或る街角のファンタジック・ストーリー

vol.1「それは、あるあさとつぜんに」








チチチ・・・



チュン、チュン・・・



「ん・・・」



朝の光がカーテンの隙間から漏れ、俺の目を覚まさせる。
まだ睡眠を欲する体を起こし、カーテンを開けると木漏れ日が俺を照らす。
朝だから暑さは幾分かマシだが、
今日も暑くなるのだろうということを予感させられる。


季節は、夏。
この間夏休みが始まったばかり。
うれしい反面、夏本番で暑い日が続く日々だ。

ここは街の中心から少し離れた一戸建て。
俺、須藤貴司と妹、沙弥(さや)の二人で住んでいる。



なぜかと言うと話は随分前に遡るのだが・・・






俺が中学生だった頃。



親父が再婚した。
母はその三年ほど前に他界し、男二人で暮らしていたのだが、
俺は相手となる女性がいることはまったく知らなかった。
だからと言って、再婚に反対する気など無かったが。
俺の義理の母となる人はシングルマザーだったそうだ。
その連れ子が沙弥だった。
だから沙弥は義理の妹である。

その新しい夫婦も新婚旅行の旅行先で事故死することになる。

そうして俺と沙弥の二人が残された。
もっとも、二人だけと言うわけではなく、
俺たちは親父の祖父母のところに身を寄せたのだが。
祖父母は人が良く、俺達の世話をいろいろしてくれた。

俺も少なからずショックを受けたのだが、
沙弥の方は俺以上にショックだったようで、
あって間も無いと言うのにふさぎ込んでしまった。
俺はそんな時、下手な励ましをするよりも・・・と考えて、
いつも隣にいたような気がする。
そのお陰か、沙弥は少しずつではあったが俺に心を開いてくれた。
いつからだったか、俺を呼ぶときも、
「貴司さん」から「お兄ちゃん」になっていた。

俺が高校を卒業して、大学から近いと言う理由で、
昔親父と暮らしていた家に戻るため祖父母の元を離れるときに、
「わたしもお兄ちゃんと一緒に行く!」
といって半ば強引についてきたのが今年の四月のことだ。
祖父母も、
沙弥が一番心を開いているのが俺だということを承知していたようで、
止めるわけでもなく、むしろそれを望んでいるかのようだった。
祖父母といる時より、俺と二人の時に、沙弥はもっとも自然だったからだ。
下手な兄弟よりも仲がいいのかもしれない。


と言ったわけで、俺と沙弥は二人で暮らしているのだ。
因みに沙弥は高校二年だ。、
まあ、血が繋がってないだけに、変な気が起きるときもあるが、
その辺は理性で何とか。

台所に行き、コップに牛乳を注ぎ一気に飲む。
親父くさいと言われようとこれは俺の日課だ。

・・・と、その時。



「きゃぁぁぁぁぁ!!?」

「ぶっ!」

沙弥の悲鳴に驚き、俺は思わず牛乳を噴き出す。

「な・・・なんだ?」

俺は急いで沙弥の部屋へ・・・
行く前にとりあえず床に散った牛乳を拭く。
で、改めて。

沙弥の部屋のドアを乱暴に開ける。
「沙弥、どうした!?」
「お、お兄ちゃん・・・」

そこにはへたり込んでいる沙弥がいた。
いつもと違うのは猫のような耳と尻尾がついているくらい・・・

「って、何ぃぃぃ!?」

「どうしよう、お兄ちゃん・・・」
「どうしようって言われてもなぁ・・・」
「ふぇぇ・・・」

沙弥が何かの反応をするたび、耳と尻尾がぴょこぴょこと動く。

「本物・・・?」

ためしにちょっと尻尾を触ってみる。



さわっ



「ふゃっ!?」

沙弥はビクンと体を震わせる。

(面白い・・・)
不謹慎だが、そう感じた。

「お兄ちゃん!真面目に考えてよ!」
「ハイ」

怒られてしまった。

「まあ、夏休み前で良かったな」
「良くないけど・・・学校が無いだけマシだよ」
「いいんじゃん?似合ってるぞ」
「そ、そう?」

そう言われて沙弥はまんざらでもない顔をする。

「ああ、幼児体系のおまえにぴったりだ」
「むぅ〜・・・お兄ちゃんのばかっ!」



俺達の受難の日々は・・・
きっとしばらく続くのだろう。