しょーちゃんと合気道
この間、なにげに市の広報を見ていたら、合気道教室というのが目に入った。
小学生から大人までで、6月の土日だけ、子供は450円で教えてくれるらしい。
あんまり外で遊ぶことが少なく、お絵描きとかゲームばっかりしているしょーちゃんを心配して、
なにか運動を・・・と思っていたところだったのでこれはと思い、さっそくしょーちゃんに聞いてみた。
「ねーねー、しょーちゃん、合気道しようよ」
「合気道ってなに?」
「合気道ってゆうのはさ、あれだよ、強くなれるんだよ」
自分でもよくわかっていないのであった。
「投げ飛ばすの?」
「うーん・・・。ウッ、ハッ、ってやつだよ」
わたしはモーニング娘。の、前にパンチを出す振り付けをしてみせた。
「えー。こわいからやだ」
あっさり拒否されてしまった。が、ここで諦めるスウではない。
「行こーよ行こーよー。強くなれるんだよー。かっこいいんだよー」
かっこいいんだよーの響きが、幼い彼の虚栄心を刺激したようだ。
「・・・行ってみようかなー」
ということでさっそく、次の土曜日に、甥っ子のゆうくんを誘って市民体育館に向かった。
体育館の柔道場にはすでに大人が10人くらいと子供が12人くらいいた。
半分くらいはちゃんと合気道の服を着ていた。
どうやら合気道の会みたいなのがあるらしい。
積極的で体育会系のゆうくんはさっそく道場に上がっていって、
他の子に混じって側転をしたりして体を動かしていた。
そんなゆうくんを尻目に、しょーちゃんは、廊下であやちゃんと鬼ごっこをしていた。
しばらくして先生らしき人が前に出て、みんな正座して、正面に掛けてある「合気道」と書かれた
掛け軸に向かって礼をした。
準備運動をしてから、大人と子供に分かれて、子供は、会の子と初めての子に分かれた。
初めての子は6人いて、先生は一人だったので、ゆうくんは同い年くらいの男の子2人と一緒に、
しょーちゃんは小学4年生くらいの女の子としょーちゃんより少し大きい男の子と一緒で、
2つに分けて順番に教えていた。
最初は受け身の練習みたいで、前転みたいなことをやっていた。
ゆうくんくらいになると、さすがに飲み込みが早く、ゆうくんチームの3人はわりと上手に
くるりと回転していた。
しかし、しょーちゃんチームの3人は、女の子とおチビなので、そうスムーズには進まなかった。
先生が見本を見せるのだが、先生のを見ていると、
サッ クルン バシ(畳を叩く音) タッ
っていう感じなのに対して、しょーちゃんチームの3人ときたら、
ペタ(畳に手をつく) ジー(タイミングを見計らっている) グルーリ グシャ ペシ(畳を叩く音)
効果音で表すとこの違いなのだ。
しょーちゃんは満足に回転できず、グシャーとあっちの方に転がって、まるでカブトムシが
仰向けになってもがいてるみたいな格好になってあわてて畳を叩くという感じだ。
でも、それが妙にかわいくておかしくて、何度も笑わしてもらった。
まあ、一番小さいんだし、しょーがないかと納得した。
そんな感じで初めての合気道教室が終わり、帰る時、先生が何も言わなかったので、
「明日もあるんですよね?」
と聞いてみると、
「明日も来るのか?」
という顔でだまってうなずかれた(笑)。
家に帰ってお風呂上りにさっそく布団の上で、しょーちゃんとおさらいをしてみた。
「しょーちゃん、どーやるの。かーちゃんに教えて」
と言うと、しょーちゃんは得意になって教えてくれた。
ずっと見ていたのでだいたい頭ではわかっていたが、いざやってみるとけっこう難しく、
わたしも回転できずにグシャとなったりしたが、何度かやっているうちに何かをつかみ始め、
「こうやるんじゃない?」「あー、そうそう」
とかいいながらなんとか二人とも回転できるようになった。
翌日、行ってもいいのかな、どうしようかな、と迷いながらもしょーちゃんに聞くと「行く」と言うので
ゆうくんを誘うと、ゆうくんはどうしようかなーと言っていた。しょーちゃんは、
「しょーちゃん、俺が行かなくても行くのか」
とゆうくんに聞かれていて、わたしはちょっとドキドキしたが、
「うん。ぼく行くよ」
とはっきり言っていて、うれしくなった。
ゆうくんは結局行かなかった。
「俺、ロクヨンでゲームしよっと」
と、しょーちゃんを挑発するようなことを言っていたが、しょーちゃんの決意は変わらなかった。
2回目の子供は5人になっていた。
ゆうくんと、しょーちゃんチームだったおチビの男の子が来ていなかったが、代わりに1人、
やっぱり小学4年生くらいの女の子が来ていた。
先生は困った顔をせず、笑顔でしょーちゃんを迎えてくれていてホッとした。
2回目は前回の復習と、新たに後回りみたいのをやっていた。
この、後回りをする直前のポーズがちょっとカマっぽくて、ごま塩頭のごつい先生がやると
妙におかしかった。
片手を横に伸ばして、もう一方の手を、伸ばした手の方の肩の所に縦に添えるので、その添えた手が
まるでオカマさんのポーズなのだ。
これもしょーちゃんはグシャーとなってしまって難しそうだった。
その後、今度は技とも呼べそうなことを教えてもらっていた。
二人で向き合って、お互い相手のおでこに向かってチョップをくらわすような感じで手の小指の下の
あたりを合わせる。
そして、一人がそのまま相手の手首をつかんでもう片方の手で相手のみぞおちをパンチ(のマネ)。
相手がウッとなったところで、パンチした手で今度は相手の肘をチョップ。
そのまま肘をつかんで同時に手首も前に押し出すと、相手はうつぶせで倒れてしまうというものだ。
説明するのもむずかしいが、要するに合気道というのは、力を使わないで相手を倒すことらしい。
きれいでかよわい女の人が身に付けたりする護身術みたいなものなのだろうか。
しょーちゃんは力がないからうってつけだ。
ついでにわたしも覚えておいた方がいいんじゃないかとさえ思えてくるから不思議だ!
そんなわけで、とりあえずわたしも、しょーちゃんを見守るフリをしてその技を頭に叩き込んで、
家に帰ってからまたしょーちゃんに詳しく教えてもらうことにした。
見ていると、小さなしょーちゃんが鈍い動きではあるものの、ごつい先生を腕だけでねじ伏せているので
またまたおかしかった。
家に帰ってさっそくしょーちゃんとおさらいをした。
後回りはやっぱりやってみると意外とむずかしかったが、伸ばした手を軸にして回転するといいらしい
ということがわかってきた。
腕を持って相手を倒すやつをしょーちゃんとお互いにやりっこして、完璧に頭に叩き込んだ。
これを覚えただけで、なんだか「合気道をやっている」という感じがして楽しくなってきた。
わたしの分の会費は払っていないので、なんだか得した気分だ。
しょーちゃんも多分、まんざらでもない様子だ。
わたしの為にも、しょーちゃんにはできればずっと合気道を続けてもらえるとうれしいなっと思った。