行動記録

 

4月27日 成田17:10−ロスアンジェルス11:10

4月28日 ロスアンジェルス09:30−ホイットニーポータル15:00

 ロスアンジェルスからハイウェイの5号線と14号線を進み、モハーベに着く。町の北西に見える低い山は、シエラネバダ山脈の南端だ。山腹には発電用風車が何百機も立ち並んでいる。山脈を回り込む風のせいか、この辺りは確かに風が強い。シエラネバダ山脈の東に沿って395号線を北上する。山脈は徐々に高度を増し、乾燥した低山から緑の山へ、さらに岩と雪の4,000m峰へと変化する。右手に南北20km・東西10kmの広がりを持つ干上がった湖オーウェンズレイクが見えると、まもなくホイットニー山麓のローンパインに着く。通りに緑の幟がはためく、小さな観光の町である。モーテルも多い。インヨー・ナショナルフォレストのレンジャーステーションに立ち寄って、登山許可証をもらう。

 ローンパインから「駅馬車」などの西部劇のロケ地として知られるアラバマ丘陵を越え、登山口のホイットニーポータルへ向う。前方にホイットニーのギザギザの岩峰群が見える。標高2,000m付近に「道路閉鎖中。除雪していない。」という看板があるが、レンジャーも「車で登山口まで入れるよ。」と言っていたので、構わず先へ進む。ホイットニーポータルへ着くまでは積雪も現れず、通行に支障は無かった。シエラネバダ山脈の東斜面は、標高2,000m以下が乾燥地帯、2,000m〜3,000mが森林、3,000m以上は岩と雪の世界だ。ホイットニーポータルは森林の中にあり、リスやカケスも良く見かける。駐車場脇の夏のキャンプ場にテントを張る。夕方から山の方では雲が湧き、風もゴーゴーと鳴り始めた。

 

4月29日(午前中晴れ。午後は地吹雪と霧。夜は吹雪で、吹きだまりでは30cm積もる。)ホイットニーポータル07:10−トレールキャンプ13:00

 ホイットニーポータルから森の中の夏道を1時間ほど登り、標高2,830mでスキーを履く。風は強いがまずまずの天気だ。ローンパイン湖の西の谷を詰め、ビッグホーンパーク(3,150m)に出る。今は雪の広場だが、夏は美しい草原になるだろう。広場の西端にはトイレがあり、テントがひとつ張ってある。再び谷を登るとミラー湖(3,250m)に着き、そこから南側の小尾根に取り付く。

 小尾根の上に出ると樹林限界を越え、風当たりが強くなる。ときどき立ち止まっては、強風と地吹雪をやりすごす。単独行の人が下りて来た。上部の様子を尋ねると、「今日は稜線では風が強くてたいへんだった。トレールキャンプまでは1時間ぐらいだよ。」ということだ。コンサルテーション湖(3,560m)の脇を抜ける頃には、霧がかかって視界も悪くなった。

 まもなくトレールキャンプに着く。少し起伏のある広い平坦地で、中央にトイレが建っている。大岩の陰にテントを張る。岩を回り込む風でテントがかなり煽られるが、それでもトレールキャンプでは最も風が弱い場所だ。2人組がスノーシューで登って来た。土曜日だというのに、トレールキャンプに幕営したのは彼らと我々だけである。夜には雪も降り出して、吹雪となる。

 

4月30日(午前中晴れ。午後は曇り。夕方から雪。)トレールキャンプ09:00−ディスカバリーピナクル14:30〜15:00−トレールキャンプ16:15

 吹雪は夜の間ずっと続いたが、日が昇るとともに青空も見えてきた。草柳は深夜から高度障害のため頭が痛くて寝られなかったが、朝起きて除雪作業で身体を動かしたら気分が良くなったそうだ。

 高度順応とルート偵察のため、スキーは持たずに稜線まで往復することにして、9時に出発する。稜線に上がるにはトレールクレストという鞍部まで急な谷を詰めるのが最も楽だが、吹雪の直後で雪崩が怖いので、谷の南東にある岩の出た斜面をジグザグに登る夏道コースを選んだ。夏道のかなりの部分は雪に埋まっており、ルートが分かりにくい。道を1歩はずれると雪の下に隠れた岩で足が滑るので、ピッケルで道の位置を探りつつ歩かなければならない。新雪が積もった傾斜40度の斜面もたびたび横切るため、雪崩の危険もある。2人の間隔をたっぷり開けて、じりじり進む。最後は、トレールクレストまでトラバースする夏道を離れ、雪の斜面を40mほど登って稜線に出る。幕営地から稜線まで標高差500mを登るのに5時間30分もかかってしまった。

 稜線の西面は東面と対照的に緩い斜面で、あまり雪もついていない。北の方のホイットニーへ向う夏道も積雪は少なくて、簡単に登れそうだ。大きな谷を挟んで、シエラネバダ山脈西部のカウェアーピークス尾根やキングスカーン分水嶺が良く見える。これらの山々の方が、雪も多くスキーに適しているようだ。

 稜線を少し北へ進むと、トレールクレストのすぐ南にあるディスカバリーピナクルの山頂に着く。その名のとおり岩峰になっており、南側からは簡単に登れるが、北側は切り立っていて下りられない。トレールクレストへ行くためには東側の雪壁を巻くのが確実だが、積雪が不安定なときには雪崩を誘発するかもしれない。西側のガレ場は、巻けるかどうか分からない。ホイットニーへ登るときには、トレールクレストまで谷を直登する方が良さそうだ。

 テントに戻ると、夕方からまた雪が降り始め、風も強くなった。草柳は頭痛がひどくなり、体温も37.6℃まで上がって食欲が無い。

 

5月1日(地吹雪。夜は吹雪で、吹きだまりでは30cm積もる。)トレールキャンプ滞在

 朝日は見えたが地吹雪がひどいので今日は停滞し、登山活動最終日の明日、ホイットニーを往復してから下山することにした。草柳の高度障害は順調に回復している。食料と燃料は豊富なので、食器の蓋の上で餅などを焼きながら過ごす。

 

5月2日(快晴)トレールキャンプ07:45−トレールキャンプ上の標高3,780m 08:00−ホイットニーポータル11:40−パームデール19:30

 ついに悪天候は通り過ぎた。空には雲ひとつ無く、風も弱い。しかし、嵐の治まるのが半日遅かった。夜半まで吹雪いた翌朝に傾斜40度の谷を詰めてトレールクレストへ上がるのは、雪崩の危険が大きすぎる。実際、谷の側面やミュイール(4,271m)の裾野には雪崩の跡も見える。それにラッセルも深いだろうから、ホイットニー往復には長い時間がかかると思われる。このまま下山することにしよう。

 まず安全な緩斜面を空身で登り、ひと滑りして来る。滑り出しの標高は3,780mで、富士山より少し高い。テントをたたんで山を下る。凍った斜面の所々に新しい雪が張りついており、滑りにくい。名高いシエラネバダのざらめ雪は、とうとう滑らず終いだ。標高3,360mからは、登路の小尾根ではなく、アービン(4,200m)北東稜の岩壁の下を横切り、松林を縫ってビッグホーンパークの東端へ下りるルートを取る。その後は、登ったとおりにホイットニーポータルまで戻る。

 ホイットニーポータルで1時間ほど装備を干した後、ローンパインへ下り、レンジャーステーションで登山の様子を報告する。レンジャーは「町から見ていても、昨日までの3日間は山では天気が悪そうなのが良く分かったよ。」と気の毒そうな顔をした。

 シエラネバダ山麓の乾燥地帯を観光しながら、395号線を南へ向う。まず、オーウェンズレイクの南岸にあるダーティソックス温泉へ行く。オランチャから190号線を8km東に進み、さらに未舗装路を1km入ると、直径10mの丸いコンクリートのプールがあり、中央部からぬるい硫黄泉が湧いていた。近くには建物の土台も残っている。このプールは1927年に作られたそうだ。現在では汚れて入浴できない状態になっているが、かつては巨大な干湖の彼方にシエラネバダ山脈を臨む露天風呂として使われていたのだろう。

 次に、ダーティソックス温泉の南西にあるオランチャ砂丘へ向う。この辺りは、乾燥地帯とは言っても干からびたような背の低い植物は点々と生えているのだが、オランチャ砂丘の所だけは完全な砂漠だ。190号線から砂丘を目指して数百m進んでみたが、2WDの車では立ち往生しそうな悪路になってきたので引き返した。

 395号線をコソ辺りまで南下すると、道路脇にレッドヒルという小さな火山がある。磐梯吾妻スカイラインから眺めた吾妻小富士くらいの大きさで、土の色は赤い。火山そのものは珍しくないが、その山麓の地面から高さ1m〜20mの大小様々な溶岩丘がニョキニョキ突き出しているのは不思議だ。

 この日はパームデールのモーテルに泊まる。

 

5月3日 パームデール−ロスアンジェルス

5月4日 ロスアンジェルス11:40−

5月5日 −成田15:10

米国 シエラネバダ山脈ホイットニー