一日遅れのバレンタイン



真琴ED後…だと思われます(ぉ
真琴は帰ってきたという方向で。








真琴「バレンタインデー?」
天野「そうです」

2月14日。
真琴は学校が終わった天野の家に遊びに来ていた。

真琴「何それ?」
天野「日本では女性から好きな男性にチョコレートを贈る日です。
   チョコレート以外でも構わないのですけどね」
真琴「なんで?」
天野「チョコレートを送るのは日本だけの風習ですが…
   もともとバレンタインデーは…」



五分後。



真琴「あぅ…美汐、もういい」
天野「そうですか…?」

話を中断された天野は少し残念そうだったが、
難しい話に疲れたような真琴を見て苦笑した。

天野「真琴も誰かに贈りますか?」
真琴「誰かって、誰に?」
天野「それは真琴が決める事だけど…
   相沢さんは?」
真琴「祐一?」

祐一の名前を聞いて、真琴が反応する。
ちょっと赤くなったが、すぐにむくれて反論する。

真琴「どうして真琴が祐一に贈らなきゃならないのよっ」
天野「好きではないのですか?」

天野から見た祐一はぶっきらぼうで意地が悪い所もあるものの、
真琴とは喧嘩しながらも気が合うという印象だった。
真琴の反応を見て、真琴も多少なりとも好意を寄せているだろう事は予想できたが、
素直ではない、悪く言えば子供っぽい部分のある真琴は素直には認めないようだった。



ちょっと考えて、天野は機転をきかせて言った。

天野「義理チョコと言うのもあって、
   贈る相手が好きでなくても日頃お世話になったりした人に贈るのもありますよ」
真琴「そうなの?
   じゃあしょうがないよね。
   祐一には肉まんおごってもらってるし、
   もてないんだから特別に義理チョコくらいはあげてもいいよねっ」

そう言って楽しそうに笑う真琴を天野は穏やかな笑顔で見つめていた。



チョコレートを買うために二人は駅前のデパートに行った。
バレンタイン当日という事もあって、特設コーナーには結構な数の女性の姿があった。
義理チョコを真剣に選ぶ者、財布をちょっと覗いて予算と相談している者、
様々である。

天野「相沢さんは甘いものは好きなんですか?」
真琴「えっと…そんなに好きじゃないと思う」

それを聞いてから物色していると、あるものが目に入った。

天野「ジンジャーのチョコレート…
   これなんかどうでしょうか?」
真琴「ジンジャー?」

ちょうど試食品があったので真琴は一つつまんでみる。

天野「あ、真琴…」
真琴「…あぅ〜」
天野「ジンジャーというのは生姜の事です…
   ってもう遅いですね」
真琴「先に言って…」



他にも色々と見て回ったが、
これといって決められるものがなかった。

天野「いっそのこと私達で作りましょうか」
真琴「できるの?」
天野「材料さえあれば大丈夫です」
真琴「面白そうだし、そうしようよ」



結局、材料を買い集め、
天野は真琴とチョコレート作りをする事になった。
キッチンに立ち、二人ともエプロンをつけて作業に取り掛かる。

天野「初心者でも作りやすい生チョコレートを作ります」
真琴「うん」
天野「まず刻んであるチョコレートと室温に戻したバター、
   蜂蜜をボウルに入れて、良く混ぜます」
真琴「あ、それ真琴がやる」
天野「分かりました」

真琴が楽しそうにぐりぐりとかき混ぜている間に、天野は生クリームを火にかける。

天野「そうしたら更に生クリームと洋酒を混ぜて静かに混ぜます。
   チョコレートが溶けきってないようなので湯煎にかけながらしましょう」
真琴「ねー、美汐」
天野「なんですか?」
真琴「ゆせんって?」
天野「…湯煎というのは…」



天野「完全に混ざったようなので、この四角い器にラップを敷いて、
   茶こしでココアパウダー底と側面にを満遍なく振ります。
   そうしないとチョコレートがくっついてしまうし、
   パウダーがあったほうが見栄えもいいですしね」
真琴「うん」

真琴がココアパウダーを敷き終えると、
天野はそこに生地を流し込んだ。

天野「これで冷蔵庫に入れて1時間程固めます」
真琴「1時間?
   じゃあどこか行こっ」
天野「…はい」

天野は微笑みながら外に向かう真琴のあとをついていった。




1時間後。

天野「では、ラップをつけたまま器から出して、
   全体にココアパウダーを振りかけます」
真琴「うん」
天野「そして薄刃の包丁で切っていき、
   切った面にはくっつかない様にココアパウダーをかけていきます」

天野が丁寧にチョコレートを切っていき、真琴がココアパウダーを振りかける。
包丁についてしまうチョコレートを天野は根気良く拭き取りながら切っていった。




天野「これで、あとはラッピングすれば完成です」
真琴「できたの?」
天野「ちょっと試食してみますか?」
真琴「うん」

真琴は端の1つをつまんで口の中に放り込んだ。

真琴「…おいしい」

天野も食べてみるが、その表情からすると良く出来ていたようだ。

天野「ではラッピングしましょう。
   溶けやすいので暖かい所には置かないように」
真琴「うんっ。
   ありがとう、美汐」



はしゃいで家路を急ぐ真琴を見て、
天野は自分は誰にチョコレートを渡すのだろう、そう思った。
そして真っ先に頭に浮かんだのが祐一であり、天野はそれが自分の本当の気持ちなのか、
もしそうだとしたら、と悩む羽目になる。






水瀬家。
随分前に夕食も終わり、時計を見ると既に11時を回っていた。
真琴は今日作ったチョコレートを持って祐一の部屋のドアを開ける。

祐一「どうした?」
真琴「あのさ、今日バレンタイン…」



そこまで言って祐一の机の上に置いてあったいくつかの包みに気付いた。
思わず持っていたチョコレートを後ろに隠す。
祐一もその視線に気付いて、苦笑しながら言った。

祐一「ああ、これか?
   名雪とか秋子さんに貰ったからな…
   甘いのはあんま好きじゃないし真琴も食うか?」
真琴「…いらないっ!」
祐一「あ、ちょっと、おい!」

真琴は勢い良くドアを閉め、自分の部屋に駆け込んだ。



部屋はチョコレートが溶けないように、暖房は入れてなかった。
外とほとんど変わらない寒さにパジャマだけの体が少し震える。
時計を見ると、12時を少し回っていた。
バレンタインデーは終わってしまった。

手には祐一に渡すはずだったチョコレート。
デリカシーのない祐一と、
何よりもその祐一の前で素直になれない自分に無性に憤りを感じた。



真琴「あぅ…祐一の馬鹿っ!」



腕を振り上げて、チョコレートを床に叩きつける…



祐一「誰が馬鹿だって?」
真琴「あっ…」

直前に祐一にその腕を掴まれた。

祐一は真琴が振りかぶっていた包みを取って、
開けてみる。

祐一「店で買った感じじゃないな…
   作ったのか?」
真琴「…うん、美汐と…
   でも、義理チョコだからね!」
祐一「分かってるって。
   天野と、ね…」

苦笑しながら、祐一は1つ口に放り込んだ。

祐一「…ん、生チョコか…
   そんなに甘くないし美味いんじゃないのか?」
真琴「でしょ?
   だって真琴と美汐で作ったんだもん」
祐一「そうだな。
   だけど、なんでまたこの部屋はこんなに寒いんだ?」
真琴「だって、暖かいと溶けちゃうって美汐が…」
祐一「冷蔵庫があるだろ」
真琴「祐一が冷蔵庫開けたらばれちゃうと思って…」
祐一「ったく…」

笑いながら祐一は真琴の頭をわしゃわしゃと撫でる。

真琴「あぅ…」

くすぐったそうにしながら、真琴は祐一に抱きついた。



真琴「祐一なんて、大嫌いなんだから…」
祐一「はいはい…
   だったら離れたらだうだ?」
真琴「あぅ…離れると寒い…」
祐一「しょうがない奴だな…」



うな〜。

今までどこにいたのか、
気の抜けた鳴き声のぴろが真琴の頭に飛び乗った。

祐一「ぴろも寒いって言ってるみたいだから、
   今日は俺の部屋で寝るか?」
真琴「うん…」

祐一の後についていって、祐一のベッドに潜り込む。



真琴「あったかい…」
祐一「そりゃ、暖房効いてるしな…」
真琴「…ね、、祐一」
祐一「なんだよ」



また明日からは憎まれ口を叩いてしまうだろう、
だから、今だけは素直になろう、と真琴は決心した。






真琴「祐一…
   だ〜い好きっ♪」