「もう少し早く助けてほしかったわね。」

北川の車で移動中に助手席の香里が祐一に文句をいう。

現在、3人はとあるところに向かっていた。

あの爆発さわぎについては、祐一と親しい警視庁の天野美汐に頼んで、

穏便に処理してもらうこととなったのでそれについては問題ない。

その時の、

「お礼は借りから3発分引いといてくださいね。」

という台詞に祐一が肩を落としたというのは余談である。

その祐一が座っている後部座席では、隣に真琴が横たわっていた。

まだ6時間は薬がきいているハズである。

「それにしても、寿命が10年は縮まったわ。」

前から文句を言う香里。

ゆっくりと流れる景色を見て、心を落ち着かせることができたようだ。

「大丈夫、あの瞬間まで君を傷つけるということはしないハズだったから。」

彼女の方を見ないで答える祐一。

「そんな保証あったの?」

「あったさ。この子の狙いは俺だからな。最悪俺に負けたときに、精神的ダメージを

 負わせる”駒”として君を確保したんだろう。」

「どうしてそう思うの?」

「俺がこの子を操るとしたらそうするだろうからさ。まぁ・・・確信はなかったけどな・・・」

そう答えると祐一は遠くの空を見る。

沈黙が流れた。

つまり、香里は祐一に対する”人質”としてではなく、祐一の心に対する”爆弾”として

拉致されたというのだ。

「確信はなかったってね・・・」

さらりと言う祐一に対して、怒りよりもあきれを感じる香里。

「まさか”SJ”とはな。」

運転している潤が謎の単語を口にした。

「SJって?」

「それは・・・・聞かない方が君のためだ。」

遠くをみていた祐一の瞳が真剣な眼差しで香里を捕らえる。

香里が始めて見る祐一の真剣な瞳であった。

その意味を図りかねる彼女。

これ以上裏の世界に首を突っ込むなということなのか?

それとも・・・・・・・・。

祐一の瞳に悲しみの色を見出していた香里は悩んだ。

そして、この時初めて彼という男に興味をもったのだ。

「あたしも十分に関係したと思うけど?」

「すまない、国家機密なんだ。知れば君にも危険が及ぶかもしれない。」

答えにくそうな祐一にかわり、潤が応じた。

「でも、ちゃんと守ってくれるんでしょ?まきこまれた責任はとってもらわなくちゃね。」

「どういうことだ?」

「あたしが推察するに・・・まだ終わってないんじゃないの?この件は。」

目を細める祐一と潤。

「図星みたいね・・・」

「ああ、確かにそうだ。まだ終わってない。俺はそう考えている。」

「俺も相沢に賛成。」

「なら決まりね。私と栞はあなたのところに住み込むわ。」

「はい????」

いきなりの香里の爆弾発言に目が点になる祐一。

「だって、それが一番じゃない。また私や栞がさらわれて、人質みたいに利用されるかもしれないし。」

「いや・・・・」

「むしろ私達があなたに襲われる可能性の方が高いかもしれないけど。」

にっこりと笑う香里。

この瞬間、勝負は終わった。

白旗を揚げる祐一。

「わかった。解決するまで、家にいてもいい。俺が出かけている間は、佐佑理さんのとこに行けばいいしな。」

祐一としては、香里と栞が狙われる可能性はないと考えていた。

彼の思い描いている人物が黒幕ならば・・・・・もうそんなことはしないハズだ。

一度失敗した手段に固執するようなことはしないであろう。

しかし、香里の言うこともありえるだけに了解せざるをえなかった。

「よろしい。では、ちゃんと予備知識を伝授してもらえるかしら?」

「で、なにを聞きたい?ただし・・・」

よほどの事意外、祐一は香里に話すつもりでいた。

「ただし?」

「ここで俺が話した事は、絶対に名雪には話すなよ。」

「ええ、わかったわ。」

この事に対して何も聞いてこない香里の返事に満足した祐一。

「で、何から話そうか・・・」

「まずはさっきの”SJ”って単語から。」

香里は、誰がこんなことを仕掛けてきたのかを聞きたかったが、祐一の様子からいきなり聞くのはまずい

と考え、違う質問から始めた。

「簡単に言うと、薬・・・だな。それを用いて対象を仕込む。刷り込みのための薬さ。」

答えにくそうな祐一にかわり、潤が答える。

信号が赤なのでブレーキを踏む潤。

「俺がKanonに来る前まではそれを用いていたらしい。いろいろなことに・・・」

潤の答えに祐一は無言で答える。

そう、現在世界中で”SJ”を作ることが出来るのは、今となってはたった1人しかいないのだ。

彼の頭はその人物のことで一杯であった。

「・・・・・・・さん」

祐一はその人物の名を小さく呟いた・・・・・・・・







トリガーを引くのは 第7話






カランカランカラン

ドアが開き、喫茶かのんに祐一が入ってくる。

軽快な音とは反して、祐一の足取りは重かった。

「おつかれさまです〜。」

「おつかれ。」

夕方だが、店には1人も客がいない。

それもそのはず、表には”本日臨時休業”という札が下がっているのだ。

一応、客として名雪がカウンター席で眠っている。

その前には戦果である名雪専用グラスが空になっていた。

「ほんと、こいつはどこでも眠れるなぁ。」

祐一は呆れながら、名雪とは離れたテーブルに座る。

だが最初の一言だけで、終始無言であった。

舞が水を持ってきても何も言わずにいた。

そして、佐祐理と舞がコーヒーなど3つを持ってきて祐一の隣に座る。

「香里さんは?」

紅茶に砂糖を入れながら舞は聞いた。

「北川が家まで送ってる。今回は運がよかったのさ。」

祐一はコーヒーから立ち上る湯気を見つめているだけだった。

その濁った水面に、祐一はある女性を映し出していた。

もう、会うことができないと思っていた人物を・・・・・・・・。

「あの人がこの事件に絡んでいる・・・・・」

視線はそのままに、静かに祐一は言った。

息を呑む佐祐理と舞。

祐一がこういう言い方をする人物とは、一人しか思い当たらない。

「もしかすると、美坂姉妹がまた狙われるかもしれない。だからガードすることにした。」

「そうですか・・・なら、祐一さんがいない時はここの手伝いでもしてもらいましょう。」

「ありがとう、佐佑理さん。そのつもりだった。」

落ち着いている風を装っている祐一の前で、自分が動揺してはいけないと佐佑理・舞はできるだけ普通に振舞おうとする。

「祐一はどうするの・・・・・・」

舞の手は汗ばんでいた。

彼女自身どう対処したらよいかわかりかねていた。

「相手の意図が・・・いまいちわかりかねてる。だから・・・・」

「だから?」

「待つさ。情報を集めながらな。もしかしたら、俺の思っている相手と違うかもしれないし・・・」

それは祐一の願望であったのかもしれない。

だが、それはその場にいる3人共通の願望であった・・・・・・・








<つづく>


あとがき

はい、あとがきです。
ずいぶんと更新が遅くなりました。
理由はいろいろとありますが・・・・・不定期日記を参照してください・・・・
とにかく、家に帰ってメモ帳を開いて文字を打つのがきつかった・・・・
それだけのことです。
さて、このトリガーですが・・・・まだ続きます。
ちょっと、ダークっぽい部分も入ります(多分)。
最終話までちゃんと書くので、よかったらお付き合いねがいます。
ご意見・ご感想もお待ちしておりますので、遠慮なくけなしてくれてもOKです。
では、また次話にて・・・

PS.投稿募集中〜



ご意見・ご感想はこちらまで



====================================================
あゆ「メインコーナーがやってきたよ♪」
栞 「そうですよね、あゆさんはここ以外では目立てないですからね。」
あゆ「そんなこと言う人嫌いです」
栞 「え〜ん、あゆさんが私のセリフを真似する〜(涙)」
香里「しかたないわよ、脇役ですもの。そうでもしてめだたなきゃ。」
栞 「そうだね、おねえちゃん。」
あゆ「うぐぅ・・・・・香里さん、ひどいよぉ・・・・」
香里「それにしても、北川君がめだってるわね。」
栞 「そうだ、あゆさん。いい案がありますよ。」
あゆ「うぐぅ?」
栞 「北川さんの彼女になれば、出番が増えるかもしれませんよ♪」
あゆ「不可(1秒)」
香里「秋子さんレベルの早い反応ね。」
北川「なぜじゃ〜〜!俺じゃだめなんか〜」
あゆ「だめ(0.3秒)」
北川「俺の彼女になれば、毎日タイヤキ食べ放題だぜ。」
あゆ「・・・・・・・・・・・・・・・・・いやだよ。」
栞 「反応が遅れましたね。」
香里「うぐぅゆえの悲しさね・・・・・」
あゆ「うぐぅ・・・・」