情報編

 

1 山スキーの適季とルート状況

 ゴドレー谷の山スキー適季は冬(7〜8月)である。ゴドレー小屋から氷河末端部のガレ場までは、積雪が無い時も多いが、シールで歩けるほど雪が深い時もある。今回のように雪が数十cm積もっている場合は最悪で、スキーは使えないし、つぼ足で歩くと頻繁に雪を踏み抜いて岩の間の穴に落ちることになる。7〜8月の2ヶ月間にゴドレー小屋に泊まる人は、山スキーヤー・ハンター・ハイカーを合わせて4〜5組くらいである。8月の晴れた日なら7時から18時30分までは明るい。

 マウド氷河へ行くには、まず2つの氷河湖をつなぐ幅5mの川を渡渉する。上の湖の出口から100mほど下流の河原にケルンが積んであり、普通はそこで飛び石伝いに渡るようだ。今回は飛び石に雪が積もっていたので、最も浅い所(上の湖の出口)で靴は脱いで渡った。水深は脛までだった。ゴドレー小屋の宿泊者ノートの記録を見る限り、この川が渡渉できないことは滅多に無いようだ。上の湖が凍っていれば、川を渡渉する代わりに湖を歩いて渡る方が早いかもしれない。川を渡った後は、2つの氷河湖に挟まれたモレーンの東面を北へ1km進む。今回は湖岸を真っすぐ進んだが、積雪の無い時には東面のうち歩きやすい所を選んで行くことになるだろう。ガイドブックによれば、所々の岩にルートを示す赤丸印も書いてあるそうだ。そして、モレーン北端を西へ回り込むとマウド氷河末端部のガレ場に入る。氷河末端部でも雪が無い時には容易にルートが見つかるだろうが、今回のように積雪が数十cmある時には、岩が少なくて歩きやすい所を探すのは難しい。

 グレイ氷河へ行くには、幅1kmのマウド氷河末端部を西岸へ渡る。下の氷河湖は地形図が作られた時より北へ延びてゴードン峰(2,090m)南麓に達しているので、湖が凍っていなければグレイ氷河末端までゴードン峰南麓を0.5km横切って行く必要がある。

 ゴドレー氷河へ行くには、凍結した上の氷河湖を3.5km歩いて渡る。上の湖も地形図より長くなっている。湖は今年7月には凍っていたが、今回の山行時(8月上旬)には水面が現れ始めて渡れなくなっていた。8月末まで凍っている年もあれば、全く凍らない年もあるようだ。ゴドレー谷を訪れる人は少ないので、湖の氷の状態について入山前に情報を得るのは難しいだろう。湖が凍っていない時には、南東岸の尾根の中腹にある緩斜面(標高1,600m付近)を高巻いてからゴドレー氷河へ下りるのが普通だ。北西岸の湖面付近を巻ける可能性もあるが、こちらは必ず通過できるという保証は無い。ゴドレー氷河からネイシュプラトーへ行く途中のアイスフォール(1,500〜1,660m)は、北東岸の急斜面を登って巻かなければならない時もある。このため、マウド氷河からマウドパスを越えてネイシュプラトーへ入るパーティの方が多い。

 フィッツジェラルドストリームでもスキーが可能だ。

2 地図・ガイドブック

 ゴドレー谷の山スキーに必要な5万分の1地形図は「I35 Whataroa」「I36 Godley」である。クック周辺の山域全体を見るには、11万分の1のParkmap「Mount Cook & Westland第5版, Department of Conservation発行, 1999年」が良い。これらの地図は、東京のマップハウス(ホームページhttp://www.maphouse.co.jp/)へ注文することができる。

 ガイドブックには下記のものがあり、ニュージーランド山岳会(ホームページhttp://www.alpineclub.org.nz)へ注文することができる。
* Aoraki Mount Cook第3版, Alex Palman著, the New Zealand Alpine Club発行, 2001年
* New Zealand Backcountry Skiing, James Broadbent著, the New Zealand Alpine Club発行, 2004年

3 入下山の方法

 テカポからセパレーションストリーム出合までの片道50kmは4WD車で往復する。冬は積雪のためセパレーションストリーム出合まで車が入れない可能性が30%くらいあり、最悪の場合は5km手前のレッドスタッグ小屋(960m)から歩くことになる。道は不明瞭で路面状態も悪く、旅行者が自分で車を運転するのは無理だ。テカポには4WDツアー会社は無いので、今回はテカポの登山ガイド会社アルパインレクリエーション(ホームページhttp://www.alpinerecreation.com/)に紹介されたテイラーメイド・テカポ・バックパッカーズ(ホームページhttp://www.tailor-made-backpackers.co.nz/)というホテルの主人マイケル・ミグレー氏に、4WD車による送迎を頼んだ。なお、橋の無いマコーレー川を4WD車で渡らなければならないが、冬なら川が増水する心配はほとんど無いそうだ。

 マイケルの話では、テカポヘリコプターズ(ホームページhttp://www.tekapohelicopters.co.nz/)をチャーターすればゴドレー小屋付近に着陸できるそうだ。しかし、ヘリコプターは天気が悪いと飛べないこともあるので、入下山に使う場合は予備日が必要だ。

4 ゴドレー小屋

 ゴドレー小屋は8人収容である。無人だが、使用料を払うため小屋にある用紙にクレジットカード番号を記入して、下山後にニュージーランド山岳会へ郵送しなければならない。郵便局はテカポのビジターインフォメーション内にある。小屋の裏の斜面には小さな沢が流れており、小屋の100m北の所でその水がくめる。水用のバケツは小屋に置いてある。鍋やフライパンも2〜3個ころがっているが、自分で持っていく方が無難だ。ベッドにはマットが敷いてある。

5 緊急連絡の方法

 ゴドレー小屋には環境保護省の短波無線機が設置され、アオラキ・マウントクックビジターセンター(ホームページhttp://www.doc.govt.nz/)や後述するカンタベリー・マウンテンラジオサービスと連絡できるようになっているが、今回はバッテリーが不調で使えなかった。小屋の無線機の状況は、事前にビジターセンターへ確認しておく必要がある。

 小屋の無線機が使えない時には、カンタベリー・マウンテンラジオサービス(ホームページhttp://www.mountainradio.co.nz/)の短波無線機をレンタルすると良い。最も小さなSR-3型なら、本体もアンテナ(40mの導線)もそれぞれ片手で持てる大きさだ。この無線機は救助要請に使えるほか、基地局に頼んで指定した電話に接続してもらうこともできるそうだ。また、5日先までの天気予報が毎日3回放送される。今回SR-3型をゴドレー小屋のアンテナにつないでみたところ、基地局の声は十分大きく聞こえたが、音が割れたりして早口の会話は聞き取りにくかった。持参したアンテナを使えば、もっと音は悪くなるはずだ。「事故が起きたので、すぐ救助してほしい。」といった話は、ゆっくり繰り返せば何とか伝えられそうだ。しかし、「天気が悪くて退屈なので、予定より1日早く車で迎えに来てほしい。」といった無線連絡は、間違いの元だからやめておくべきだろう。

 アオラキ・マウントクック国立公園では、ビジターセンターで登山登録を受け付け、予定日までに下山報告が無ければセンターが捜索を始めることになっている。今回は出国前にビジターセンターへ問い合わせ、「ゴドレー谷へ登る場合も、センターへ電話すれば登録できる。」という返事をもらっていた。しかし、入山日にセンターへ電話すると「ゴドレー谷はトゥワイズル地域事務所の管轄だ。」と言われ、トゥワイズル地域事務所では「登山登録は受け付けていない。」と断られた。そこで、4WD車で送迎してくれるマイケルと相談のうえ、「我々は、毎日ゴドレー小屋を出る前に宿泊者ノートへ行動予定を記入する。」「下山予定日に我々がセパレーションストリーム出合へ現れなければ、マイケルは小屋まで歩いて行って宿泊者ノートの内容を確認し、それをもとに救助機関や日本の山岳会留守本部へ連絡する。」という体制を取ることにした。

6 装備・食料

 標高1,110mのゴドレー小屋付近では冬でもしばしば雨が降るし、標高2,500m付近でも気温は0度〜マイナス10度程度の時が多いので、厚いマウンテンジャケットよりカッパを着て行動する方が快適だ。しかし、ゴドレー小屋にいる時には隙間風が入って寒いので、ダウンベストなどを持参するべきだろう。プリムス互換のガスカートリッジやフリーズドライは、クライストチャーチのカンタベリー・マウンテンラジオサービス事務所(バリンガーズ・ハンティング&フィッシング)や登山用品店(リッチフィールド通りとコロンボ通りの交差点付近に数軒)で購入できる。ガスカートリッジはテカポのビジターインフォメーションでも売っていたが、いつも在庫があるかどうかは分らない。食料・雑貨は、クライストチャーチのサウスシティ・ショッピングセンターやテカポのスーパーマーケット(ビジターインフォメーションの隣)で買える。

7 交通・ホテル

 クライストチャーチ〜テカポ間は数社のバスが運行している。今回は、クライストチャーチを午後に出発するバスが無いため、代わりにディスカバリートラベル(ホームページhttp://www.discoverytravel.co.nz/)のチャーター車でテカポまで行った。帰りはバスを使った。レンタカーを使う場合、幹線道路に積雪があることは少ないので2WD車で十分だろう。

 テカポではゴドレー・リゾートホテルに泊まったが、多くの客が湯を使うと水しか出なくなり、給湯能力が回復するまで数時間かかった。

8 主な費用

* 日本〜クライストチャーチ往復の航空券:1人当たり22万円
* テカポ〜セパレーションストリーム出合往復の4WDチャーター車:1台当たり7万円
* クライストチャーチ空港〜クライストチャーチ市内(買出し)〜テカポ片道のチャーター車:1台当たり5万円
* テカポ〜クライストチャーチ片道のバス:1人当たり3,600円

ニュージーランド ゴドレー谷(偵察)