なんの味?

 

 

 

*舞エンド後の話です。

 


 

 

 

 

 

ギイィ・・・

 

 

 

屋上の扉を開ける。

 

 

 

「やっぱり寒いな・・・」

三月に入り、緑が多くなってきたとはいえ、

吹く風はまだ冷たさを残していた。

 

 

俺が何故こんな所にいるかというと、

舞と佐祐理さんはが卒業したのは昨日の事だ。

で、過去の習慣と言うか・・・踊り場へ来たものの、当然誰もいなかった。

何となくそのまま階段を上がり、屋上まで来てしまったと言うわけだ。

 

春一番はまだだが、今日は強めの風が吹いている。

とりあえず屋上の端へと向かう。

 

「思ったより高いな・・・」

端から下を見下ろすと、正直寒気がした。

 

屋上から中庭を見下ろして、ふと思い出す。

 

「そういや、舞はここから飛び降りたのか・・・」

 

『魔物』との戦いという非日常的な日常。

最後の日、舞は『魔物』目掛けてここから飛び降りたのだ。

 

「うへぇ・・・」

我ながら情けない声を上げる。

 

 

 

びゅう。

 

 

 

「へ?」

突風が吹いて、体が風に流される。

ここは屋上。

 

「・・・マジか?」

誰かが『冗談だ』というはずもなく、俺はそのまま地面へ向かって一直線・・・

 

 

 

 

 

がしっ。

 

 

 

 

 

「はい?」

誰かに襟を掴まれ、落下を免れる。

首だけ動かして後ろを見る。

 

 

 

「舞?」

そこには、卒業したはずの舞が俺の襟を掴んで立っていた。

風に長い髪が揺れている。

黒く艶やかな髪は、一本一本が波打っているようだった。

・・・気になるのは、なぜか制服。

 

「何で制服なんだ?」

「・・・こっちの方が入りやすいから」

「そうですか・・・」

確かに私服だと少し入り辛いかもしれない・・・

 

「というか、何でここにいるんだ?」

俺がそう言うと、舞は俺を掴んでない方の手に持っていた袋を差し出す。

袋には牛丼屋のマークがプリントされていた。

「多分、いつもと同じ所にいると思ったから。

そうしたら、屋上に行く祐一が見えた」

つまり、舞は俺が踊り場にいると思って来て、俺の後を追って屋上へ来たらしい。

・・・それより。

 

「そうじゃなくて、何で学校にいるんだ?」

「・・・た」

「聞こえないんだけど・・・」

舞が俯いて言うので、よく聞き取れなかった。

すると、舞は顔を上げた。

心なしか顔が赤い。

 

 

 

「祐一に会いに来た」

「・・・俺に?」

「そう」

そう言うと舞はそっぽを向く。

そして、持っていた袋から何かを取り出し、目の前に突きつける。

それからは、いい匂いが漂う。

「牛丼・・・?」

「佐祐理のお弁当の代わり」

どうやら、今日も踊り場へ来ることを見抜かれていたようだ。

「サンキュな、舞」

そう言うと、舞はまた顔を赤くして、

無造作に袋からもうひとつ牛丼を取り出すと、屋上の淵に座って食べ始める。

俺もその隣に座って牛丼を頬張る。

 

「ん・・・美味いな」

「・・・」

隣を見ると、食べることに集中している様だった。

しょうがないので黙って食べる。

 

「・・・」

「・・・」

殺風景な光景だが、舞と食べていると言うだけで、

なんだか牛丼が一人の時よりより美味く思える。

 

 

 

「・・・ふう。ごっそさん」

俺が食べ終えると、ちょうど舞も食べ終えたようだ。

満足そうな顔がちょっと可笑しい。

ふと腕時計を見ると、そろそろ時間だ。

 

「授業始まるから、降りないか?」

「・・・わかった。」

舞が先に立ち上がる。

その時。

 

 

 

びゅう。

 

 

 

再び突風が吹く。

 

 

ぶわっ

 

 

風で舞のスカートがめくれた。

 

 

 

「・・・」

「あー・・・その、なんだ」

舞に睨まれる。

 

「見てないぞ。白の無地だったなんて・・・」

自爆する俺。

 

ぽかっ。

 

「をうっ」

 

真っ赤な顔で俺の頭を叩く。

 

ぽかぽかぽかぽか。

 

「だあっ、悪かった、悪かったってばっ!」

舞の手が止まる。

「・・・本当にそう思ってる?」

「本当だって」

俺がそう言うと舞はまだ怒っているようなほっとしたような顔をする。

そんな表情がころころ変わる舞が愛しくて、

 

 

 

ちゅっ。

 

 

 

不意打ちをする。

 

 

「・・・!」

舞の顔がさっきより真っ赤になる。

 

ぼかぼかぼかぼかっ!

 

「痛い、痛いって!」

「祐一が悪いっ!」

 

どうやら、今度はしばらく叩かれそうだった。

 

 

 

不意打ちをした時の舞の唇は、

牛丼の味がした。

 

 

 

-FIN-