行動記録
3月24日 成田−ローマ
3月25日 ローマ−カサブランカ−
3月26日 −マラケシュ
3月25日の夜遅くカサブランカ空港に着き、中央駅に移動してマラケシュ行きの夜行列車に乗る。車内の明りは消されており、椅子も木製の硬いものだ。出発時刻が迫ると、大勢の人が乗り込んできて満員になった。座席の確保を巡って乗客同士がもめているのか、あちこちでアラビア語の口論が起きている。我々はザックとスキーで広い場所を占領しているので、「お前達は邪魔だ。」と喧嘩をふっかけられないか冷や冷やする。列車が動き出すと、どの乗客もそれなりの場所に落ち着いて静かになった。レールの音だけが暗い車内に響く。窓の外に目をやると、アフリカの平原の上に月が浮かんでいる。
翌朝マラケシュに到着。ここは、ムラービト朝・ムワッヒド朝の時代(11〜13世紀)の都だ。城壁に囲まれた旧市街に入ってみると、迷路の両側に肉屋や銀細工の店がぎっしりと並んでいる。中央部にはジャマエルフナ広場があり、蛇使いやアクロバットの大道芸人とその見物客でいつも賑わっている。
3月27日(晴れ)マラケシュ−アスニ−イムリル−ネルトナー小屋
マラケシュからバスに乗り、菜の花畑の彼方に白く輝くアトラス山脈をめざす。1時間で戸数50ほどのベルベル人の村アスニに着く。バス停にいた2人の男にイムリル行きのタクシーはどこでつかまるか尋ねると、「タクシーが来るまで時間があるから、家に寄ってお茶でも飲んでいかないか。」と言う。怪しい誘いは断るべきだったが、のどかな村の風景に気が緩み、彼らについていってしまった。招待された家は、土壁の四角い建物に小さな窓を開けたベルベル人の伝統的な住居である。絨毯に腰を下ろしてミントティーをすすっていると、男達は装身具などを持ち出してきて「奥さんへのお土産に買わないか。」「君の登山用ジャケットと交換してもいい。」と盛んに勧める。彼らは登山ガイドもやっているので登山装備が欲しいようだ。しつこい商談をかわしてお茶代だけ払い、彼らと一緒にバス停へ戻る。
男達は「タクシーを呼んでもいいが、イムリルまでは100ドルだ。」と言う。ロンリープラネットのガイドブックにタクシー代は15ドルと書いてあったので、僕は「15ドルだ。」と主張するが相手にされない。30ドル、50ドルと次第に値を上げてみても、彼らは「ベルベル人も頑固だが、お前はそれ以上に石頭だ。」と言って1ドルもまけようとしない。辺りにはタクシーの手配を頼めそうな人も他にいないので、やむを得ず100ドル払うことにした。帰りに乗った別のタクシーも100ドルだったから、結局これが相場だったようだ。ガイドブックの記事が間違っていたか、さもなければここ数年のうちに大幅に値上がりしたのだろう。
タクシーに30分乗って15km奥のイムリルで下りると、たちまち我々の回りに人だかりができた。大人達は「荷上用のロバを雇わないか。」と口々に売り込んでくる。子供達は、我々が東洋人と見て空手の真似をしながらじゃれついてきた。ロバを雇って荷物を積み、デイパックだけ担いでロバの後から歩いて行く。鮮やかな衣装の女達が働く麦畑を抜け、乾いた風景の谷間をたどる。日差しは強く、帽子が無いと熱中症になりそうだ。2時間で沢のほとりの僧院シディ・チャマロウチ(2,310m)に着く。積雪も現われ始めたので、ロバが登るのはここまでだ。
しばらくスキーを担いで登り、標高2,700mまで来るとシールで進めるようになった。シディ・チャマロウチから3時間でネルトナー小屋に到着。小屋の中は混雑しているので、近くにテントを張って泊まる。
3月28日(晴れ。ツブカル山頂には雲がかかっている。)ネルトナー小屋−ツブカル−ネルトナー小屋
ネルトナー小屋からツブカルへ登る。まず小屋の東の急斜面を上がってから、イクヒビ・シュッド谷を詰める。谷が盆地状に開けたら右手の鞍部へ登り、ツブカル南西稜を0.5km進めば山頂に着く。小屋から山頂までの所要時間は4時間である。天気は良かったが、山頂付近だけは雲がかかっており、残念ながら何も見えない。標高4,000mを越えて空気が薄いので、見を屈めてスキーのビンディングを締めるだけでも息切れがする。
山頂から北へ伸びる尾根を少し下り、西側にある35度の急斜面に滑り込む。快適なざらめ雪をひとしきり滑ると傾斜は緩む。後は、モナカ雪に変ったイクヒビ・シュッド谷を滑走してネルトナー小屋へ戻る。
3月29日(晴れ)ネルトナー小屋−アキウド−ネルトナー小屋−イムリル−アスニ
今日はアキウドへ登る。ネルトナー小屋から0.5km南へ進み、幅10m、高さ50mのガリーを抜けてアキウド北東面の谷へ入る。谷の正面の鞍部ではなく、アキウドのすぐ北のコルをめざす。コルにスキーを残して、雪尾根を登れば山頂だ。小屋から山頂までの所要時間は3時間である。谷を挟んでツブカルが良く見える。
コルに引き返してスキーを履き、35度の急斜面を滑る。100mほど下れば幅500mの広くて緩やかな谷となり、ざらめ雪のスキーを満喫してネルトナー小屋へ戻る。テントをたたんで下山。シディ・チャマロウチからイムリルまではロバを雇う。タクシーでアスニまで行き、ホテルに泊まる。
3月30日 アスニ−マラケシュ
3月31日 マラケシュ滞在
4月1日 マラケシュ−カサブランカ
4月2日 カサブランカ−ミラノ
4月3日 ミラノ−
4月4日 −成田
情報
ツブカルの山スキー適季は3〜4月である。夏には雪が無くなる。装備は日本の春山用のもので十分だ。ガスカートリッジ・食料・雑貨はマラケシュで購入しておく方が良い。モロッコでは、登山者用のロバの馬方も含めて観光業者なら英語を話せることが多い。