中性浮力

2.適正ウエイト
 ここでは中性浮力を復習します。 中性浮力の練習は講習でされたことと思います。
 中性浮力は確かにスキルの一つなのですが、自分の適性ウエイトは自分で判断できるスキルというのが、まず第一に必要となります。ガイドさんに適正ウエイトを尋ねても、大体の目安しか答えが返ってきません。それは本当の適正ウエイトではありません。つまり本当の適正ウエイトは自分で判断できないと中性浮力は困難だという事実があるということです。順を追って復習してみましょう。
 まずは正しいウエイト量(適正ウエイト)がつけられていないと、どういうことが起こるか考えてみましょう。
(1)オーバーウエイトの場合

呼吸による浮力変化が過剰になる
 
オーバーウエイトでも、BCに空気を多めに入れれば中性浮力が取れると考えがちです。ところが実際のダイビングでは、適正ウエイトで中性浮力がとれていたとしても、呼吸をすると肺の浮力が変化し、息を吸っては浮き、息を吐いては沈みを繰り返すものです。オーバーウエイトの場合はなおさらで、適正ウエイトの時よりも余分にエアーを入れて中性浮力を保っている状態ですので、たった数十センチ上に上がっただけでも過剰にBCが膨張して急に浮力が増してしまったり、逆にちょっと下に動いただけで過剰に収縮して浮力が無くなってさらに落下したり。つまりオーバーウエイトの場合、BCに入っている空気の量が多いので微小な水深変化でもBCの浮力が大きく変わる為、中性浮力が取りにくくなってしまう訳です。


潜降は墜落型になりやすい
 潜降時にBCのエアーを抜くと息を吐いてもいないのに潜降してしまうならオーバーウエイトです。急激な潜降は耳は抜けても副鼻腔が抜けず、潜降後、痛みは無くても頭の中でやや圧迫感が残る場合があります。実はこのときに、もう一度浮上して圧迫感が無くなってから再度、もっとゆっくりと潜行する必要がありますが、もしこのままダイビングを続けると、ダイビング後半から吐き気、頭痛などが発生します。ダイビング中は「急浮上」がだめな事は良く知られていますが、「急潜行」もタブーです。
オーバーウエイトの場合、水深が変化すると浮力変化が過剰になる。その為、呼吸による水深変化くらいでも墜落したり、吹き上げられたりしてしまうことがある。浅海になるほど浮力変化が激しくなります。
(2)ウエイト不足の場合

 
この場合は、もちろん浮き気味になります。ものにつかまったりしないと浮いてしまいます。ウエイト不足の状態では、中性浮力はまったく不可能な状態になります。この場合は、もう石をポケットに入れたりしてウエイトを足すより他ありません。
安全停止が困難になる
 特に3m〜5m程度の深さでの安全停止が困難になりますとこれも危険です。何かにつかまろうとしてしまい、うっかり何か石の下などに手を入れやすくなってしまいます。その為、ガンガゼに刺される事故がおきたりしてしまいます。
浮上速度の調整が困難になる
 安全停止をした後にも、水面まではゆっくり浮上する必要がありますが、ウエイト不足ですと、水面に近づくほどスピードが増して吹き上げられてしまいます。リバースブロックやベンズの原因にもなりやすいため、ウエイト不足はウエイトオーバーよりも危険な状態になります。



(3)適正ウエイトを知ろう  
 実際潜って中性浮力を練習する方法は学習したかとおもいます。ここでもう一度復習してみましょう。

中性浮力の練習
 1. まずBCのエアーを完全に抜いて着底をします。
 2. その後、少しずつBCにエアーを入れていきます。
 3. フィンの先は着底させたままにしておき、正しいレギュレター呼吸をおこない、右の図のように、上体が呼吸の度に浮き沈みする状態が中性浮力が取れた状態です。

タイムラグを学ぼう
 呼吸をすると肺が大きくなったり、小さくなったりします。その為、呼吸の度に浮力が変化します。ところが息を吸ってすぐに浮き始めるのではなくて、息を吸い始めてから、2秒くらいのタイムラグがあって浮き始め、息を吐いてから2秒くらいしてから沈み始めます。そのタイムラグを体感して体で覚えておきましょう。中性浮力がとれた場合のタイムラグと、そうでない場合のタイムラグはずいぶん違いますので、タイムラグの違いで中性浮力がとれたかどうかが分かるようになってくるでしょう。

    
                       
(4)適正ウエイトの割り出し方
 適正ウエイトというのは、一般的には潜降に必要な最低限のウエイト量としているところが多いですが、安全性を考えて、ここでは別の定義の仕方をします。潜降の時というのは、タンクもまだ満タンで、タンクの重量がもっとも重いときなのです。ダイビングの終わりにエアーが50atm程度になってくるとタンクの重さは2kg程度軽くなってしまうのですが、その状態で水深3m程度で安全停止をしようとするとウエイト不足で吹き上げられてしまうのです。
 そこで適正ウエイトを定義しなおすと、「ダイビング終了時(たとえばエアー50atmの状態)で水深3mに着底し、体が安定する最低量のウエイト」としたいと思います。従来の定義の適正ウエイトよりもややオーバーウエイト気味にしておく方が、安全停止の時にはとても役立ちます。