早起きあやちゃんのひみつ

 

その朝、あやちゃんはめずらしく早くに目が覚めたらしい。

わたしもなんとなく目が覚めて、時計を見るとまだ6時半頃だったので、あと10分眠れるな、と思い

まどろんでいると、おもむろにムクッとあやちゃんが起きあがった。

(えっ。あやちゃんもう起きるの?おしっこ?)

と思い、寝たフリをして様子をうかがっていると、あやちゃんはそっとわたしとしょーちゃんに

毛布を掛け直し、ふすまを開けて隣の部屋に行った。

あやちゃんは、わたしが夜中に目が覚めるたび、超が付くくらい寝相が悪い二人に

毛布を掛けてやっていた事に気づいていたのだろうか・・・と考えていたら

うすい毛布がいつもよりあたたかく感じられた。

なんちゃって。

隣の部屋は静かだった。

雨戸が閉めてあって暗いので電気をつけたらしく、ふすまから明かりがもれている。

トイレで起きた訳でもなさそうだった。

なにしてるんだろう・・・。

わたしは気になって、3個の目覚ましのスイッチを全部静かに止めて、

ふすまの隙間からそっと隣の部屋をのぞいてみた。

小さな声でテレビがついていた。

画面に映っていたのは、NHKの朝の体操だった。

レオタードのお姉さんが3人、さわやかに体操していた。

あやちゃんは、テレビの前にちょこんと正座して、じっとテレビに見入っていた。

(なぜ体操・・・。そして正座してるの・・・)

わたしはしばらくあやちゃんを観察することにした。

あやちゃんはずっと正座したまま、朝の体操を見終えた。

そのあと、スペイン語講座かなんかが始まって、それも正座して見てたらどうしようかと思ったが、

あやちゃんはちゃんと、いつもわたしが見る、や○うまワイドにチャンネルを変えて、

自分はクレヨンを出してきてなにげにお絵描きを始めたのであった。

 

「おはよう〜」

わたしはすました顔をして起きて、あやちゃんに挨拶した。

あやちゃんはお絵描きをしながら顔を上げて「おはよう〜」と言った。

わたしが台所に行って朝ご飯の支度をしていると、あやちゃんが冷蔵庫を開けて品定めをしたのち、

おもむろにチーズを取り出して

「かーちゃん、チーズ食べてもいい〜?」

と聞いてきた。いつもあやちゃんは朝ご飯を食べるのがめちゃくちゃ遅いので、

「朝ご飯食べてからならいいよ〜」

と言うと、

「え〜。だって、先生が、チーズ食べていい?って聞いたら、いいですよって言わなきゃいけないんだよ

 って、言ってたもん」

と、わけのわからない事を言い出すので思わず吹き出してしまった。

「そんなこと言うわけないじゃん」

と言うと、あやちゃんはあくまで「言ってたもん」と言い張り、「ねえ、チーズ食べた〜い〜」と

しつこくダダをこねていたが、わたしも負けずに

「ごはんちゃんと食べ終わったらいいよ」と突っぱねていたらあきらめたようだった。

しょーちゃんを起こして、3人で朝ご飯を食べた。

しょーちゃんが学校に行って、わたしが支度をしていると、やっとあやちゃんは朝ご飯を食べ終え、

食器を流しまで持っていった。

そして再び冷蔵庫を開けるとわたしに言った。

「ねえ、朝ご飯食べたからチーズ食べてもいい〜?」

あやちゃんは忘れていなかったのだ。チーズのことを。

「いっ、いいけど、早くしないと時間ないからね」

わたしは釘を刺した。

そしてあやちゃんは、満足そうにチーズを食べ始めたのであった。

 

 

ばっく