みんなで遊園地

 

きょうは、義姉さんのとことちょっと遠くの遊園地に行くことになって、朝、おにぎりとか

きゅうりの漬物とかオレンジを切って持って行った。ゆでたまごもゆでておいた。

わたしも義姉さんも、その遊園地に行くのは2度目くらいで、道をよく覚えていなかったが、

義姉さんのワゴンにカーナビがついていたので、こどもたちを一番後に3人座らせて、

わたしが助手席でカーナビを設定して、それを頼りに行った。

途中、大人ふたりで話に夢中になったりしてカーナビの話も聞かず道を間違えたりすると、

カーナビは健気にもしばらく考えながら新たなルートを検索してくれた。

が、わたしと義姉さんは、

「今きっと『チッ』とか舌打ちしてるよね、このカーナビ」

「うん、『道、間違えやがって』とかつぶやきながら道探してんだろうね」

などと、カーナビの気も知らないで勝手なことを言っていい気になってみたりした。

もうすぐで遊園地に着こうかというところで駐車場待ちの車がずーっと並んでいて、動かなくなった。

その時、少し窓を開けていたのだが、急に変なにおいがしてきた。

うんちとはちょっとちがうのだが、限りなくそれに近いにおいだ。

わたしは、車の中の誰かがおならをしてしまったのではないかと思ったが、冷静になって推理してみた。

まず、このにおいはけっこう強力だ。そして義姉さんの車はワゴンだ。

仮にもし後部座席の人間がおならをしたとして、これほど長い時間、しかも強烈なにおいが助手席までくるだろうか。

しかしこれはかなりの下痢状態の時のおならのにおいに近い。が、こどもたちはみんな下痢ではない。

となると、隣に座っている義姉さんなのか?もしかしてクーラーでおなかが冷えてしまったのかも・・・。

そんな事を考えていると、義姉さんが急に無口になっている気づいた。

はっ!もしかしてわたしは疑われているのか?わたしが義姉さんを疑っているように。

いや、でもほんとにおなかが痛くてにおいのことに触れられずにいるのかもしれないし・・・。

ちょっと気まずい沈黙のあと、義姉さんが口を開いた。

「なんかくさいよね」

その言葉を聞いて、わたしはちょっとホッとしてしまった。

このまま、うやむやのままこの問題を避けて通るより話題にしてくれた方が、わたしに向けられていた

かもしれない疑惑を打ち消すことができると思ったからである。

きっと義姉さんも同じ思いだったのであろう。

というか、これを話題にしないのは却って不自然だと思わせるくらいのにおいだったのである。

義姉さんの口調から、これはあたしじゃないわよという響きが伝わってきた。

わたしも負けてはいられない。すかさず具体的ににおいを解説してみせた。

「うん。なんか温泉のさ、硫黄のにおいだよね」

義姉さんも負けてはいない。

「ね。この辺、温泉あったっけ?」

「温泉あるんかねえ」

そこまで会話したところで、なぜかわたしは思い出してしまった。

ゆでたまごを忘れたことに。

「あっ、きょう、たまごゆでといたのに忘れちゃった」

「あ、そうだ。あたしもたまごいっぱいもらっちゃってゆでようと思ってて忘れちゃった」

ふたりでハハハと笑っていつのまにかにおいも、においの話題も消えていった。

においの元はいったい何だったのか解明するには至らなかったが、自分のせいではないよということを

遠まわしでも主張することができたので、この際それはあまり深く考えないことにした。一件落着。

 

そのあとなんとか車を停めることができ、お昼すぎに遊園地に着いた。

中に入ってすぐバイキングがあったので、しょーちゃんを半ば強引に誘ってゆうくんと3人で乗った。

しょーちゃんは怖がりなので、乗ってる途中で泣き出したりしたらどうしようと

ちょっとドキドキだったが、とても喜んでいただけたようで、安心したと同時に

(しょーちゃんもオトナになったな・・・)

と、ひとり目頭を熱くしたのは言うまでもない。(ウソ)

そのあとお弁当を食べて飛行機に乗ってから、みんなでモノレールに乗ろうと並んでいたが、

しょーちゃんは売店で何か買ってほしくてヘソを曲げ、「荷物になるから帰る時ね」と言ってきかすと

「ぼく、乗りたくない」とダダをこね、その場のテンションを一気に下げてきたので

「じゃ、ひとりで待ってて」と言うと、ほんとに乗り場の階段の下のベンチに座り込んでしまった。

わたしたちが階段を上り終わって、「しょーちゃん、乗んないのー?」と声をかけたが、

もう、人生の終わりのような顔をしてそっぽを向くので、ちょっと心配だったがそのままモノレールに乗り込んだ。

乗ってしまったものの、

(降りてきてしょーちゃんがいなくなってたらどうしよう。グレてどっかさまよってたらどうしよう。

 そーいえば隣りに不審なおやじが座ってたよな・・・)

とむちゃくちゃ気になってしまい、せっかく高いところからいい景色を堪能しようと思っていたのに、

それどころではなくなってしまった。

モノレールに乗ってても、しょーちゃんの姿ばかり探してしまい、そんなわたしを見て

義姉さんとゆうくんにまで「しょーちゃん、ちゃんといる?」と心配させてしまった。

トンネルの中なんかに入ってしまうと、しょーちゃんを探すこともできなくなり、

でも雰囲気を壊しちゃいけないと必死に

「わー暗いよー。あ、UFOだ、ほらー」

などと、トンネルの中に描かれた絵に感嘆してみせた。

が、トンネルを出るとすぐ再びしょーちゃんを探してしまった。

長く感じた道のりをようやく帰ってくると、しょーちゃんはちゃんとベンチに座って待っていた。

こちらを見上げていたので思わず「しょーちゃーーーん」と満面の笑みで手を振ると、しょーちゃんも

少しだけ笑って手を振り返した。

最後に、あやちゃんとわたしはメリーゴーランド、しょーちゃんとゆうくんは再びバイキングに乗った。

さっきは真ん中に乗ったので、今度は端っこに乗ってごらんとしょーちゃんにアドバイスをしたら、

端に乗って楽しかったらしく「ぼく、あの舟に乗ると機嫌がよくなるんだ」と言って勝手に立ち直っていた。

そのあと隣の動物園をまわって、帰り際、義姉さんが、うちの母からお金もらってきたから

なにか買っていいよと言ってこどもたちに欲しいものを選ばせてくれた。

しょーちゃんはさんざん悩んだ挙句、ガンダムのプラモデルを買ってもらってごきげんだった。

が、疲れて家に帰ってさっそくプラモデルを作らされたのが私だったことは言うまでもない。

 

 

ばっく