行動記録

 

4月25日(成田15:20―シアトル08:00〜09:50―アンカレジ12:30〜15:00―タルキートナ17:30)

 

タルキートナ〜ベースキャンプ

4月26日 晴(タルキートナ12:30―ベースキャンプ1,737m 13:00)

 8時過ぎにタルキートナのデナリ国立公園レンジャーステーションへ出掛けて登山登録を済ませ、レンジャーからルートの情報を聞く。それから、エアタクシー会社へ行って手続きや荷物の準備をする。10時30分には準備が整ったが、遊覧飛行の先客もいて、我々の4人乗り飛行機が離陸したときは12時30分になっていた。飛行機は北北西に向かう。マッキンリー(6,193m)・フォーレイカー(5,303m)・ハンター(4,441m)が次第に近づいてくる。距離80kmを30分で飛び、シェルダン小屋の東の氷河に着陸する。

 着陸地点の横にベースキャンプを設営する。誰かがキャンプをした後なので整地は楽だし、食料貯蔵用の雪穴まで残っている。他には3つほどテントがあり、小屋に泊まっている人もいるようだ。幕営地の端にはレンジャーが作ったらしいトイレも1つある。氷河に深さ10mの穴を掘ってその上に洋式便器を置き、三方を高さ1mの板で囲っている。ベースキャンプの北西15kmの所に聳えているのはマッキンリーだ。北の方にはルースアンフィーシアター(1,615m)を見下ろすことができる。これはルース氷河の北俣・北西俣・西俣の出合にできた東西8km、南北2kmの氷の盆地であり、古代ローマの円形演技場になぞらえてアンフィーシアターと呼ばれているようだ。

 

ダンビアード南東の2,042m峰

4月27日 晴。朝夕は曇。マッキンリーには時々雲が掛かる。(ベースキャンプ08:30―ダンビアード南東の1,920m峰11:30〜12:00―2,042m峰13:00〜13:20―ベースキャンプ15:30)

 ベースキャンプから北へ滑り降り、クレバス帯の手前でロープとシールをつけてルースアンフィーシアターを横断する。ダンビアード南東の1,920m峰の西麓に着いたらロープをはずし、丸い山頂まで登る。東側には、明日以降に登る予定のエクスプローラーズピークやムースズツース北西の標高2,134mの峠が良く見える。反対側のルース氷河西俣を遡った所に見えているのはハンティントン(3,730m)の北壁だ。

 マルタンと牧野はスキーを担いで北隣の2,042m峰へ登り始めたが、僕は明日のエクスプローラーズピーク登山に備えて手前のコルで休んでおく。2人はモナカ雪のラッセルに苦労したようで、1時間掛けてようやく標高差122mを登りきった。彼らが戻るのを待って滑降開始。斜面の上部は硬くて滑りやすかったが、下部ではモナカ雪の皮がスキーに引っ掛かるようになった。往路を辿ってベースキャンプに帰る。

 

エクスプローラーズピーク(2,603m)

4月28日 朝は曇。7時30分から雪と霧。1日で3cm積もる。(ベースキャンプ05:45―ルース氷河北俣出合07:40〜08:20―ベースキャンプ10:30)

4月29日 快晴(ベースキャンプ07:00―エクスプローラーズピーク西面取付き2,042m 12:00―エクスプローラーズピーク14:00〜14:30―エクスプローラーズピーク西面取付き15:00―ベースキャンプ17:30)

 4月28日はエクスプローラーズピークを目指して2時間ほど進んだが、雪が降り出したのでベースキャンプへ引き返す。29日に再び同ピークへ向かう。ベースキャンプからルース氷河北俣を経てエクスプローラーズピーク西面取付きまでは12kmあり、5時間掛かる。

 西面の左端を50m登ると、半ば雪で埋まったベルグシュルンドに着く。この上は傾斜が急(35度)になるし、氷の上に新雪が10cm載っていて滑りやすいので、クトーを付けロープをはずして登る。さらに150m上で右にトラバースすると、傾斜が20度〜30度で幅・高さ共200mの大斜面に出る。大斜面の一番上は高さ20mの氷壁で、これを左から巻いて越えれば頂上台地の末端(2,438m)だ。緩やかな台地を南東へ進み、エクスプローラーズピーク東峰・西峰のコルまで35度の急斜面を登る。コルから東峰までは3分ほどだ。

 東峰からは、シルバースローン(4,029m)などルース氷河北俣上部にある純白の山々が良く見える。3,621m峰には広い斜面があってスキー向きのようだ。これらの山の近くに飛行機が着陸できるかどうかは不明であり、もしルース氷河北俣を下部から上部へ歩いて登るとすれば、標高2,134m〜2,743mにあるアイスフォールを越えなければならない。このアイスフォールは通過できない年もあるらしいが、今年ルートを開くなら西側の部分が良さそうに見える。

 エクスプローラーズピーク滑降のハイライトは、東峰・西峰のコル北側の急斜面である。この沢状の斜面には新雪が50cmも積もっていて、ターンをするたび粉雪が頭の高さまで舞い上がる。しかし、緩やかな頂上台地の滑りもいい。マッキンリーに向かって広い台地に大きなターンを刻んで行く醍醐味は、ルース氷河ならではのものだ。標高が下がるにつれ、雪は湿って重くなってきた。大斜面からベルグシュルンドを経て、西面取付きまで下る。ここからルース氷河北俣をトレース伝いに滑り、わずか1時間でルースアンフィーシアターに着いた。後はシールをつけて1時間ほど登ればベースキャンプである。

 

ムースズツース北西の標高2,134mの峠

4月30日 快晴(ベースキャンプ08:45―ムースズツース北西の標高2,134mの峠12:00〜12:15―ベースキャンプ14:30)

 牧野は単独でバリルへ出掛けたので、島津とマルタンの2人でムースズツース北西の標高2,134mの峠を滑りに行く。ルースアンフィーシアターを横切って峠の西側の登り口に着くと、飛行機の着陸した跡が残っていた。クレバス帯の左を少し登ってから急斜面の下を右上する。後は谷を詰めれば峠に着く。傾斜はせいぜい25度であり、ルートの左右にクレバスも目立つので、ロープをつけたまま峠まで登る。峠の2km南には、蒼氷を纏ったムースズツース(3,150m)の北壁が見えている。峠の北の2,195m峰もスキーで登れるが、今日の稜線は雪の状態が悪い。スキーで踏むたびに氷の上の薄片が剥がれて登りにくいので、すぐ峠へ引き返した。稜線と違って、峠の西側の谷は最高の雪質だ。トレースを大きくはずれないように注意しながら、深雪滑降を満喫する。

 

ディッキー(2,909m)

5月1日 曇だが時々日も射す。マッキンリーには雲が掛かっている。(ベースキャンプ05:15―ディッキー南壁の下1,356m 06:45―標高1,942mの峠09:00―ディッキー15:15〜15:45―ピトック峠2,234m 16:45―ベースキャンプ17:15)

 ベースキャンプからディッキーに登る最短ルートはピトック峠を経て西稜を辿るものだが、峠手前の長さ1kmの区間ではディッキー北西壁からセラックが落ちてくるおそれがあるため、国立公園のレンジャーもガイドブック「Alaska. A climbing guide.」も南西稜ルートの方を推奨している。その奨めに従い、ディッキーの東のルースゴルジュを下って南側へ回り込む。ゴルジュの中はトレースが残っているのでシール無しで滑走するが、ロープはつけておく。両側には高さ500m〜1,500mの花崗岩の壁が聳えている。

 ディッキー南壁の下でシールをつけ、南西稜取付きに当たる標高1,942mの峠を目指す。途中に高さ100mの凍った急斜面(30度)が3つあり、クトーを使ってジグザグに登るが、ロープがスキーに絡んだり斜面上の氷塊に引っ掛かったりして煩わしい。急斜面ではロープをはずし、緩斜面に出たら再びロープをつける方が良かったようだ。

 峠の上にあるクレバスを左から迂回した所でロープをはずし、クトーで南西稜を登る。斜面は相変わらず凍っていて傾斜は35度もあるし、尾根の幅も5mくらいで頻繁にキックターンをしなければならないので神経を使う。ここは、スキーを引っ張りながら登る方が楽だろう。小さな平坦地(2,225m)の少し上で2番手のマルタンが片足かストックでクレバスを踏み抜くが、墜落はしなかった。標高2,347mでアイゼンをつけてスキーは担ぐ。しばらく直登してから左上すると、頂上台地の末端(2,530m)に着く。

 再びスキーを履きロープをつけて、1km四方もある広大な頂上台地を登る。ベースキャンプを出発してから10時間後の15時15分にディッキー山頂へ到着。もやが掛かっているので、展望は今一つだ。

 新雪が20cmほど積もった頂上台地を気持ち良く滑る。牧野が「下りはピトック峠経由にしたい。」というので、彼を先頭にして頂上台地末端から西稜に入る。西稜は氷が剥き出しになっており、クレバスの位置は分かりやすい。それでもマルタンは一度片足だけクレバスを踏み抜いたらしい。西稜の傾斜は最大45度に達するが、幅が20m以上あるため斜滑降や山回りも使えばスキーで下りることができる。

 ピトック峠からベースキャンプまでは幅200m〜500mの緩やかな氷河である。素早く滑り降りれば、ディッキー北西壁から落ちてくるセラックに当たるおそれは小さい。しかし、行程の半分くらいは新雪でトレースが消されているため、ルートを誤ってクレバスに落ちる確率は高い。牧野はそのまま下りていったが、僕が先頭ならロープをつけて滑りたいところだ。峠から氷河の左端を少し進み、雪壁を10m下る。雪壁の下には幅50cmのクレバスがあるので、1mほど飛び降りてクレバスを越える。その後は徐々に氷河の中央部へ移りながら滑って行き、氷河の右側へ抜け出せばベースキャンプに着く。

 

5月2日 晴(ベースキャンプ12:00―タルキートナ12:30〜16:00―アンカレジ18:30)

5月3日〜4日(アンカレジ滞在)

5月5日(アンカレジ08:00―シアトル12:23〜14:20―)

5月6日(―成田16:45)

アラスカ ルース氷河の山スキー