「short LUV story:沢渡 真琴」
「なぁ、真琴」
「なに?」
真琴は相変わらず寝そべってマンガを読んでいた。
片手でページをめくり、もう片方の手には煎餅が握られていた。
「いつもマンガばっか読んでゴロゴロしてると…
太るぞ」
「あぅっ…」
『太る』というキーワードが出た瞬間煎餅を持っていた手が止まった。
「ふ、太らないもん…」
「そのうち下っ腹のあたりがぶよぶよになって、
それは見るも無残だろうな」
「あぅ…」
「運動しないとな」
「運動…?」
「そう、運動。
ちょうどスポーツジムが駅前にあるし、
無料券秋子さんから貰ったから行くぞ」
「え、今から!?」
ちなみに今は夜8時前だ。
外はとっくに暗いし、寒い
「当たり前だ。
即時実行が俺のモットーだ」
「今まで一度も聞いた事ないけど」
「いいから、行くぞ」
「嫌っ」
1秒で断られた。
「ぶよぶよ…」
「あぅ…
行くわよ、行けばいいんでしょっ!」
「そうそう、その意気」
「すごくはめられた気がする…」
鋭かった。
そもそも、スポーツジムなんて興味無いのだが、
朝の遅刻スレスレのランニング以外では、
どうも運動不足気味だったところにちょうど二人分の無料券があると言われたので、
とりあえず1回だけでも真琴と行ってみる事にした。
こういうのは陸上部の名雪が相手の方が良いんだろうけど、
部活で運動しているのだから真琴に白刃の矢を立てたわけだが。
「思ったより男臭くはなさそうだな…」
「うん…」
外観からしてそれっぽいのかと思っていたが、
思っていたよりずっと綺麗な感じだった。
入り口を入ったところで券を出して利用方法等の説明を受ける。
その後それぞれの更衣室で着替える。
俺はさっさとジャージに着替え、更衣室を出て待つ。
待つ。
…待つ…
およそ10分後、真琴が出てきた。
「遅い、真こ…」
「あぅ…ぴちぴち…」
真琴はシャツにスパッツだったのだが、
すぱっつがやたらにぴちぴちで…
「…誘ってるのか?」
「違うっ!」
…まぁ、そんな感じだった。
真琴の話だと秋子さんが持たせてくれたらしいが。
サイズを少し誤ったのか、それとも意図的…なわけはないか。
ともかく器具の揃った部屋に入って様子を見る。
すると、見事にガラガラだった。
「…空いてるな」
「そうだね…」
こんなんでまともに経営できてるのか少し不安だった。
とりあえずポピュラーなエアロバイクに並んでまたがる。
「これ、どうやるの?」
「ここで負荷を調節するんだよ」
「負荷?」
「…まぁ、錘(おもり)みたいなもんだな」
「ふーん…」
「最初はこの位で良いだろう」
さりげなく真琴の負荷を俺の倍にしておく。
「じゃ、始めるか」
「うん」
スタートさせると規則的な電子音が鳴り、
それに合わせてペダルをこぐ。
いきなり長時間やってへばっても仕方が無いのでとりあえず10分で区切る。
カロリー消費量を見るとまぁそこそこの消費量だった。
「真琴はどうだ…
って0kcal…」
「重すぎて一漕ぎめで諦めたわよぅ…」
「そりゃ運動不足の証拠だろう」
「…わざと重くしたでしょ?」
「…何を根拠に」
「顔が笑ってる」
「ぐは…」
思いっきり顔に出ていたらしい。
「さぁ、次はどうする?」
「ごまかしてる…」
「シーテッドバタフライでもやるか?」
「なに、それ?」
「何って言われても…
見れば分かる」
名前の如く座って肩の横あたりにある重りを蝶の様に動かすものだが、
背筋が無いと結構きつい。
「ぐっ…」
がしゃん。
「っ…」
がしゃん。
「ぐぁ…」
がしゃん。
「ふぅ…」
これもいきなり一気にやると筋肉痛になりかねないので、
軽めの負荷で10回を3セットほどやった。
真琴の方は…
「…胸でも強調したいのか?」
「あぅ、違う…」
最初の姿勢のままで、まったく錘を動かせてなかった。
見事なまでに背筋が無かったようだ。
他にもミリタリープレスやレッグエクステンション等やってみたが、
真琴は散々だった。
「あぅ、もう嫌…」
「ったく、仕方ないな…
そろそろ帰るか?」
「うん…」
「シャワー室あるみたいだけど、
浴びていくだろう?」
「浴びる…」
真琴は浴びるとは言ったものの、
相当疲れたのか椅子に座ったまま動こうとしない。
「そんなに疲れたか?」
「…うん」
「ったく…」
俺は真琴をおぶってシャワー室へ向かった。
もっとも、男用のシャワー室だったが。
中はカーテンを閉めれば個室のようにはなった。
「…なんで男用のシャワー室なのよぅ」
「俺は女性用には入れないだろうが」
「それはそうだけど…」
「俺達以外誰もいないみたいだから大丈夫だろう」
「ってなんで祐一も一緒にシャワー浴びようとしてるのよっ!」
「ついでだからな」
「そう言う問題じゃっ…」
「あんまでかい声出すと通りかかった誰かに聞こえるぞ」
「あぅ…」
疲れきっているのかそれ以前の問題か、自分から脱ごうとはしなかったので、
スパッツはそのままでとりあえずシャツだけ脱がせる。
「あぅっ…」
「ついでだからマッサージでもしてやろうか?」
「もう好きにして…」
「そうか」
言われた通り好きにしようと思ってスパッツに手をかけたら、
流石に裏拳が飛んできた。
ふにふに…
「はぅ…」
右の二の腕から肩に向かってゆっくり揉んでいく。
肩まで行ったら今度は左。
ふにふに…
「んっ…」
それも終わったら肩を揉む。
むにむに…
「はぁっ…」
勢いで胸も揉む。
むにゅ
「ち、ちょっと、祐一っ!」
「どうした?」
「ど、どうしたってっ…」
「嫌なのか?」
「そう言う問題じゃっ…
やぁっ…」
ふにゅふにゅ…
ちょっと冗談のつもりで揉んでいたが、
こんな狭い所で密着してそんな事してれば当然お互い『その気』になってくる。
「真琴…」
「ち、ちょっ…
ここで!?」
「ああ」
「だって、人が来たら…」
「大丈夫」
「あぅ…」
既に抵抗する様子はなかった。
真琴は俺を潤んだ目で見て、
「こんなところでするの、
すっごく恥ずかしいんだから…」
そう言ったあと、ウィンクしてみせた。
「今日だけ、特別だからねっ」