ふたりのK(lucky)
(注)このSSは「浪漫」とかは一切なくただ「ほのぼの」しているだけです。
それを了承した方のみ御覧下さい。
(注2)SSが終わった瞬間に「風の辿り着く場所」を聞くと、
よりおいしくご賞味いただけます。
俺は北川潤。
脇役をソツなくこなすナイスガイだ。
だが、ひとつ大きな悩みがある。
それは・・・
「脇役だから美坂と『らぶらぶ』になれねえええええっっっ!!!」
あ、ちなみに『らぶらぶ』がひらがなってのがミソな。
って、んなことはどうでもいい。
つまり、そういうことで俺は悩んでいる。
キーンコーンカーンコーン・・・
お、今日の授業も全部終わった。
「どうだ、北川。どうせお前はチョコなんか貰ってねーだろ」
いきなり厭味を言うのは相沢祐一。
会って一月ほどなのに俺の相方と化している。
「うるせー。お前だって同じだろが」
「ふっ、甘いな、北川」
「ま、まさか、お前・・・」
「・・・漢ってのはなあ、チョコなんか貰う軟弱者じゃ駄目なんだよ!!」
そういう相沢の目には涙があふれていた。
「相沢・・・」
「北川・・・」
俺たちに言葉は必要なかった。
「・・・馬鹿やってるトコ悪いんだけど」
隣から呆れたように美坂が俺たちの友情劇を中断させる。
「名雪、起こさなくていいの?」
水瀬さんを見ると机にうつぶせになって寝ていた。
・・・っていうか、朝からずっと寝てた気がするのは気のせいか?
「おいっ、名雪、起きろ!!」
相沢が怒鳴る。
「くー」
が、一向に起きる気配がない。
「・・・『あのジャム』食うか?」
「わわっ」
慌てて水瀬さんが起きる。
・・・『あのジャム』ってなんだ?
「祐一、ジャムは反則だよ」
「お前が一日中寝てるからだろが!」
「うー」
「ほら、帰るぞ」
相沢は鞄を持って歩き出す。
「あ、ちょっと待って、祐一」
そう言って水瀬さんが鞄の中からごそごそと取り出す。
まさか・・・
相沢も心なしか緊張しているようだ。
「はい、祐一、コレ」
そう言って水瀬さんがイチゴ柄の包みを相沢に渡す。
「名雪、コレ・・・」
「うん、バレンタインのイチゴチョコだよ。
・・・徹夜になっちゃったけどね」
ああ、だからずっと寝てた訳か。
「見せつけてくれるわね」
横から美坂が俺にそう囁く。
ってことは当然美坂の顔が近くにあるわけで・・・
「・・・」
俺は緊張で固まっている。
香里も状況に気づいて、真っ赤になりながらも慌てて離れた。
が、相沢たちはそんな俺たちに気づく様子もなく、
自分たちの世界を展開している。
「・・・ありがとうな、名雪」
「・・・うん・・・」
「でも、なにも学校で渡さなくても・・・」
「一度やってみたかったんだよ、学校で渡すっていうの・・・」
「・・・だけど、みんな見てるぞ」
「え?・・・あ」
相沢が言った通り、周りの目は相沢たちに集中していた。
「・・・名雪、とりあえず帰ろうか」
「・・・うん」
二人はそう言って再び教室を出ようとした。
「あ、そうだ」
水瀬さんが再び鞄を探る。
「お母さんからも預かってきたよ」
「・・・俺は嫌な予感がする」
「あのジャムのチョコらしいけど・・・」
「却下」
「でも、帰ったら感想を聞かせてほしいって・・・」
「・・・名雪、俺は今日は外泊する」
「私だけじゃお母さんに言い訳できないよー」
「だったらお前も一緒だ!」
そう言って相沢は水瀬さんの腕を掴む。
「え?」
「なぜか全財産持ってきたから休憩じゃなくて宿泊もオッケーだ」
「え?え?」
「というわけで、れっつらゴー!!」
「はううう・・・」
謎の言葉を残して水瀬さんは引っ張られていった。
が、最後ちょっと嬉しそうだったのは気のせいか?
二人が出て行った後、クラスの連中は蜘蛛の子を散らすように出て行った。
残っているのは俺と美坂だけだ。
「・・・私も帰るわね」
まあ、期待するだけ無駄だったか・・・
ファサッ。
「え?」
自分の首を見ると、丁寧に編まれたマフラーがあった。
「美坂、コレ・・・」
「べ、別に、あなたのために編んだんじゃなくて・・・
その、栞に・・・
そう、栞に編んだんだけど、
私が前にあげたストールがあるからって・・・
だから・・・そういう事よ!」
真っ赤になってしどろもどろに説明する美坂がなんとも可愛らしかった。
「と、とにかく・・・ホワイトデーには期待してるからね」
「だったら、今から相沢たちと同じ所に・・・」
「調子に乗らない!」
「・・・はい・・・」
やっぱ駄目か。
まあ、冗談だけどな。
「・・・でも、『百花屋』位ならつきあってもいいわよ」
「へ?」
「行かないなら帰るわよ」
「いや、行く!行きますとも!!」
「その代わり、奢ってよね」
「もちろん!」
俺にも、遅ればせながらも春の予感がした――――。
これを書き上げて出た一言。
「・・・畜生・・・」(呪)