もう親友では・・・
ここは「ものみの丘」。
美汐「いい風ですね」
祐一「そうだな・・・」
さっき天野に会って、どちらが言うでもなく2人で何となくここに来ていた。
そして、二人並んで座っている。
美汐「そういえば、真琴はどうしたんですか?」
祐一「ああ、ひなたで寝てた」
美汐「真琴らしいですね」
天野はそう言ってクスリと笑う。
美汐「元気ですか?」
祐一「ああ、相変わらずだ。
元気すぎるってのも困るけどな」
美汐「確かに、そうですね」
祐一「そう言う天野はどうなんだ?」
美汐「私、ですか・・・?」
祐一「ああ」
美汐「そうですね・・・
元気ですよ」
祐一「浮いた噂のひとつでも出たか?」
美汐「出ません」
祐一「天野はおばさん臭いからな」
美汐「失礼ですね、物腰が上品だと言ってください」
祐一「でも、好きな人のひとり位いるんじゃないか?」
俺がそう言うと、天野は立ち上がった。
俺の方からは逆光で表情が見えない。
美汐「・・・いますよ、ひとり位」
祐一「・・・マジか?」
美汐「疑ってるんですか?」
祐一「いや、そういうわけじゃ・・・
・・・で、どんな奴なんだ?」
美汐「そうですね・・・」
天野は少し深呼吸した後、その男について話し始めた。
美汐「面白い人です」
祐一「ふーん・・・」
美汐「少し、あの人に影響を受けてるみたいです」
祐一「じゃあ、そいつはおっさん臭いのか?」
美汐「違います」
鋭い口調で言われる。
少し怒らせてしまったようだ。
祐一「悪かった。
で、どんな影響を受けたんだ?」
美汐「あの人のおかげで、私は前を向いて歩けるようになりました。
普段は、意地の悪い人ですけど、本当は優しい人です。
・・・変な人ですけどね」
祐一「持ち上げてるのか、けなしてるのか、どっちなんだ?」
美汐「たぶん、両方です」
美汐「だけど、その人には好きな人がいるんです」
祐一「じゃあ、そいつには言ってないのか?」
美汐「はい」
祐一「やってみなきゃ分からないだろ?」
美汐「・・・だけど、その子とは親友なんです」
祐一「厄介だな・・・」
美汐「そうでしょう?」
祐一「・・・でもさ、そいつに言わなきゃずっと後悔するだろ?
言わないで後悔するんだったら、
言ってから後悔した方がマシじゃないのか?」
美汐「・・・そう思いますか?」
祐一「ああ」
美汐「・・・そうですね。
じゃあ、そうしてみます」
祐一「おう」
そう言った後、天野はしゃがみこんだ。
そして、いきなり俺の唇を塞いだ。
祐一「・・・マジか?」
美汐「・・・はい」
天野は顔を真っ赤にしている。
祐一「じゃあ、親友ってのは真琴か・・・
あいつ、怒るぞ?
もう親友じゃいられなくなるかもな」
美汐「大丈夫です、真琴とはもう親友じゃありませんから」
祐一「え?」
そう言うと、天野は立ち上がって駆け出した。
そして、少し先で立ち止まる。
美汐「真琴は、今日から・・・」
天野が振り向いて笑顔を見せる。
美汐「私のライバルですっ」