お兄ちゃんが出て行った。外の世界で試してみたいと。

「直樹は男なんだ。社会に出る為にはそんな世界を
　体験しておくのも必要なんだよ。わたしは、いいと思うよ。
　一人でやって見なさい。」

パパの一言で決まってしまって、お兄ちゃんは
あっさりと出て行ってしまった。
琴子ちゃんの落ち込みようも痛いほど判る。
せっかく琴子ちゃんが帰ってきたというのに…
お兄ちゃんってば薄情者よね。


そんな琴子ちゃんが笑顔で帰ってきた。久しぶりの笑顔にホッとする。

「お兄ちゃんがファミレスのバイトー？！」

あの、お兄ちゃんがウェイターさん？…見たい、見たいわ！！

「みんな変装して行きましょ。もぅお兄ちゃんシャイなんだから」

久しぶりに直樹の顔が見れる事に嬉しさが込み上げる。
元気なのかしら…


あたしたちの変装が簡単に見破られた。
なんで判るのかしら？いつもと変わらず不機嫌そうだし…
でも元気そうで良かった。
しかし、あの松本って子もなかなかしつこいわね。
こりゃあ、うかうかしてられないわ。琴子ちゃん！頑張るのよ！


琴子ちゃんが変だ。目を真っ赤にしてクマつくって…心なしかやつれてる？
そういえば昨夜も夜中に帰って来て…落ち込んでいた様にも見えた。
心ここに非ずって感じだし…
ご飯すらまともに食べないし…大丈夫かしら。
まさか、またお兄ちゃんに意地悪でもされたのかしら。
きっとそうだわ！


待ちに待った琴子ちゃんの一言。明後日はバレンタイン。
もう今年は無理かと諦め掛けていたんだけど肝心の琴子ちゃんも
元に戻った様で一安心。
頑張るのよ！琴子ちゃん！

今日はバレンタインだと云うのに猛吹雪。
琴子ちゃんはお兄ちゃんに逢えたかしら。渡せたかしら…
うまくいきますように…

ＲＲＲＲＲＲＲＲＲＲ…
こんな遅くに誰からかしら？徐に電話に出る。

「あらっおにいちゃん？うちから？」

声の主は直樹だった。

「えっ！？琴子ちゃんが？」

突然の胃痛で倒れたらしいが大した事はないようだ。

え？あたしが琴子ちゃんを迎えに？
今、お兄ちゃんと琴子ちゃんは２人きり…？
なんて…なんてオイシイの！？

「雪が降ってるから迎えに行くのイヤよ。
　明日、迎えに行くから今晩はゆっくり泊まらせてあげなさい。」

お兄ちゃんの罵声が響くが、そんなのはお構いなし。そそくさと電話を切る。
どうしましょう！今夜こそ、お兄ちゃんには頑張って貰わないと…
あっ！相原さんにも連絡しとかなきゃね。
…生憎、金ちゃんさんが出たけど、構わないわよね。
しっかり伝えてもらわなきゃ。琴子ちゃんはお兄ちゃんの所にいるって。
金ちゃんさんも何か叫んでたけど知ったこっちゃないわ。
あたしは明日の準備に忙しいのよ。


…………どう言うことなの？
………なぜなの？
……なぜ、何もなかったの？お兄ちゃんは何をしてるの！？
何てじれったいの！？
琴子ちゃんは琴子ちゃんでチョコを渡せなかったなんて…
ああっ…やっぱり、あたしが何とかしないとダメなのね。

そんな思いを胸に
お兄ちゃんと琴子ちゃんは２回目の大学生活を迎えることになりました。
今年こそ…頑張ってよ！お兄ちゃん・琴子ちゃん！