魅力 2 |
美人で、才女で、料理も出来て、このあたしでさえ足元にも及ばないような完璧な女性。 ・・・だったら、逆に諦めもつかなかったかもしれないわ。今、思えばね。 でも、きっとそんな女だったら、入江さんには必要なかったのよね。 そーいえば・・・。 啓太が琴子のことを好きだって言ったときだって、入江さん言ってたものね。 『おまえには琴子は必要ない。必要なのはおれだ』 「モ、ト、ちゃ〜〜んっ」 病院を出たところで呼び止められた。 声の主は、すぐに分かる。 「なによ〜」 不機嫌そうに振り向くと、琴子の隣には入江さん。 「あ!入江さん♪」 「よっ」 そう。あの憧れの入江さんとこうして話せてるんだもんね、この子のオカゲで。 「モトちゃん!」 「あら、いたの?琴子」 「あたしが呼んだんじゃない」 子どもみたいに拗ねるのよね、まったく、しょーがない子。 「そうだった?」 「もう、せっかく一緒に夕飯どぉ?って誘おうと思ったのに・・」 「え?夕飯?」 「うん。ふぐ吉に行こうと思ってね、ね、入江くん」 琴子が見上げる。 ホンの少しだけ、入江さんの顔がゆるむのをあたしは見逃さない。 「あぁ。用事がなければ、桔梗も来ないか」 「入江さんに誘われたら、断ったりしませんよ〜。本当はふたりっきりがいいんですけどねぇ」 「モトちゃん、冗談やめてよっ」 「あら、琴子。冗談じゃないわよ」 ふぐ吉に着くと、座敷にとおされた。 ここは琴子のお父さんのお店。 そうそう、ここには啓太よりも琴子に惚れてた男がいるのよね。 「おぉー、琴子、久しぶりやないけ」 「琴子、直樹、イラッシャイ」 でも、そんな男にこーんな可愛い外人の子が惚れてるんだもん。 世の中って分からないわ〜。 「金ちゃん、クリス!久しぶり〜」 「よぉ」 「なんや、なんや。入江もおったんか、つまらんのー」 入江さんと金之助。 何から何まで正反対の2人。 でも、琴子を好きって気持ちは同じだったのよね・・・。 あたしは、2人を見比べながら思った。 金之助を見ているあたしに気付いたのか、クリスが急に金之助に抱きつく。 「モトハン。金之助ハダメデッセー!」 「よ、よせ、クリス」 真っ赤っかになりながらも、嬉しそうにしてるわ。 「え??え、モトちゃん、まさか、金ちゃんを??」 あぁ、もう、この子って本当っ! 「そんな事あるわけないでしょう。あたしは入江さん一筋よ」 そんな言葉にだって、入江さんは動じない。 「モトちゃん!入江くんだってダメだよ!!」 クリスが金之助にそうしたように、琴子も入江さんに抱きつく。 こういう時も、入江さんは照れもしないで、一言で片付けちゃう。 「やめろよ」 でも、やっぱり、照れてはいないけど、嬉しそうなのよね。 あーぁ、これじゃ、あてられにきただけじゃない。 食事もすすみ、お酒もすすみ・・。 琴子ったら、すっかり酔っ払っちゃって、寝息をたてちゃってる。 あたしは前から知りたかったことを聞くことにした。 答えは分かってるのに。 「入江さん」 「ん?」 「あの、1度聞きたかったんですけど」 「なに?」 「どうして “琴子” だったんですか?」 入江さんはクスッと笑った。 「・・・桔梗は、気付いてんじゃないの?」 お見通しね・・。 「ふふ、やっぱり、入江さんにはかなわないわ。 あたし、入江さんを初めて見た時、あぁ、この人だわ、あたしが探してた人は。 って思ったんですよ。 でも、結婚してるって知って、どんなパーフェクトな女が射止めたんだろうって 気になってて。 そしたら、看護科にこの子が入ってきて・・・」 入江さんの隣で気持ちよさそうに眠っている琴子をチラッと見る。 あたしも。入江さんも。 「入江って名字だから、もしや・・?って。 でも、一緒のグループになって、実習しててもドジやミスばっかりで。 もしや?って気持ちがなくなった頃に、『入江くんの奥さんなんだから』って この子、教室で叫んで。 冗談やめてよねぇ〜って笑ってたら、タイミングよく入江さんが教室に来るんですもの」 「あぁ。そーいえば、そんな事もあったっけ」 入江さんったら、覚えてるくせに。 「そーですよ。でもね、あの時・・ なんだ、この子ならあたしにもチャンスあるかなって思ったんですよ」 「ハハハ」 入江さんはお酒のせいか、普段見せないような優しい顔であたしの話を聞いてくれてた。 「ホンの短い間でしたけど・・」 「そぉ?」 「この子。あたしより年上だっていうのに、子どもみたいで放っておけないんですもの。 信じられないくらいドジやミスをするのに憎めなくて。 なーんにも出来ないのに、なーんでも出来ちゃうくらいのパワーを持ってて。 あたし、もし、フツーに女が好きな男に生まれてたら・・好きになってたかもしれないわ」 ホンの一瞬だけど、入江さんの瞳が鋭くなった。 こんなにもヤキモチやきだなんてね、本当、意外な一面だわ。 「そーかもな。でも、良かったよ・・」 「何がですか?」 「桔梗が女に興味がなくて」 そう言って、入江さんは、お酒に口を付けた。 だからって男に興味があるあたしに興味はわかないでしょう。 もう今さら、入江さんにどうこうする気もないけどね・・・。 琴子は幸せそうな顔でスヤスヤと寝ている。 時々、ムニャムニャと寝言をいいながら。 「う〜ん、入江くーーん」 そんな琴子を見る入江さんの顔が優しい。 こんな顔、普段は見せないものね。 琴子だけのものなんだわ。 うらやましい気持ちの裏で、ホッとしている自分に気付く。 「入江さんが選んだのが・・琴子で良かったわ」 「フフ・・」 「でも。気をつけた方がいいですよ。この子って意外とモテるんですもの」 一瞬の間の後に入江さんは余裕の顔で答えた。 「・・そーみたいだな」 |
ARK
2004年11月05日(金) 09時13分10秒 公開 ■この作品の著作権はARKさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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miffy-chanさん、ソウさん、こっこさん、感想ありがとうございます。これでこの話は終わりにしようかと思ってたのですが、続きを書きましたので良かったら読んでください。 | ARK | ■2004-11-08 18:08:57 | 61-27-120-235.rev.home.ne.jp | |
モトちゃんを通しての入江くんの気持ち、とても良かったです。続きがあると嬉しいのですが…。楽しみに待っています。 | こっこ | ■2004-11-08 00:46:51 | hvss01.zaq.ne.jp | |
モトちゃん好きなんですよ〜。まだ続きあるんでしょうか?? | ソウ | ■2004-11-07 21:52:33 | YahooBB220029060033.bbtec.net | |
いつも素敵なお話、楽しみに拝読させて頂いております。そう、琴子ってもてるんですよね。入江君の『やきもち』シーン好きなんですよねー。また、素敵なStory楽しみにしてますね。 | miffy-chan | ■2004-11-05 12:33:51 | p11109-adsao01daikai-acca.hyogo.ocn.ne.jp |