『遺産』一話 

 

 


          「それは、始まり」


 

 

「いってきます」

「うみゅ・・・いってくるおー」

 

「いってらっしゃい」

 

祐一さんと、まだ半分寝たままの名雪を見送り、

朝食の後片付けをする。

 

 

 

ジャー・・・

 

 

 

「ふぁ・・・」

 

名雪に限らず、私も朝に弱いのだけれど、

そうも言ってられないのが辛いところね。

 

 

 

後片付けが終わって、続いて掃除に移る。

 

まずは自分の部屋から。

 

 

 

ガー・・・

 

 

 

眠い目を擦りつつ掃除機をかける。

 

けれど、朝の陽射が気持ち良くて、

目がとろんとしてきて・・・

 

ふらっ・・・

 

 

 

ドン!

 

「きゃっ・・・」

 

 

どさどさっ!

 

 

 

「ふみゅう・・・」

 

 

うとうとしてしまった拍子にタンスにぶつかってしまったみたいね。

タンスの上に置いてあったもの散乱している。

 

 

 

「あ・・・」

 

 

 

その中のひときわ大きい箱。

 

それは、あの人が

 

「絶対開けるな」

 

そう言っていたもの。

 

 

 

「どうしようかしら・・・」

 

中に入っているものが分からなければ、

保存することも捨てることも出来ない。

 

うーん・・・

 

頬に手をあてしばし熟考。

 

 

 

「・・・とりあえず出して保存方法を考えようかしら・・・」

 

そうよ。

別に覗きたいなんて・・・

 

 

 

とにかく。

開けて見ましょう。

 

ガムテープを剥がし、

ゆっくりと開く。

 

 

 

「こ、これは・・・!」

 

 

 

 

 

 

メイド服。

スクール水着。

ネコミミのついたヘアバンドetc・・・

 

 

 

・・・あの人ってそんな趣味が・・・?

 

 

 

「・・・あら?」

 

底の方に手紙が入っている。

 

 

それを読むと・・・

 

『秋子へ

 

 お前がこれを読むとき、

 俺はきっといないことだろう。

 お前の事だから一人身でいるかもしれない。

 その時の為に、これらのアイテムを残す。

 『漢の浪漫』を理解する奴なら瞬殺の一品ばかりだ。

 俺もいっぺん見たか・・・

 もとい。

 これで頑張れ。

 じゃあな』

 

 

 

「・・・」

 

前から変わった人だとは思っていましたが・・・

 

まさか着る訳にはいかないわよね。

しょうがないから処分・・・

 

 

 

・・・でも、あの人の遺した物だし・・・

 

ちょっと着てみた・・・

 

いえ、そんなことは・・・

 

 

 

あるかもしれないわね。

 

 

 

これで、もう一度女としてアピール・・・

 

 

 

誰に?

 

祐一さん?

 

 

面白い人だし、

 

笑顔が素敵・・・

 

 

 

ぽっ

 

 

 

で、で、でも、あの人は私の甥だし、

それに、法律上、一緒には・・・

 

 

 

「・・・法律が無ければ一緒になりたいのかしら?」

 

 

 

そ、そんなことは無いはずよ!

 

 

だ、だって、年は親子ほど違うし、

それに、

 

それに・・・

 

 

 

「う〜・・・」

 

 

 

他に理由が見つからない・・・

 

 

 

「・・・では次のニュースです」

 

あら?

ダイニングのテレビがつけっぱなしだったみたいね。

 

 

 

「〇民党の賛成多数が決めてとなり、民法が一部改正されました。

 これにより、直接の血縁、

 つまり、親兄弟で無ければ婚姻が可能となり、

これに対し野党は反発を・・・」

 

 

 

・・・つまり、私と祐一さんでも結婚できるということ?

 

 

 

そうよ。

これは、私に頑張れと言うことね。

よしっ!

 

 

ぐっと拳を握る。

 

 

 

秋子、がんばりますっ!