「準備の方は着々と進んでいるようだね。」

提出された報告書に目を通し、満足げな表情を浮かべている男の椅子が180度回転する。

歳の頃は40半ばだろうか?

彫りの深い顔をしている。

「我が国にあの部隊は必要だった・・・・・・それをあの女が・・・・」

昔のことを思い出して歯軋りをした。

当時米国での研修を受けていた彼も参加したかった組織作り。

彼の上官が組織した”Kanon”。

尊敬していた上官も水瀬秋子により葬られてしまった。

研修に旅立つ前夜、上官が熱く語ってくれたことは今でも忘れられない。

国際化と日本の地位。

危険に対する認識力の甘さ。

そして素晴らしい日本の風土と文化についてまで触れていた。

この日本を守るために・・・・・・・・。

その思いが今の彼の原動力となっている。

報告書にもう一度目を通すと、冷静な表情になり机の前に並ぶ面々を見据えた。

「君を信頼してるよ。」

白衣を身にまとった女性をじっと見つめる。

その女性はただ静かな微笑を浮かべているだけである。

「私としては、そろそろ確固たるものが欲しい時期なのだが・・・・どうかね?」

「どのようなものをお望みです?どこかの大統領でも暗殺してごらんにいれましょうか?」

まるでなんでもないことのように答える彼女の右手にはいつのまにかメスが握られていた。

美しい輝きの刃が男を魅了する。

「いや、日本に潜む不穏分子の駆除・・・・だ。」

今まで微笑をたたえていた顔が一瞬でこわばる。

すでに彼の意図は読みきっていた。

「それは・・・・・”Kanon”の残党ですか?」

「そうだ。水瀬の残党がいつ我々に牙をむくかわからんからな。それも兼ねてだ。」

それも兼ねて・・・男はそう言ったが、彼女にはそれが嘘であることはわかっていた。

この計画を進める上で、必ず彼らとは相対することがあろうことは予測されていたことである。

その不安から開放されたい男の弱さがこの提案につながったのだ。

自分が進めてきた計画には自信があった。

人の強化。

現時点で考えられうる最高傑作のはずであった。

が・・・・・相手はあの”ラストリグレット”達。

失敗は即、死につながる。

聡明で決断力に富んだ彼女にしては、返答に困っていた。

「まだ・・・・早いようだな。」

沈黙を答えととった男は彼女に背を向けた。

実際のところ、彼にもそのリスクはわかっていたのだ。

「もうしわけありません。」

「かまわんよ。彼らは最終目標みたいなものだ。私が急ぎすぎただけかもしれん。」

男は胸ポケットからたばこを1本取り出すと、火をつけた。

大きく吸って、大きくはく。

「ただ、いつか彼らと道が交差する日もありうるということだけは心得ていてくれ。」

「わかっています。」

男は右手を軽く振った。

ドアが開く音がして、足音が遠ざかっていく。

バタン

ドアが閉まる音がすると、男はカーテンを全快にし、窓を開いた。

「いい風だ・・・・・」

新鮮な空気を胸に入れる。

それはたばこの煙などよりも数段うまい。

「この組織は、日本を、世界を包む大気のような存在になると私は確信しているのだよ。」

自分に語りかけるように言った男はじっと沈む夕日の向こうを眺めていた。

その向こうの何かを見つめて・・・・・・・・・




トリガーを引くのは  第10話




始まりはふらっと現れた潤の一言だった。

「相沢、温泉だ!!」

主戦場である欧州にまだ戻っていない潤は、よく喫茶かのんに入り浸っていた。

戦士の休息というものを満喫しているのであろう。

そのため、昼食はかのんでとる祐一とよく遭遇する。

「なんの話だ?」

北川の隣に座る祐一と、その隣に座る栞。

名雪と香里は掲示板を見にいっているためいない。

「今我々には、休養が必要だとは思わないかね、相沢君。」

がしっと祐一の肩をつかむ潤。

その瞳は漢色に輝いていた。

「北川・・・何があるんだ?」

潤がこういう瞳をする時には、決まってなにかあるのだ。

「相沢・・・・お前・・・・・漢が温泉と聞いて熱くならないのか!?」

「温泉なんて、このかた行ったことないからな。」

「そうなのか!? それならばなおさら行かねばならんよ、我が同志よ!!」

「なんでそんなに乗り気なんだ?」

潤はびしっと祐一に指をつきつけると、

「相沢、男はやってやれ、だ!・・・・・・ということで、すでに8人で予約済みだ。」

すでに決定事項となっている現実を述べた。

「8人・・・・・俺、北川、佐佑理さん、舞、名雪に香里に栞・・・・・7人だな・・・あと1人は?」

「お前のよく知っている子だ。」

北川が知っていて祐一が知っている・・・・なおかつこのメンバーにはいれる人物といえば・・・・・

「それって・・・うぐぅとか鳴くか?」

「さすが相沢だ、察しがいいな。出発は明後日だ。ちゃんと予定を空けておくように。」

500円硬貨をカウンターにおいて潤は立ち上がった。

「それと、この費用はお前もちだからな。」

「は?」

「この前の俺の仕事料として払っておいてくれ。」

「なぜ?」

「お一人様2万円コースだ。」

「マテ。」

「8人で20万だ。」

「オイ。」

全然計算があっていない。

「消費税は含んでないからな。」

「・・・・・・。」

確かに、この前の香里の件について頼む時に、”恩にきるぜ。今度おごるな”と言った記憶はあるが・・・

「それはわかった。仕方ない。でも、みんなOKなのか?」

「佐佑理達はOKですよ〜」

舞もこくんと頷く。

すでに潤によって根回し済みのようだ。

「祐一さんと温泉・・・・祐一さんと温泉・・・・一緒に温泉・・・・・・きゃっ♪」

何を考えているかは祐一はわからないことにしておいたが、スプーンをくわえる栞はとてもかわいらしかった。

祐一は考えた。

名雪は無論OKであろうし、栞も行く。

香里は・・・・・・栞が行くとなればついてきそうだ。

うぐぅは年中暇そうだし・・・・・結局この旅行は実現するわけね・・・・・・とあきらめた祐一。

それでも初めて行く温泉に少しだけ期待感高まるのも事実であった。

名雪が入れる温泉の素しかしらない彼にとっては未知の体験をするわけだ。

だが彼は知らなかった。

めちゃくちゃになった部屋の改装費を名雪が払った後の残高を・・・・・・






<つづく>



こんばんわ、せーりゅーです。
新しい展開へ突入です♪
お約束ともいえる温泉旅館。
あゆにも出番をっていうご意見をいただいたので、彼女にも今回から登場してもらいます。
さて、うぐぅの活躍はいかに?



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あゆ「ついに・・・・ついに僕も電話シーン以外で出られるんだね!」
名雪「でも、ただのお色気シーンだけかもしれないよ?」
香里「ええ、その可能性は大だわ。それでセリフは”うぐぅ”しか言えないの。」
栞 「でも、あゆさんのお色気シーン・・・色気があるのかな?」
あゆ「ない胸しおりんにはいわれたくないよ。」
栞 「あゆさん、ひどいです・・・・あゆさんに負けないためにも祐一さんに大きくしてもらわないと・・・・」
名雪「いきなり爆弾発言だね。」
香里「栞、悪いこと言わないからそれだけはやめておきなさい。」
あゆ「どうせならおねえちゃんが大きくしてあげるとか?」
香里「冗談でも言っていいことと悪いことがあるのよ〜(ぐりぐり)」
あゆ「痛い、痛いよ香里さん!」
名雪「香里はただでさえあぶないシスコンなんだから、そんなこと言ったらまずいよ。」
香里「名雪・・・・・・・・」
名雪「ねこ〜、ねこ〜・・・・」(ねこを追いかけるふりしてどこかへ)
香里「まったく・・・私の事誤解されちゃうわ。私は極度のシスコンでもないし、天野さんみたいでもないんだから」