いたづら秋子さん 浪漫ってなんですか?(後編)


 
後編、です。

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 …と、祐一さんからメイド服を預かってはみたものの。


 ちら ちら

 部屋の片隅に置かれている、ビニールにくるまれた豪奢な洋服。


 …ううん…

 なんだか、気になります。


 落ち着きません。


 ひょっとして、私…




 あの服を、着てみたいのかしら?




 いえ まさか

 そんなはずは有りません。


 どきどき

 でも


 ああん 気になります

 いつもいつも こんな風に、私は好奇心に負けて

 イタイメを見るのが分かっているのに 分かっているのに


 …そんなことを考えてるときには、すでに私はふらふらとメイド服を手にとって居ました。


 はっ だめよ

 祐一さんからの大切な預かりものなんですから

 汚したりしたら大変です


 汚さなければいいのかしら
 違います


 大体 私が着ても、似合うわけが無いじゃないですか


 そもそも、メイドさんの定義というものは、
 もともとは処女という意味の言葉のメイデンから来ているので

 …処女?
 ぽっ

 …そんな事で照れる歳でもありません


 えっと、ですから、私は似合うはずもないのです

 私なんかが着たら、せいぜいオールドミスの意地悪メイド長


 オールドミス

 オールドミス?


 いやぁぁぁぁ


 違います
 違います

 私 オールドミスなんかじゃ

 私 ミセスです
 何を言ってるんですか


 私が、私が、意地悪オバサンだなんて


 意地悪オバサン

 意地悪オバサン?


 ぃいやぁぁぁぁぁっ 


 違います
 オバサンだなんて

 オバサンだなんて そんなこと あるわけがありません


 うう


 ようしっ
 分かりましたっ


 着ちゃいます
 着てみて、似合ってればいいんです

 そうですっ
 そうでなきゃ、納得できません。
 これは、私のアイディンティティーに関わる大問題です

 許してくれますよね、祐一さん。
 家庭の平和のためです







「(…おい、北川、押すな)」

「(しっ…静かにしろ)」

「(しかし…本当に上手く行くのかよ…)」

「(…うーむ……ん? お、おい)」

「(どうした?)」

「(あ、秋子さんが例の服を手に取ったぞ)」

「(なにっ…みせろ)」

「(馬鹿っ…気づかれるだろ)」

「(よし、はんぶんこだ)」

「(よし)」

 ぱさっ 

「(うおっ…カーディガンが)」

「(まだ興奮するのは早いだろ)」

「(何を言う相沢…これが萌えるんだよ)」

「(深いな…)」

 ぐいぐい はさっ

「(ぶはっ!? …セーターが…そして)」

「(ブ、ブ、……ブラジャーが…)」

「(あ、秋子さん、着やせするタイプなんだな)」

「(北川、鼻息荒い)」

「(…さすが…大人…違うな)」

「(深紫だもんな…)」

「(ハイウェイスターもびっくりだ)」

「(…なんだ? それ…)」

「(気にするな)」

「(わからん…)」

「(ぶっ!)」

「(どうした北川)」

「(気が付かなかったが……腰に…)」

「(ん? …うっ!)」

「(がぁたぁべると…)」

「(すげぇ…)」 

「(俺はもう…死んでもいい…)」

「(しっかりしろ)」

 するする

「(ぐぼはっ)」

「(ぐはっ)」

「(…ついに…ついに…秋子さんの…パンティーを拝むことが…)」

「(…凄すぎる…)」

「(ああああっ あの 三角が 俺を 俺をっ)」

「(少しは落ち着け)」

「(…すまん相沢、俺は一旦休む)」

「(ああ、俺はもう少し見てる)」

「(……)」

「(……)」

「(……ふぅ)」

「(ぐおがっ)」

「(どうした、相沢)」

「(…あのな、北川)」

「(おう)」

「(秋子さんが、メイド服のスカートを履くときにな)」

「(ああ)」

「(足を上げるだろ)」

「(焦らすなよ)」

「(……その時に……)」

「(ゴクリ)」

「(……透けて見えた…)」

「(………)」

「(………)」

「(……お、おい…?)」

「(コロスコロスコロスコロス)」

「(わっ、ばか、落ち着け)」

「(コロスコロスコロスコロスコロスコロス)」

 北川の目は涙に濡れていた。







 ……さて、エプロンを付けて、コルセットを…

 きゅ ぐい

 …あら?

 きゅきゅ ぐいぐい

 う…きつ……くなんかないですっ

 ぎゅぎゅぎゅぎゅ ぐいぐい

 …ふぅ、はぁ、ふ、うふふ。このコルセット、割とゆる…い…ですね。

 くらっ

 ああ くらっとめまい

 秋子、しっかり

 後は、このカチューシャを…

 すっ んしょ んしょ

 …よしっ!

 出来ました♪

 姿見の前で、くるりと一回り。

 スカートがふわりと膨らみます。

 うふふ。

 これで、どこからどう見ても立派なメイドさんの出来上がりですっ!




 …………何をしてるんですか、私は……

 年甲斐もなく…




 と、自分の後先考えない行動に途方に暮れていると、

 がた がた がた


 あら? 何かしら

 ドアの近くで、がたがた音がしています。

 不審に思った私が、ドアを開けてみると―――――――















「………」

「…あ」

「…あ」

「………な、何をしてるんですか、あなた達はっ!?」







「あ、ああ、秋子さん、これには訳が」

 慌てて言い訳しようとする祐一と北川。しかし、

「い、い、い、言い訳は聞きませんっ」

 秋子さんは、自分の姿を見られたのがよほど恥ずかしいのか、真っ赤になって言い放ちます。

「二人とも、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こ、こんな事して、良いと思ってるんですかっ」

 秋子さん、ろれつが回ってません。
 慌てて謝る北川。

「す、すいません、秋子さんがあんまり可愛かった物で」

「え……っ …お、おだててもダメです」

 でも秋子さん、お顔がますます真っ赤です。

「二人ともっ」

 誤魔化すように大きな声を出す秋子さん。

「お説教ですっ」

 メイド服姿で言われても、迫力がありません。

「メ、メイド服を着た秋子さんにお説教…」

 北川は何故か嬉しそうです。


 しかし祐一は、

「…そ、そんな、元はと言えば、秋子さんがメイド服に着替えようとするのが悪いんじゃないですかっ」

 一瞬、秋子さんの動きが止まります。
 みるみる、顔が青ざめていきました。

「…え? き、着替え…? ……も、もしかして、あなた達… 私の… 着替えを…」

 何とも言えず、黙って目をそらす祐一。

「…黙ってないで、答えて下さいよぉ」

 秋子さん、声が震えています。

「ま、まさか、本当に」

 そこで一呼吸置くと、

「……いやあ いやあ」

 秋子さんは、とうとうお顔を両手でおおって、うずくまってしまいました。
 ………メイド服姿で。

 すると、北川がゆらりと立ち上がりました。

「な、なんだよ、北川…」

「思い出したぞ、相沢…コロスコロスコロス…」

「わ、待て、落ち着けっ」

「いやあ いやあ」


 どたばたどたばた。

 最早収拾のつきそうにない騒ぎです。



 やがて、お腹がすいて起きてきた名雪が、その現場を目撃して、


「……………………………大人の世界だよ……」


 と、言ったとか、言わなかったとか。







(終)


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 F.coolです。
 お楽しみ戴けましたでしょうか?
 今回は、視点を途中から三人称にするなど、新しい要素も盛り込んでみましたが、如何だったでしょうか。
 それでは、失礼します。

管理人からの感想
まさか師匠からいたづら秋子さん、
しかも浪漫を頂けるとは思っていませんでした(^^)
くうっ、萌え〜っ!!(爆)
ぶはっ(吐血)
いや、師匠、ありがとうございました。