生きてく強さ3
なんていい天気。
今日は直樹先生とデートの約束。
美咲もね、今日は体がいつもより軽く感じる。
 はあ、直樹先生早くお迎えにこないかな。


今日は入江君と美咲ちゃんの中庭デート。
 お弁当作るっていったら、入江君「頼むからおふくろに任せてくれ」って。
おかあさん、張り切ってお弁当を作ってる。
あたしは、なんとなく手持ち無沙汰で、おかあさんの後姿を見ていた。
 

今日非番の俺は、朝の回診が終わったころを見計らって、病院に向かう。
おふくろの作った弁当を持って。
琴子が手伝うと張り切っていたが、食べるのは俺だけじゃないからな。
わかりやすい変装をして、琴子とおふくろがついてきているのが見えた。


「おはよう。」美咲ちゃんの病室に入ると、
厚着をして、準備万端の彼女がいた。
母親に挨拶をして、車椅子を押して、中庭に出る。


「寒くない?」「大丈夫。ありがとう直樹先生。」
木陰に琴子達が見える。美咲の母もいた。

「あのね、美咲ね、直樹先生大好き。ママもパパも、琴子さんも大好き。
今日は本当にうれしい。ありがとう!」
「そっか。今日は何がしたい?っていってもこの中でできることだけどね。」
「う〜んとね、直樹先生とピクニックごっこ!それからね、
お話したいの。いっぱい。いつもあんまりお話できないんだもん」

「お弁当持って来たよ」というと美咲ちゃんは、わーい、とはしゃいだ。
この子は、少し大人びていて、なんだか、自分の寿命をわかっているようで
俺は少し心苦しくなった。俺は、冷めた子供だったけれど、漠然と自分の寿命が尽きるのはもっとずっと先だと思っていた、いや、信じていた。
自分の命の終わりが見えてしまったら、どんな気持ちなんだろう…

「直樹先生、琴子さんと結婚してるんでしょ?いいなぁ。ねぇ結婚ってどんなかんじ?赤ちゃんできるってどんなの?」

「そうだな、大好きで、ずっと一緒にいたいっていうか、俺がどんなに悪いことをしても、琴子ならずっと味方でいてくれる、信じていてくれるって思ったから一緒にいてほしいって頼んだんだよ。 赤ちゃんは、まだ見てないから、
わからない。でもお腹にいるってわかったときは、頭が真っ白になって、幸せと不安と、いろんな気持ちになったよ。」
「不安?」「そう。もちろんすごくうれしかったけど、俺がお父さんでいいのかなって。」
「なんで?美咲、直樹先生がパパならうれしいよ?美咲のパパは直樹先生みたいにかっこよくないけど、美咲パパが大好き!赤ちゃんだってきっと自分のパパが大好きになるよ!」
「そっか…。ありがとう美咲ちゃん。」
「美咲ね、琴子さんみたいになりたいの。いっつも明るく笑ってて、
琴子さんが笑うとみんな元気になるよ。美咲、琴子さんみたいになりたい。」

もし、看護婦さんになれたら…

美咲ちゃんはちいさく聞こえないような声で呟いた。
俺は聞こえないフリをした。
この子はやっぱり自分のことを知っている。それでも明るく笑っていれる、
美咲というたった5歳の少女のなんという強さ。胸が熱くなった。

弁当を食べて、もう少し話して、俺達は病室に戻った。
お袋の弁当も好評で、美咲ちゃんは本当に幸せそうに笑っていた。
影で見ていた彼女の母も、琴子も満足そうだった。

その後にある離別を、誰も少しの間忘れていた。

アキ
2003年10月24日(金) 22時57分10秒 公開
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