魔法の手 5



俺が琴子を抱きかかえて病院に入ってきたので、みんな驚いていた。
「入江先生、どうされはったんですか?」
声を掛けてきたのは、以前、俺の家に電話をかけてきた池沢という看護婦だった。
琴子を抱きかかえたまま振り向いた俺を見て、池沢は何とも言えない顔をしていた。
「!!あ、あの、その方は・・・」
ようやく出た言葉と対照的に俺はあっさりと答えを言った。
「俺の妻だよ」
待合室の患者や看護婦達が一斉にこちらを見た。
   『えぇぇーーーーーーーーーーーーーーー』
それは池沢も例外ではなかったようだ。
「え、えぇーーー」
「多分、貧血だと思うんだけどね、一応、診ておこうと思って」
「あ。あ、そうですか」
「第3診察室、空いてるかな?」
「はい、今日は入江先生お休みの日なんで、誰も使ってないですけど」
「じゃ、そこかりるよ」
俺は琴子を抱きかかえたまま第3診察室へと向かった。
俺に抱きかかえられたままの琴子は恥ずかしそうにしていた。
「入江くん、また騒がせちゃったね、ごめんね。あたし、いっつもいっつも・・」
「まったく、ホントだな」
「うん、本当だよね。本当に、本当にごめんね・・」
しゃくり上げて泣き出しそうだったので、俺は付け加えた。
「でも、もう慣れてるよ」
第3診察室で琴子を診たが、脈拍も正常だし、胃が少し荒れてるくらいだった。
「琴子、お前、またコーヒー飲み過ぎたろ」
ベッドに横たわっている琴子は申し訳なさそうに答えた。
「あ、うん、そう。でも、3杯だよ?ミルクも砂糖も入れたし」
いつかのことを思い出してるらしく、言い訳するような子供のような目をして俺を見た。
っとに子供みたいなやつ。
琴子を優しく包もうとしたその時・・コンコン。ドアがノックされた。
「はい、どうぞ」
「・・失礼します。血液検査の結果お持ちしました」
さっきの看護婦、池沢だった。
「ありがとう」
俺は渡された結果を見た。
「うん、大丈夫だな・・。念の為、薬出しとくか」
俺は池沢に処方箋を出してくれるように指示をした。
「お薬は、こちらにお持ちしますか?」
「いや、受け付けでもらうよ。もうコイツも平気みたいだし、待合室で待つから」
「はい、分かりました・・」
池沢はまだ何か言いたそうに立っている。
「あ、あの、入江先生、あの・・・」
「なに?」
「あ、あの・・い、いえ、何でもないです。スミマセン。失礼します」
そう言うと池沢は診察室から出ていった。
琴子が俺をまじまじと見ている。
「ねぇ・・・入江くん?」
「なんだ?」
「あの人・・」
「ん?」
「あの、今の、看護婦さん・・」
琴子の言いたいことは分かっていた。でも聞けないんだろうな。
その後の言葉が続かないでモジモジしている。
「ま、たいした事なくて良かったな。さ、いくぞ」
そう言って、俺を見上げている琴子の頭をポンポンと優しく叩いた。
「う、うん」
診察室を出ると、数名の看護婦が廊下をそわそわと歩いていた。
待合室で座っていても、遠めから見ている看護婦や、噂を聞き付けた入院患者が
俺たちの周りをウロウロしている。
「い、入江くん・・入江くんってやっぱりモテるみたい」
「俺には関係ないよ」
「関係ないって言ってもー・・」
「俺には琴子がいるだろ」
俺らしくない。
普段なら言わない事。
でも・・。周りでざわついている連中に聞かせておきたいような気がした。
俺には琴子がいる。それだけでもう充分だということ。
いくら一緒に住んでいなくても、そんな事で俺の琴子への気持ちはビクとも揺らがないという事。
当の琴子は俺の意外な言葉に真っ赤になっていた。
「み、みんなに聞こえちゃうよ」
「いーよ、だって・・・」
「なに?」
のぞきこむ琴子の顔。
たまらなく好きな顔。
俺は琴子の耳元に顔を近付けた。
「だって、ホントのことだろ?」
「い、入江くぅ〜ん」
琴子はそう言って俺に抱きついてきた。
またも周りがざわめいた。
   『わっ!!!』   
「はっ!ここ病院・・」
「バーカ」
慌てて琴子は俺から離れた。
前、俺が鴨狩にヤキモチをやいた時、食堂でも同じような事があったな。
受け付けから名前を呼ばれて、薬を受け取り、俺たちは病院をあとにした。






ARK
2004年10月30日(土) 09時06分32秒 公開
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琴子、本当にかゎぃぃですね。入江君が琴子に惚れるのもわかります(笑 ゆき ■2004-10-30 09:58:41 YahooBB220061188032.bbtec.net
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