「お久しぶりですね、コードネーム”ラストリグレット”と言えば、思い出していただけますか?」

喫茶かのんを出た祐一は自宅から国際電話をかけていた。

「・・・!!・・・・ああ、久しぶりだな。何の用だ。」

相手はすぐにも祐一との電話を切りたい様子である。

「あんたらが狙ってる日本人の女の子を俺がガードしている。」

「!!!!!!」

「話をきくと、猟銃を持ったおじさんを見たとしか言ってない。あんたらのビジネスは見てないらしい。」

「それで?」

唾液を飲み込む音が祐一にも聞こえた。

明らかに電話の相手は動揺していた。

「そこで相談だ。そっちの送った3人はもう処理ずみだ。これ以上送らないでほしい。」

「断ったら?」

「分かっているだろう?これは相談なんだ。」

祐一の言葉に相手は沈黙する。

「こちらとしても、あんたらと事を構える気はない。俺の友人が彼女のあの事に関する記憶を

 消してくれることになっている。それを信用して手を引いてもらいたい。」

「それは・・・・・・」

「メンツを取って死を選ぶか、妥協して共存するか今すぐ決めてほしい。」

2人の会話に沈黙が流れる。

が、やがて受話器の向こうから祐一の言うことを飲むという答えが帰ってきた。

ラストリグレット。

彼に手を出す愚か者は、欧州にはいない・・・・・・・・それは死を意味するのだから・・・・





トリガーを引くのは  第6話






電話を終えた祐一は、マンションを出ると一人歩き出した。

目的地は街外れの廃ビル。

彼はこの事件において、残る狙撃手が狙っているのは自分だという確信を得ていた。

あの、公園での狙撃の時。

ビルの屋上の殺気は自分に向けられていた感じがした。

しかし、あの場で撃って来ないということは・・・・・・相手は祐一との対決を望んでいる。

そう考えたのだ。

それならば、栞が一緒ではハンデになる。

そのため、佐祐理と舞に預けてきたのだ。

そして、相手もほぼ見当がついていた。

同様の殺気のこもった視線に記憶があるからだ。

それも最近のことである。

自然と全身に力が入る祐一。

今回の相手は全力でかからねばならない。

そう体がいっているようであった。





その頃喫茶かのんでは、奥の部屋で佐祐理による催眠術が栞にほどこされたところであった。

奥から店に戻ってくる佐祐理。

まだ名雪はイチゴサンデーを食べていた。

「あっ、佐祐理さん。おかわりおねがいします♪」

戻ってきた佐祐理にグラスを差し出す名雪。

すでに9杯完食していた。

「わかりました〜。」

次のグラスを取り出す佐祐理。

ちなみに名雪は普段ここまで食べない。

何故なら、今日は久瀬の”おごり”になっている。

久瀬の手紙が発覚した折に栞が、

「ここをごちそうしてくれたら、許してあげます。」

と笑顔で言ったため、久瀬は喜んでその申し出を受けたのであった。

そのためさきほどから無心にイチゴサンデーを口に運んでいる名雪。

いわゆる”食いだめ”のようだ。

どんどん増えていく久瀬のツケ・・・・・・・・・。

「すみません・・・・」

店のドアが開き、品のよさそうな女性が入ってきた。

が、イチゴサンデーと格闘している名雪はまったく気にしていない。

「私、美坂と申します。すみませんが、水瀬名雪さんをご存知ありませんか?

 こちらに伺えば、分かると聞いたもので。」

「ふぁい、ふぁふぁふぃふぇふ。」

スプーンをくわえたまま、頷く名雪。

「水瀬さん、ご無沙汰しております。私、香里と栞の母でございます。

 昨日より香里が帰っておりませんので、探しているのですが。」

確かにどことなく香里ににている女性である。

「おばさま、お久しぶりです。香里とは一昨日別れたきりですけど。」

名雪はイヤな予感がした。

佐祐理と舞も厳しい表情になっている。

「祐一・・・・・」






「もう、いいだろう。出てきたらどうだ。」

廃ビルの2階に上がった祐一は気配のする方に向かって声を放った。

打ち捨てられた空間に声が響き渡る。

一呼吸置いて、髪を2つに束ねた女性が柱の影から現れた。

あの日空港で会った女性である。今日はサングラスはない。

「相沢祐一。お前を殺す。」

殺気が祐一を襲った。

「美人とはこんな場所じゃなくもっと素敵な・・・そう、夜景の美しいホテルでバトルしたいな。」

さらりとその殺気を受け流す祐一。

「軽口はその位にしておいてもらおう。」

するどい視線が祐一を捕らえる。

そのプレッシャーを祐一は正面から受け止めた。

「目的はなんだ。恨みか?それとも俺を倒して名をあげるつもりか?」

その言葉に女は銃を抜いて発砲してくる。

祐一はすばやく柱の影に隠れた。

「お前が憎いから。どうしても憎いから・・・・」

「俺は君のことは知らない。人違いじゃないか?」

祐一も愛銃を抜く。

「私は沢渡真琴。お前は私の敵だ!」

弾が柱にあたる。

「本当に俺は君のことは知らない。俺がなにをしたというんだ!」

「・・・・・・・知らない。お前が憎い。殺したい。それだけよ!」

いつのまにか移動していた真琴が祐一に向かって発砲する。

それをかわす祐一。

祐一にはまったくこの沢渡真琴という人物には心当たりがなかった。

しかし、今までの自分のしてきたことを考えれば、そういう人物がいても仕方がない。

自分の気がつかないところで、自分のせいで不幸になった人などそれこそ星の数ほどいても不思議ではない。

だが、この真琴の言動が祐一にあることを確信させた。

空港で感じたもの・・・・・あれは祐一が記憶から消し去っていたつもりのものであった。

そうなるとこれを仕組んだ人物は他にいることになる。

この女は必ず生きて捕らえねばならない。そう考えていた。

気を引き締める祐一。

相手の腕は一流のようである。

自分も本気でかからなければならない。

己の気配を絶ち、相手の気配を探る。

さすがにほとんど気配を感じさせない相手だ。

さらに感覚を研ぎ澄ます祐一。

相手の気配が、動きが読めた。

とっさに柱から飛び出し、3連射する。

「うっ!!」

柱の影からわずかに身を出していた真琴の銃と右足に命中する。

「ここまでだな。」

圧倒的な力の差であった。

相手の気配をまったく感じ取れなかった真琴は、右足を押さえながら祐一を睨みつける。

まだ戦闘意欲は失われていないようだ。

「ふふふっ・・・・」

ふいに真琴は笑い出した。それも相手を嘲るかのような笑いだ。

「・・・・・・・・・」

祐一はその笑みの意味を測り兼ねていた。

この後におよんで、一体なにがあるというのだろうか?

「これで勝ったつもりなの?ラストリグレット・・・・」

「勝ったつもりだけど?」

狙いを真琴の眉間に合わせる。

「そうかしら?外にとめてある私の車のトランクにはね、ちょっとした荷物がつんであるの。」

「核爆弾でもつんでるのかい?」

「そうね、そうまでいかなくともあなたにとっては、十分威力のあるものだと思うわ。」

「それは楽しみだ。」

祐一はじっと真琴の目を見る。はったりや虚勢ではないようだ。

真琴の左手がわずかに動いた。

刹那、外から爆発音が聞こえる。

「ふふふ、残念ね。あなたの完勝とはならないわよ。」

「何をした。」

祐一の声は冷静さを失っていない。

「外に止めておいた私の車を爆破したのよ。荷物と一緒にね。」

「荷物?」

「そうよ、何かしりたい?」

真琴は会心の笑みを浮かべる。が、次の瞬間それは凍りついた。

「荷物って私のことかしら?」

階段の出口に美坂香里と北川潤が立っていた。

「なっ!?お前は・・・・・・」

真琴は絶句する。

「ごくろうさんでした。」

笑顔で北川に左手をあげる祐一。

「何故貴様がここにいるんだ!」

凄まじい形相で北川を睨む真琴。

「相沢に呼び出されてね、頼まれごとされたからさ。」

「そういうこと。俺の情報屋はちょっとうぐぅだがなかなか優秀でね、

 君のことを調べてもらってたんだ。空港ですれ違った時に君からした匂いが気になってね。」

「匂いだと?」

真琴は自分の匂いを嗅ぐ。

「そういうことさ。」

祐一はすばやく左手でなにかを真琴に投げつけた。

そしてその場から離れる。

その物体は命中すると白いこなを撒き散らした。

「なんだ、こ・・・れ・・・は・・・・・・・・」

意識が遠くなって、眠ってしまう真琴。

祐一特製の眠り粉であった。少し吸い込むだけで、強烈な眠気が襲うというものである。

真琴が自分の匂いを嗅いでいる時を狙って投げつけたのだ。

眠っている真琴を見る祐一の目は悲しみに満ちている。

「・・・・・・さん・・・・・」

祐一の口は、無意識に大切な人の名前をつむぎ出していた。








<つづく>


トリガーを引くのは第6話をお送りいたしました。
遅くなって申し訳ありませんでした。
この春から勤め始めて、なかなか時間がとれなかったので・・・・
というのがいいわけです。
感想・苦情・御意見まっています。



御意見・御感想・誤字脱字の御指摘はこちらまで

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名雪「このコーナーも久しぶりだね」
あゆ「ボクのこと忘れてください・・・・・・・・・・」
名雪「どうしたの、あゆちゃん?」
あゆ「うぐぅ・・・みんないい役なのに、ボクだけ地味で扱いが悪いよう・・・・」
名雪「どんな役がよかったの?」
あゆ「・・・・・・恋人・・・・(ポッ)」
名雪「誰の?」
あゆ「それはもちろん・・・・・ゆ」
北川「そうか、俺の恋人役がやりたかったのか・・・・・・・・俺はいつでもOKさ!(がばっ!)」
あゆ「うぐぅ!勘違いしないでよぉ。それに急に現れて抱きつかないでよぉ。」
北川「あゆちゃんは小さくてやわらかいのう♪」
名雪「北川君、セクハラ・・・・・・・」
北川「セクハラ怖くて、脇役やっとれるか〜!!」
香里「いいかげんにしなさい!!!(ハリセンで北川を叩く)」
北川「きゅぅ・・・・・・(パタン)」