「こんばんわ、月宮あゆです☆ 今日もあゆちゃん競馬だいじぇすとのお時間となりました。」

水曜24:00。

ブラウン管にはアイドル月宮あゆの元気な姿が写っていた。

「本日のゲストは競馬評論家の折原さんと、いきいきとした馬の絵を描かれている上月さんです。」

「こんばんわ。」

『こんばんわなの』

スケッチブックに書かれた文字を前に出す上月澪。

彼女は言語障害があるためこうして人とコミュニケーションをとっている。

その彼女の描く馬の絵はあたたかさとやさしさにあふれていて、先日個展も大成功したばかり。

一緒に来ている折折原浩平は、競馬エッセイを生業としている。

競馬にかかわる人々の想いを読者に届ける記事や本を多数書きあげてきた。

この二人今秋挙式となっており今、幸せいっぱいだ。

「今日はこのお二方と一緒に先週の桜花賞と今週の皐月賞の展望を行いたいと思います。今日も最後まで

 よろしくね♪」

遠いカメラアングルに切り替わり、画面にスポンサーが表示されていく。

その中には美坂グループの名もある。

「ふぅ・・・」

テレビの前の美女・・・いや年齢には合わないが美少女と形容するほうが正しいだろう。

彼女はテーブルのグラスを手にとった。

スプーンでアイスクリームをすくうと口に運んだ。

テレビ画面はスタジオからCMへと切り替わっている。

静かな夜。

テレビの音しか聞こえない。

半分ほどアイスが残ったグラスを置いた美少女栞は同じくテーブルに乗った写真立てを手にとった。

そこに飾られているのは、初めてG1を勝った時の祐一。

傍らには笑顔で左腕をとっている栞の姿。

「祐一さん・・・・」

冷たいガラスに口づけをする栞。

その胸にどんな思いがめぐらされているのか。

テレビ画面では先日行われた桜花賞のVTRが放映されていた・・・・





ターフに咲く恋の花  6R




桜花賞枠順





「美しく咲いた桜の花が、4歳の乙女達の晴れ舞台に彩りをそえています。

 今年の桜花賞は18頭、フルゲートでの争いとなります。今年最初のクラシックを

 制するのはどの馬でしょうか。解説は大窪さんです。大窪さん、見事な快晴となりましたね。」

「ええ、クラシックの幕開けにふさわしいような晴天ですね。」

「さて、オッズでは断然の一番人気となっているシオリンアイスが中心となりそうですがいかがですか?」

「チューリップ賞の2週間前に熱発を起こしたため同レースを回避しましたが、乗り込み量も豊富で

 いきなりから動ける状態にあると思います。今週は単走でしたが、1週前追いきりでシオリンクラウンと

 併せて同入と仕上がりに関しては不安視する必要はないと思います。」

「阪神3歳牝馬ステークスは強かったですよね。」

「ええ、当時からメンバーは半分ほど入れかわっていますがこの馬の自力は1枚も2枚も上である

 と思いますね。」

「今週から仮柵を設置しての施行となっていますが、その点はレースにどう影響するでしょうか?」

「馬場も良さそうですし先行馬もかなりがんばれそうですね。早い時計の決着になると思いますよ。

 ただ、例年”魔の桜花賞ペース”呼ばれるハイペースがまだ若い牝馬を飲み込んでしまいますからね。」

「チューリップ賞、フィリーズレビューでハナを奪った2頭の先行争いがレースにどう影響してくるのか。

 スタート地点では続々とゲートインが続いています。ホワイトジャムがややゲート入りを嫌っていますか?

 後ろに下がって・・・勢いをつけて入りました。シオリンアイス、1番人気次代の女王を目される

 この馬がどんなレースをしますか・・・枠入りは最後のウイニングタンゴを残すのみです。

 最後、ウイニングタンゴがゲートに入って・・・係員はなれました。」

ガッコン

「おっと! ウイニングタンゴ大きく躓いた!! 上田騎手は落馬している模様です!!

 波乱のスタートとなりました桜花賞。ハナ争いも熾烈です。内からホワイトジャム、その外に

 押して押してジュピトリアン。その外にストロベリーカフェが出ムチを連打して・・・先頭

 に並びかけます。飛ばす先行集団。その直後には好スタートを切ったシオリンワンダーがもっていかれ

 ぎみに追走しています。休み明けで折り合いがうまくつかないのか?その外に馬体を合わせてチェリーピンク

 が早めにシオリンワンダーを交わしにいく、少し切れてファリーナと・・・おっと! シオリンワンダー

 相沢騎手持っていかれているのか、前を行く3頭の直後まで上がっていく! シオリンワンダー4番手、

 少し間が空いてチェリーピンクをその内にファリーナ。直後に山口フリーダム、その外ヨゾラノマイヒメは

 かかっている。一団になってイージドータ、インファンタリア、フェアチャイルド。ヤキタテタイヤキ今日は

 早めにこの位置に。つれてパラダイススターと鞍上同期の山本クラシカルマーチ。後方2番手

 アイスフラワー、最後方はユキノショウジョこういう展開で第3コーナーにかかります。

 満開の桜の下、第3コーナーから第4コーナーに近づいてくる。各馬ポジションを上げてきます。

 先頭は相変わらずホワイトジャムですが手がしきりに動いて、 !!! ホワイトジャム失速! 

 急激に失速です!! 直後のシオリンワンダー立ち上がるようになってしまった!! その後ろの集団

 も影響がでているか!? シオリンワンダーはポジションを一気に下げてしまいました!!!

 先頭はわずかに外、ストロベリーカフェ! しかし手ごたえはなさそうだ、内の銀河も押すが

 ジュピトリアンも一杯か!? インファンタリア、黄色い帽子は外に持ち出している。

 直線にはいりました! 2頭の直後からチェリーピンクが上がってくる!!

 一気に交わした、交わされた2頭はずるずると後退! 変わって追って

 くるのはファリーナとフリーダム!しかしこの2頭の外からプリンセスメモリー!

 公営の斎藤必死に追う! さらにその外からパラダイススターも伸びてくる!!!!

 インファンタリアは伸びない! 矢尾のムチが必死に飛ぶ!!!!

 残り200M! 坂を駆け上がる! 先頭はi依然チェリーピンク! リードはまだ3馬身以上ある!

 外から懸命にプリンセスメモリー! つれてスターパラダイス! シオリンアイスは大外だ!

 大外から凄い脚で伸びてくる!!! ぐんぐん前との差をつめる! 届くか? 届くのか?

 残り100Mを切った!! 先頭は粘るチェリーピンク!! 外から風車ムチをうならせて

 斎藤とプリンセスメモリーがやってきた! パラダイススターも馬体を併せて追ってくる!

 先頭はチェリーピンク! 外プリンセスメモリー! 桜のゴールま目の前、どっちだ〜〜〜!!

 わずかにチェリーピンクが残ったか!?」

大歓声の中チェリーピンクの白鳥騎手がレースを戦った騎手達から祝福を受けている。

女性騎手、初のG1制覇の快挙となった。


桜花賞結果




「うぐぅ・・・・祐一君負けちゃったよ・・・・」

自局のアナウンサー、解説者のレース前のコメントから流れたVTR。

あゆのトークだけでは番組の時間がもたないので、いつもこういう風に使われる。

そのメインキャスターは祐一の惜敗に誰がみても残念そうだという表情をしていた

『今日は仕方ないの。次はきっと勝つの。』

澪がスケッチブックに書いた文字をあゆに見せる。

「うん、そうだね・・・・競馬はああいう事故もあるからね・・・・」

「そうですね。人も馬も命をかけて戦っているんですよね。」

モニターに映し出されているチェリーピンクと白鳥騎手をじっとみつめる浩平。

「え〜っと、それじゃあ折原さんに桜花賞のレース回顧をしてもらいます。」

御仕事モードに戻れたあゆ。

「では、スタートから。いきなりの落馬でしたが他馬への影響もなくレースが始まりました。

 予想通りのハイペースで3頭がいってその後にシオリンアイス。スタートしてから

 かかっていたようですが、相沢騎手は押さえるのをやめて思い切っていったようですね。

 そしてそこから少し空いて勝ったチェリーピンク。好位組の外に2着のプリンセスメモリー

 斎藤騎手は折り合いもついてスムーズな競馬でしたが、馬場のいいうち目を走れた分だけ

 最後プリンセスメモリーが粘れた感じですね。そして後方からパラダイススター。

 ハイペースを利してうまく追い込んできました。3コーナーから4コーナーというところで

 ホワイトジャムが故障発生。そのあおりをうけてシオリンアイスは後退しました。

 それでもこの馬は普通の牝馬ではなかったですね。あそこからよく追い込んできました。

 まともならレコード勝ちしてたかもしれませんね。ただ、次のオークスにむけては

 折り合いが課題になるでしょうか。阪神3歳牝馬ステークスの折りには、折り合いもついていたので、

 今日のレース振りがすべてとは思えません。桜花賞当日のようにイレこんでいなければ好勝負でしょう。

 勝ったチェリーピンクもよく粘りました。スタミナもありそうなので次走も先頭でゴール板を

 抜けるかもしれませんね。」

きわめて一般的な見解を述べる浩平。

『私も相沢さんは勝つと思うの』

笑顔の澪。

リボンもぴんとたっている。

「もしかして、上月さんって祐一君のファンなの?」

折原のコメントを受けることを忘れているあゆ。

先ほどからの様子等で、澪が祐一のファンであることも見抜いていた。

シオリンアイスが不利を受けた時は目を覆い、直線伸びてきた時にはぎゅっと手を握り締めていたのだ。

結果を知っていてもこういうことをしてしまうのである。

『デビューした時から応援してるの』

「そうなんだ、ボクと一緒だね♪ 澪さんは祐一君のどこが好きなの?」

『馬と一緒になって走っているところとか、優しそうな笑顔とか・・・』

真っ赤になりながらも答える澪。

スケッチブックをペンが滑らかに動く。

「うんうん、そうだよね〜。」

そんな二人のやり取りをおもしろくなさそうに見ている浩平。

それもそのハズだ。

婚約者が他の男を誉めているような状況で気分がいい男はそういない。

そんな雰囲気のスタジオだが時間が押していた。

ADさんが必死に手を振ってあゆにアピールする。

「あっ、こんな話してちゃいけないんだ。次の皐月賞の有力馬情報のコーナーだよっ。」

スタジオのスクリーンが馬を映し出す。

弥生賞のゴール板を駆け抜けるシオリンワンダーだ。

「今年の皐月賞の最有力馬は祐一君のシオリンワンダー。それから同厩舎で前走アーリントンCを

 快勝したミステリージャム。スプリングS勝ちのピロリンウィーク。この3強といわれてるけれど、

 折原さんはどうですか?」

「ミステリージャムです。」

「あれ? 週初めの記事でシオリンワンダーで大丈夫って書いてませんでしたっけ?」

「ミステリージャムの末脚と、ピロリンウィークの北川騎手に期待です。」

「そうなんですか・・・・」

先ほどのこともあって、祐一には勝って欲しくない気分の浩平。

言葉もそっけない・・・いいのかライター・・・・

「えっと、今週はシオリンワンダーとミステリージャムの2頭だしの水瀬厩舎へ取材に行ってきました。

 インタビューの様子をどうぞ。」








「こんにちわ、秋子さん。」

「あゆちゃんいつも元気ね。」

「長い間秋子さんのジャムを食べてないおかげだよ。」

「あらあら、なら今日はたっぷりとご馳走しなきゃね。」

「う・・・うぐぅ・・・・」

墓穴をほってしまったうぐぅ。

「それよりも、今日は皐月賞のインダビューに来たけどいいですか?」

「いいわよ。ちょうど斎藤君も来てるからちょうどいいわね。」

秋子は厩務員に斎藤を呼びに行かせた。

公営所属の斎藤だが、ミステリージャムの北川がピロリンウィークに乗ることにしていたため、

早くから秋子に騎乗を依頼されていたのだ。

「斎藤君を待っているだけってのもなんですから始めましょうか?」

「うん、よろしくおねがいします。まずは皐月賞の大本命といわれているシオリンワンダーについて

 聞かせてください。」

「弥生賞の疲れもすぐに取れて中間も順調に乗り込んでいます。先週はシャイニングアローと

 併せてとてもいい動きをしました。今週上がり重点で軽く追えば仕上がると思います。」

「不安な点はありますか?」

「そうね・・・・力を出し切れれば十分に勝ち負けできると思っているわ。」

「じゃあ、祐一君の今年最初のG1制覇も期待大かな?」

「ええ、楽しみにしてくれていいわよ。」

お互い仕事以外に親しくしているだけに会話からだんだんと他人行儀さがなくなってくる。

レポーターとしてはNGだが、あゆのこういうところもまたファンの支持をえている部分である

ことは誰しも否定できない。

「えっと、次はミステリージャムについて・・・」

ダダダダダ・・・・

凄い勢いで青年が駆けてきた。

「せ、調教師・・・はぁはぁ・・・およびですか? ・・・はぁはぁ・・・」

息を切らせている斎藤。

厩務員松さんの知らせを受けてここまで全力疾走で来た。

「相当急いできたのね。」

クスクスと笑う秋子。

彼女には斎藤が全力疾走で飛んできた理由が分かっていたのだ。

「斎藤君、あゆちゃんがねあなたに皐月賞のインタビューをしたいって。」

別にあゆはそんなことは言ってない。

「あ、あの、皐月賞は絶対勝ちます!!」

あゆに向かって高らかに宣言する真っ赤な斎藤。

彼はあゆの大大大ファンなのだ。

朝(といっても深夜だが)はあゆのモーニング目覚まし時計で起床し、天井に張られた

ポスターにあいさつ。彼の一日はこうして始まるほどである。

もちろん、寝るときは天井のあゆに

「おやすみ、あゆあゆ」

と、一日の終わりを告げるのを忘れない。

「す、すごい意気込みだね・・・・ミステリージャムの調子はどうなの、斎藤さん。」

「先ほど見てきましたが、万全です。さすがは秋子調教師! どの馬にも負けないデキです!」

「ライバルのシオリンワンダーやピロリンウィークにも?」

「相沢にも北川にも負けません! 絶対に!!!!」

祐一、北川とは小学校が同じであった斎藤。

3人とも昔馴染みなのだ。

「本当に凄い自信だね・・・・」

「あゆさんはどの馬が勝つと思いますか?」

斎藤があゆに聞きかえす。

「う〜ん、ボクはやっぱり祐一君だと思うな。」

「そうですか・・・・」

予想していた答えにがっくりとくる斎藤。

「そ、そんなにがっかりしないでよ。ボク、斎藤さんのことも応援するよ!」

「ほ、ほんとうですか!?」

「斎藤君も大事な同級生だもん。G1の晴れ舞台応援するよ。」

「あ、ありがとうあゆさん・・・・このご恩、斎藤かならずや報いて見せます・・・・」

「そんな、恩だなんて・・・勝ったらタイヤキでもご馳走してくれればうれしいよ。」

「タイヤキでもなんでも食べにつれていきますよ!」






「以上、水瀬厩舎のインタビューでしたが、いかがでしたか?」

『斎藤騎手、すごくやる気だったの』

斎藤のやる気をうけてか、字にも気合が入っていた澪。

「こうなると、ピロリンウィークが気になってきますね、打倒シオリンワンダーとして。」

まだ引きずっている浩平。

その言葉にあゆは頭に手をあてて

「ごめんなさい、ピロリンウィークはボクが寝坊して取材できなかったよ。」

謝った。

「視聴者のみなさんもごめんなさい。明日のスポーツ1(ワン)でピロのインタビューを

 放送しますので、そこで見てくださいね。ボクよりもうまく清水さんがリポートしてくれます。」

さりげなく画面の下部に明日放送される”スポーツ1”の放送時間が表示された。

「さて、今のインタビューなどを含めてもう一度いかがでしょうか?」

「斎藤騎手のやる気に惹かれましたね。皐月賞は良血ミステリージャムで◎です。」

やはり祐一に負けて欲しい浩平。

週初めに”相沢今年も3冠チャンス! 今週はシオリンワンダーで堅い!!”

などという記事を書いた人間とは思えない。

『私はやっぱりシオリンワンダーなの』

にっこり笑顔の澪。この笑顔がさらに浩平から祐一へと電波をとばさせることになる。

『でね、ちょっと気になったことがあるの』

少し難しい顔をする澪。

『ミステリージャムが勝ったら、あゆさんは斎藤騎手とデートするの?』

「へ?」

『さっきのVTRで勝ったらタイヤキ食べに行くって・・・』

皐月賞は違った意味でも熱くなりそうであった。










<つづく>




ターフ6Rをお届けいたしました。
この連載もやっと半分までくることができました。
今回はさすがに事前の枠順を見て1・2着馬を当てられた人はいないかな?
印のつき方、騎手、脚質で結構分かっちゃうんですがさすがに
あんなアクシデントがおきると・・・ね。
馬券握り締めててスタートで1番人気が落馬とか・・・
障害レースで第1障害で単勝100円台の馬が落馬とか・・・
いろいろあるわけですよ(涙)
それにしても、今回のあゆはつらかった・・・・
無理してキャスターっぽくしゃべろうとするけど、地とまじってあんな風になちゃう・・・・
文章めちゃめちゃ。
でも、あゆが堅い言葉だけでキャスターするなんて考えられませんから・・・ね。
あゆなりにがんばっているということで。
ではまた7R牡馬クラシック第1弾皐月賞で会いましょう。
SSに登場する馬も募集してます〜


PS.このSSに登場する馬の設定を送ってくださったうにゅうさんに感謝です♪