「やはり失敗ですか・・・・・」

「あんな嬢ちゃんじゃ仕方ないさ。」

いくつものモニターがリアルタイムに情報を映し出す薄暗い部屋。

異様な雰囲気をかもしだす3人だいた。

「あの子はよくやってくれたわ。ただ、相手が悪かっただけよ。」

一人は美女。

「最初から私が行けばよかったのですよ。」

一人は若者。

「いや・・・奴の相手は俺しかいないだろ。」

最後の一人は不気味なおやじ。

しかし、声は若々しい。

咥えたタバコから立ち上る煙が、部屋の空気に消えていく。

「おっさんはもう、時代遅れなんだよ。」

「よく言うぜ。ヒヨッコが・・・」

お互いの皮肉にも険悪なムードが漂うことはない。

なぜなら、この2人は親子よりも強い絆で結ばれた師弟だからだ。

「さて・・・どうしましょうか・・・・今、あまりカードを切るわけにもいきませんし・・・・」

口元に人差し指を当てて、考え込む水瀬秋子。

「俺にちょっと面白い趣向があるんだが・・・・・」

静かに挙手をして意見を述べるおやじ。

「どういったものでしょう?」

「さぁ・・・それはその時のお楽しみ、ってのが定番じゃないのかい?・・・・アンタの望む方向にはあると思うぜ。」

おやじくさく、にやりと笑みを浮かべた。

「ならば、今回はあなたに任せましょう。ですが、鳥さん達のお世話もちゃんとお願いますよ。」

「ああ、任されたぜ。あほう鳥がいつ鳴くか・・・・そして、ボウヤがこいつを越えたころには・・・・・」

「ええ・・・そちらの準備もよろしくおねがいします。」

静かに瞳を閉じる秋子。

その様子を見ると、2人はゆっくりと部屋を出て行った。

「私の望みがかなう日も近いのかしら・・・・・祐一さん・・・・」





トリガーを引くのは 第9話





「はい、朝食よ。」

笑顔とエプロンがまぶしい香里が、テーブルに朝食を並べていく。

「なんか・・・・このテーブルで食事するの久しぶりだな・・・・・」

「うにゅ、そうだね・・・・・」

水玉のパジャマを着た祐一と、寝不足な(それでも昨夜はちゃんと眠ったハズ)名雪が顔をあわせた。

通常、朝食は佐佑理さんのところか、家でトースト。

昼食も佐佑理さんのところ。

夜は適当な外食という暮らしが続いていたため、このテーブルで食事をした時など特別な日くらいしかない。

そもそも、二人とも料理ができない(正確には祐一はしたくない)というのが原因なのだが。

名雪もすでに自分の料理の腕にはあきらめがついているようである。

「たいしたものはできなかったけど、食べて。」

基本的謙遜だ。

佐佑理さんクラスの朝食がそこには並んでいた。

「おねえちゃんの手料理って、ひさしぶりです〜。」

「これからは毎日作ってあげるわよ。」

料理を並べ終わった香里も席につく。

ご飯・みそしる・卵焼き・焼き魚といった日本食的朝の食卓となった。

「いただきます。」

「いただきます♪」

「いただきます。」

「うにゅ〜。」

静かに朝食が始まる。

さっそく名雪はなぜだか手がジャムに伸びていた。

だが、このごに及んで彼女につっこみを入れるメンバーではない。

そんな異様なスタートの光景の中、早速このメニューの要ともいえる、”みそしる”(ミソスープ)に手を伸ばした祐一。

同じくみそしるの器をもっていた香里はさりげなく視線を祐一に向けていた。

相沢君の口にあうかな・・・・・少し不安な香里。

学校の調理実習や行事以外では、他人に料理を作ったことはないのだ。

とくん・・とくん・・・とくん・・・

自分の動悸が体中に響いている。

初めて好きな人にお弁当を作った高校生のような自分がそこにいることに戸惑いつつ、

視線は祐一から離れない香里。

みそしるの御椀を口元にもっていったままの体勢で固まっていた。

だが、そんな彼女につこみを入れるようなメンバーではないのは先ほどと同じ。

名雪はご飯にジャムをかけて、のりを巻いて食べてるし、栞は食べることに必死で周りに注意がいっていない。

祐一は・・・・・みのむしの影響か、無言で箸を進ませている。

さすがにいわれのない裁きを受けて、へらへらいていられるほど人間はできていないということか。

無言で食事をすすめる祐一にやきもきする香里はついに口を開いた。

「どう、おいしい?」

とりあえず栞にふる。

「うん、おいしいです♪」

「そう、よかった。相沢君はどう?」

香里の言葉が聞こえているはずであったが、祐一は無言で味噌汁をのみ干した。

箸をからになった茶碗におく。

「ごちそうさん。」

イスを押して、席を立つ祐一。

やはりその表情はさえない。

「だから・・・朝もちゃんと謝ったじゃない。私達が悪かったんだからもう機嫌直してよ。」

あからさまに不快ですと顔で表している祐一を香里がなだめる。

昨日の誤解は、栞からなりゆきを聞いて解けていた。

「昨日は寒かった・・・・」

「だから、いくらでも謝るわよ。」

「でも、暖かくてうまい朝飯にありつけたからそれでよしだ。夕飯も楽しみにしてる。」

立ち去る祐一の背中を見ながら、彼のセリフを心の中で反芻させる香里。

”うまかった”

”夕飯も楽しみにしてる”

なんだか頬が熱くなり自然と笑顔になった香里だが、妹も親友も相変わらずその様子には気がつかないようであった。

笑顔の香里の頭では、今夜の献立をなににしようか?という思考で一杯であった。






<つづく>





あとがき

こんばんわ、せーりゅーです。
ということでつづきます。
相変わらずどっちつかずです。
さらに短いっす。
ちょっとした区切りなんでここで止めました。
次回あたりから新たな展開に入る予定かな?
またおつきあいしていただけるとうれしいです。


========================================================
あゆ「ということで恒例のコーナーだよ。」
栞 「おねえちゃん、今回かわいかったです〜。」
香里「し、栞!」
名雪「香里テレてる〜」
香里「もう・・・名雪まで・・・」
あゆ「ボクの出番なし・・・・」
栞 「でも、ヒロインはおねえちゃんに渡しませんからね♪」
名雪「そうだおー」
香里「べっ、別にヒロインになりたいわけじゃないわよ。」
あゆ「ボクの出番なし・・・・」
名雪「祐一を餌付けしようとしたみたいだし・・・・」
栞 「(コクコク)」
香里「そんなつもりじゃないわよ。ただ・・・一緒に住ませてもらってなにもしないのも・・・」
あゆ「ボクも何かしたいよ・・・・恒例コーナーも短いし・・・」