に支持されたヤキタテ

 タイヤキはシオリンワンダーと一緒に上がっていって脚が上がってしまいましたね。前の馬はそれに

 つられる形でペースが上がってしまい結局差し馬の台頭となってしまいました。」

「強すぎるシオリンワンダー、クラシックの主役を我々に印象づける圧勝でした。皐月賞でこの無敗馬を倒すことはできるのでしょうか」


弥生賞結果



「祐一さん、お疲れ様です♪」

上機嫌の栞が祐一に抱きついた。

すでにお約束の絵となっている。

この絵を見てあゆファンはまたアンチ相沢魂に再点火するのだが・・・・

「ありがとう、これで次は皐月だな。」

「はい♪今年も3冠目指してがんばってくださいね♪」

「3冠・・・そうだな・・・うん・・・」

無意識に祐一は栞から視線をそらす。

その祐一の表情に栞の不安はさらに大きくなるのであった。





<つづく>



どうも・・・・ずいぶんと間隔が開きました。
ターフ5Rをお送りいたします。
もうすぐ半分です。
ご意見ご感想ございましたら、掲示板ORメールでおねがいします。
それと馬名を募集中です。
脚質とか設定いただけるとうれしいな、と。
では、6Rでまた

PS.あゆの出番がなくなっていく(笑)