ものみの丘で、もう一度〜second miracle〜




 

 

 

『ものみの丘』。

 

 

 

全てが始まった地。

 

 

 

そして・・・

 

 

 

再び、始まる地。

 

 

 

 

 

 

         「『ものみの丘』で、もう一度」

 

 

 

 

 

 

夕暮れ。

世界中が赤一色に染まる。

俺は、『ものみの丘』に来ていた。

ここに来ると、彼女との最後の時を思い出して、

傷跡が抉られるような気分になる。

だけど、それを癒して余りある心地よさがある。

ここから見下ろす風景。

全てを包み込む、柔らかな風。

・・・そして、

 

 

 

 

ちりん。

 

 

 

 

いつか聞いた、鈴の音・・・

 

 

・・・鈴!?

 

 

俺は慌てて音のした方を見る。

そこには・・・

 

「真琴・・・」

 

そこには、

 

 

俺の愛した、

 

 

俺の手の中で消えた、

 

 

真琴が、いた。

 

 

 

「ゆう・・・いち・・?」

真琴も俺の方を見る。

目が合う。

 

 

「ほんとに、祐一なの・・・?」

「ああ」

俺は問いかけに答える。

真琴は微笑む。

が、

すぐに表情を強張らせる。

「・・・駄目」

「え?」

俺は、その言葉をすぐには理解できなかった。

「私、戻れないよ・・・」

「祐一のところに行けないよ・・・」

訳の分からないことを言い出す真琴。

「お前・・・何を、言ってるんだ・・・?」

謎。

そして、

違和感。

わずかな違いに対する。

「それに・・・前は自分のこと、『真琴』って言ってなかったか?」

違和感の正体。

一人称の変化。

ただ、それだけだった。

・・・表面的には。

真琴の口が開く。

そして、言葉を紡ぐ。

真実の言葉を。

 

 

「思い出しちゃったの」

 

「自分が『沢渡真琴』じゃないこと」

 

喉の奥が張り付くような感覚。

「・・・それ以上言うな」

体中を突き抜ける悪寒。

 

「本当は・・・ここに棲んでいた、妖・・・」

「言うなっていってるだろッ!!」

ビクッ。

真琴の体が震える。

俺は事実を認めない訳じゃない。

ただ・・・真琴の口からは、絶対に言って欲しくなかった。

俺が言わなきゃならない。

そんな気がした。

 

 

「・・・知っていたさ」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

「お前が・・・妖狐だったって言うことは、知っていた」

「天野が思い出させてくれた」

 

「だったら・・・」

真琴が何かを言おうとしている。

悲しいくらい先が読めてしまう言葉を。

 

「・・・来るなとでも言うのか?」

 

「・・・」

 

 

沈黙。

ほんのわずかの間だったが、果てしなく長いように感じられた。

 

 

「・・・ふざけるな」

「え・・・?」

沈黙を破ったのは俺だった。

「ふざけるなって言ってるんだ!!」

俺の言葉には、怒気がこもっていた。

 

「だからどうしたって言うんだ!

 俺がお前のこと嫌いになるとでも思ったのか?

 離れるとでも思ったのか?」

 

言葉が次々に溢れ出す。

 

「・・・もしそうだったら、

 俺はお前に声をかけなかった。

 いや・・・ここには決して来なかった。

 それに・・・

 お前は『妖狐』なんじゃない。

 『妖狐だった』んだ」

 

ずっと俺の中で膨張していた想い。

それを、今ここで、全て伝えたい。

 

「真琴・・・

 憶えているだろ?

 ここで結婚式を挙げたこと。

 誓いをたてたこと。」

 

「・・・」

真琴はずっと黙ったままだ。

 

「最後に俺が言った言葉、憶えてるか?

 お前はさ、聞こえてなかったかもしれないから、もう一度言うぞ」

俺は、台詞を喋る。

真琴が消えてしまう直前に誓った、

真琴が好きだった漫画の、

最後の台詞。

 

 

「 『絶対に迎えに来るから』

 

 

  『その時はまた一緒になろう』

 

 

  『今度はみんなの前で』

 

 

  『純白のドレスに包まれて』

 

 

  『みんなに祝福されて』

 

 

  『だから・・・』

 

 

  『もう一度、結婚しよう』

 

 

  『それまで、さようなら』

 

 

 ・・・まあ、脚色だらけでほとんど原型無いけどな。

 

 けど、俺は戻ってきたぞ。

 

 お前の目の前に。

 

 

 

 ・・・確かにさ、『沢渡真琴』ってのは俺の記憶の中の名前だ。

 

 お前の名前じゃなかった。

 

 お前の名前は・・・

 

 

 

 

 

 

『相沢真琴』だよ」

 

 

俺は腕を広げた。

真琴を包み込めるように。

 

「だからさ・・・戻ってこいよ、真琴」

「祐一・・・

 ゆういちーーーーーっっっっっ!!!」

真琴が俺の胸に飛び込んでくる。

俺は、強く抱きしめた。

「会いたかったよ、寂しかったよ、辛かったよーーーーーっっっっっ!!」

「ああ、俺も会いたかった。寂しかった。辛かった。

 だけど・・・

 二度と放さないからな。

 ずっと・・・ずっと一緒だ」

「わああああああああああああああああっっっっっっ!!」

真琴は俺の腕の中で泣きじゃくる。

俺も、

真琴を抱きしめながら、

全て洗い流すように泣いた。

 

 

 

 

 

真琴は、俺に逢うため奇跡を起こした。

 

 

 

 

そして、目の前で二度目の奇跡が起きた。

 

 

 

 

奇跡ってのは・・・

 

 

 

 

何度でも起こるんだな。

 

 

 

 

もし、誰かが起こしてくれたというのなら、

 

 

 

 

俺の中の気持ち全てを込めてこういいたい。

 

 

 

 

 

『ありがとう』、と。

 

 

 

 

−fin−