電気鼠の憂鬱





俺は聡(さとし)。
今日も仕事を終え、一人暮しの広くは無いマンションの部屋のドアを空ける。
部屋に入るとすぐに留守電のランプが光っているのに気がついた。
電気を点けてから再生ボタンを押し、
冷蔵庫からビールを取り出して喉に流し込みながら録音された声を聞いた。




ピーーーーー…



『1件です』






「あー、聡?
 俺だけど。
 なんかさ…たるくねぇ?
 いや、何がって、いつまでもキャラ作って子供に媚び売ってるのがさ。
 鼠が『〇カチュー』なんて普通言わねぇだろ?どう考えても。
 俺ももう34だしさ、猫被ってあんなのやってたって親に合わす顔が無いしなぁ。
 あ、鼠が猫被るってのも変な話か。



 そうそう、よくお前が10万ボルトとか言うだろ?
 実際あんなモン食らってみ?
 全身焼け焦げて、血液なんか沸騰しちまうんじゃねぇの?
 まぁ、CGだって事はお子様でもわかるだろうからいいけど、さ。
 第一電気なんか出せる訳ないよなぁ。
 せいぜい下敷擦って髪の毛立てるのが関の山だよ、普通。



 ピカ…



 っとと、ついつい癖で出ちまったな。
 こんなの収録以外で言ったら自分で泣けそうだよ。
 



 一時期はもう引退かと思ったけどなぁ。
 何がって?
 ほら、あんま光ったから子供が癲癇起こしただろう?
 まぁ大事に至らなかったから良かったけど、
 あれで死人でも出てみろ?
 親御さんにあわす顔がねぇよ。
 ってどうせ謝罪するのはお偉方で俺らみたいな使い捨てはポイだろうけどな。



 しっかし、アレだな。
 可愛いの演じてるとなんか俺の中身は廃れてくるような気がするよ。
 おかげで煙草も不味いしなぁ…
 
 でもさ、思わねぇ?
 プロデューサーも俺らに食わしてもらってんだから、
 たまには綺麗な女の一人や二人抱」




ピーーーーー…



『午前 1時 37分です』