魔法の手 fin



「まだ胃が痛むか?」
そう聞いても、黙って首を横に振るだけ。
しゃがんでいる琴子の視線を合わすように、俺もしゃがんだ。
うつむいている琴子の顎を親指で上へあげる。
潤んだ瞳はまだ俺と視線を合わせようとしない。
「どーした?」
「・・・」
黙ったまま。少しして電話を指差した。
「電話?」
もしかすると誰からか電話があったのか?
「・・留守電になってたのを押しちゃったの・・」
「あぁ」
今日は琴子が一緒だったから、留守電のことなど気にもしてなかったことに気付いた。
「それで?」
「昼間の・・看護婦さんから・・電話入ってたよ」
昼間?池沢か?
再生ボタンを押してみる。
『池沢です。今日、お休みだと思うのですが、もし良ければ・・お食事しませんか?
 またお電話します』
留守電の時間は俺が家を出た直後だった。
池沢の声が流れ終わると、また琴子の瞳が濡れた。
あぁ、だから、昼間、何か言いたそうだったんだな、池沢。
「時々かかってくるけど、1度も食事もしてないし、何もないよ。
 それとも、まだ、俺の事、信じてない?」
琴子はゆっくりと顔を上げて、俺を見た。
「入江くぅーん」
そう言って俺に抱きつく。
「ううん、ううん。信じてないとか、そんなんじゃないの。
 でもね、でもね、やっぱり、不安になっちゃって。
 今日だって、やっぱり、入江くんがモテるってこと改めて思いしっちゃったし。
 そしたら、留守電にもメッセージ入ってて・・。
 信じてるけど、でも、でも・・ヒック、ヒック・・」
琴子の背中をそっと撫でる。
「昼間の看護婦だけじゃないけどな、電話がかかってくるのは・・」
やっぱり〜?!といった表情の琴子が腕の中で俺を見上げている。
「でも、俺からは電話もしないし、どんな誘いも断ってるよ」
「ホント?」
「あぁ」
頬に流れる涙を親指でぬぐう。
「うん、分かった」
「じゃ、ほら、風呂入ってこいよ。俺、もう待てないぞ?」
「!!!」


乾ききっていない髪をゆっくりと梳かす。
長いまつげを小指でとじる。
そして、待っていた長い夜が始まる。


そう。そばにいればこうやって琴子に触れることができる。

膨れた頬をつねったり・・・

涙をぬぐったり・・・

髪を優しく梳かしたり・・・

背中を撫でることも・・・

細い肩を支えることも・・・

その華奢な身体を抱き上げることも・・・

まつげを閉じることも・・・

夜には腕枕にもなる・・・

唯一、琴子を抱きしめることができる。


フッ。そういえば、琴子、言ってたな。
俺の手は魔法の手か・・・。
めずらしく、当たってんじゃん。
でも、琴子にだけってこと、分かってんのか?




ARK
2004年10月30日(土) 09時31分20秒 公開
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■作者からのメッセージ
長々と書いてしまいました。もうちょっと神戸の話を書きたいのですが・・書けた時は宜しくお願いします。

この作品の感想をお寄せください。
Qy66pn kccolsqvafnr, [url=Click!! [link=Click!! Click!! imekrsrhbq ■2013-07-07 00:41:52 93.74.30.19
やっぱり・・・ヒント、なりまくりですよねぇ〜このお話も大好きです。またお願いします♪ kamezo ■2004-11-01 22:59:18 pd38a64.tkyoac00.ap.so-net.ne.jp
Shonaさん、ソウさん、kamezoさん、ありがとうございます。また書けたら書きますので、その時は宜しくお願いします。 kamezoさん、多分、当りです(笑)だいぶ歌をヒントにしてます・・。 ARK ■2004-11-01 08:02:00 61-27-120-235.rev.home.ne.jp
ARKさん、もしかして○さんのFANかな?って思ってしまいました。 kamezo ■2004-10-31 21:04:05 p628211.tkyoac00.ap.so-net.ne.jp
ドキドキしました!神戸の話は私も好きです。 ソウ ■2004-10-31 09:43:28 YahooBB220029060033.bbtec.net
すっごく良かったです。次の作品期待してます。 Shona ■2004-10-31 00:47:19 nwuxe001.iwate-pu.ac.jp
ヤマさん、初めまして。感想頂きありがとうございます。だんだんとワンパターンしている気がしてるのですが、また書けたら書きますので、その時は宜しくお願いします。☆彩佳さん、いえいえ気にしないでくださいね。どうしようっていうのはどう書いていくか決めてなかったので・・たいした山場のない内容だったら書けるのですが・・その時は読んで頂けると嬉しいです。 ARK ■2004-10-30 23:57:03 61-27-120-235.rev.home.ne.jp
うわあぁぁ〜!!ARKさんごめんなさい!! 続き、ぜひ読みたいので私の戯言などに惑わされず、続きをお願いいたします! 彩佳 ■2004-10-30 23:36:16 ZF080237.ppp.dion.ne.jp
ARKさん、はじめまして。優しい入江君にドキドキしっぱなしでした。次作も期待しています。 ヤマ ■2004-10-30 23:01:28 p5183-ipad03sizuokaden.shizuoka.ocn.ne.jp
彩佳さん、ありがとうございます。バレたみたいですね、池沢さん(笑)もうちょっと書くつもりで登場させてたんですが・・どうしよう・・書けたら書きますね。 ARK ■2004-10-30 22:11:51 61-27-120-235.rev.home.ne.jp
入江くんの手は魔法の手。素敵な言葉ですよね〜。ラストのほうとかマジで感心しちゃいました。琴子の手も入江くんにとっては魔法の手?池沢さん、金ちゃんと同じ苗字?もしや親戚じゃ!?なんてちょっと勘繰ってしまいました。 彩佳 ■2004-10-30 21:01:04 ZF080237.ppp.dion.ne.jp
ゆきさん、ありがとうございます。私のつたない文章でドキドキして頂けたようで、恥ずかしいような、嬉しい気持ちです。また書けた時は読んでもらえると嬉しいです。 ARK ■2004-10-30 11:29:15 61-27-120-235.rev.home.ne.jp
最初から最後まで読みました☆とっても読んでいてドキドキしたり嬉しくなったりと、面白かったです!また次の作品を早くよみたぃです>_< ゆき ■2004-10-30 10:02:59 YahooBB220061188032.bbtec.net
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