夜遅くパパがお兄ちゃんを呼び出した。
何でも社長秘書の安田さんが会社のお金を持ち逃げしたらしい。
それで、お兄ちゃんに秘書代理をして欲しいそうだ。
琴子ちゃんも何か手伝いたいと言ってくれた。
そうよ!琴子ちゃんもパパの会社でバイトすればいいのよ!
お兄ちゃんと同じ会社でOLのバイト…
子供が出来たら経験出来なくなるんだから丁度いいわ!
そんな琴子ちゃんから信じられない言葉が…
…何もない!?
プレゼントって?
家庭教師!?
何故!?いざという時の為に、いろいろ準備してたのに…
お兄ちゃんったらーっ!!こうなったらリスマスには決めて貰いますからね!!
会社関係のパーティーに琴子ちゃんが行かないなんて…
せっかく、お兄ちゃんが行くのに…でも琴子ちゃんにも付き合いがあるものね…
はぁ…でもねぇ…
そんな時、じんこさんから電話が。
「えーっ来れない!?どうしてぇっ!」
来れない?じんこさんが?
「そうかぁ…初めてのクリスマスだもんね…いいよ」
まさかキャンセル!?
それじゃあ…
受話器を置く琴子ちゃんの肩を掴み
「琴子ちゃんどーしたのっ!?じんこさんダメになったの!?」
「そうなんですよ。ったく彼氏が都合ついちゃったらしくって」
「じゃ琴子ちゃんも行きましょうよ!」
そうよ!琴子ちゃんがいないなんて。
「でも理美がいるから2人で遊んで来ます。」
それでも友達と過ごすと言う琴子ちゃんを残し、
あたし達はパーティー会場に向かった。
気が付いたら、お兄ちゃんがパーティーから抜けて帰ったらしい。
ったくお兄ちゃんったら愛想ないんだから。
遅く帰ったあたし達を琴子ちゃんが出迎えてくれた。
予定を変更して家でパーティーをしたらしい。テーブルにはチキンとケーキが。
楽しい時間を過ごした様でいつにも増して琴子ちゃんが明るい。
これが、お兄ちゃんと一緒だったらもっと楽しかったでしょうに。
うまくいかないものだわ。
年が明けて、例年どうりの時間が流れていく。
今年こそ…今年こそ!お兄ちゃんと琴子ちゃんは…
きっと叶えて貰うわ!
取り敢えず、今月の成人式に着る琴子ちゃんの着物準備しなきゃ。
成人式から帰って来た2人のお祝いもそこそこに
帰ると言い出したお兄ちゃんにパパが書斎へと誘う。
…将来の話。やっぱりパパは会社を継がせたいらしい。…でも、お兄ちゃんは?
お兄ちゃんのしたい事は?夢はないの?
「どう思ってるも何も、そうするように仕向けて言ってるじゃないか」
え?…お兄ちゃん?
「父さんは俺に選ばせるフリをして結局
俺の道を勝手に決めてるじゃないか…きたないよ。」
なんですって?なんですって!?
「お兄ちゃん!!」
気が付いたら、あたしは書斎に飛び込んでいた。
「パパに向かって何て言い方するのよ!パパは貴方の事考えて言ってるのよ!」
あの直樹が…
「俺のこと考えてんじゃなくって自分の事心配してるんだろ」
「ま…まーっ!何て事を…」
ここにいるのは直樹なの?
「おふくろだってそうだろ。」
…え?…あたし?
「自分が琴子の事気に入ってるから
俺の気持ち無視してまでひっつけようとしてるんだろ」
「…あたしは、ただお兄ちゃんと琴子ちゃんはいいカップルだと…」
そうよ。琴子ちゃんに初めて会った時からずーっと思ってたわ。
「いい加減にして欲しいね。恋愛まで自由にさせてもらえないなんて」
あの直樹が…直樹が…!
「だから俺は家に戻って来たくないんだよ!こんな束縛される家!!」
気が付いたら叩いていた。直樹を…
「直樹!!」
出て行く直樹をパパが呼び止める。
「パパほっときなさいよ!あんな子さっさと出て行っちゃえばいいのよ!!」
悔しい…もどかしい…何故!?何故こんな事になっちゃったの?
堪え切れず泣き出したあたしは
琴子ちゃんがお兄ちゃんを追い掛けた事にも気付かなかった…
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