言葉の裏にあるもの 5 fin
朝が来る・・・。隣に琴子がいなくなってから今日で6日。
大学でも琴子は意図的にオレと会わないようにしているらしく、
その姿を目にすることはない。
だが・・・毎日のように視線を感じるのはなぜだろうか。

そんな毎日の中で渡辺が久しぶりに電話をかけてきた。
『よお、久しぶり』
「久しぶり・・・。元気にしてたか?」
『ああ。入江こそってあれ?声に元気ないな。』
「え・・・」
渡辺はしばらくの沈黙の後、言った。
『・・・もしかして 琴子ちゃん?』
内心ドキっとしたが平静を装う。
しかし気持ちとは裏腹にオレは渡辺にきいていた。
「琴子に会ったのか?」と。
『ああ』
「そっか・・・」そう一言だけオレはつぶやいた。
『・・・喧嘩、したんだって?』
「・・・・・」
『・・・琴子ちゃん、頑張ってたよ。修行してるんだって。
でも・・・やっと、やりたいことみつかったみたいだよ』
「え・・・」
『行ってやりなよ。琴子ちゃんのところへ』
「渡辺・・・」
『彼女、《まんぷく亭》っていうおいしいレストランで働いてるよ』
「レストラン?」
『そう』渡辺がにっこり笑っている気がした。

そして次の日、大学は休みだったため、さっそくそのレストランに向かう。
・・・まあ、名前からしてレストランではないと思っていたが。
昼時で客も多く、琴子はオレが入ってきたことに全く気づいていない。
「麻婆豆腐定食。」おもむろに注文するオレ。
「はーい 麻婆豆腐定食」琴子は元気よく返事をして作り始める。
「こ、琴子ちゃんっ 俺がやるって言ってるだろっ ちょっと目を離すと・・・」
定食屋の親父が慌てて琴子を止めに入る。
「大丈夫 大丈夫!もう慣れましたから。最近はおじさんの味とかわんないって」
「ほんとかい〜?なんか信じられないなあ」
琴子に疑いの目を向ける親父。
・・・ったく。そんなわけないだろっ なんで定食屋の親父が作ったものと
お前が作ったのがかわんねー味なんだよっ
だが、親父の言葉も聞かず次々と注文をとっていく琴子。
見かねたオレは一つため息をつくと言った。
「まずい」
親父と琴子の顔色が変わる。琴子は後ろを向いてしょんぼりしていた。
「や、やっぱり・・・お客さん すいませんねー。すぐにあっしが作り直しやすから」
冷や汗を書きながら言う彼にオレはまた口を開いた。
「いーですよ。慣れた味だから」
その言葉にようやくオレが来たことに気づく琴子。
「い、入江くん!?ど、どーして入江くんがっ」
驚く琴子の横で親父が叫ぶ。
「入江って おーっもしや琴子ちゃんの別れた旦那かー!?」
・・・わかれてねーよ!ったくどういう説明してんだよっ
心で思いながらオレは言った。
「久しぶりに渡辺から電話がきて うまいレストランがあるから是非行けってね。
似合うじゃん。定食屋のお前・・・。で、どうする?
これからオレたちどうしたい?」
ゴクリと唾を飲む琴子。そして口を開いた。
「あ、あたし・・この何日間入江くんと離れてみて どれだけ入江くんやみんなに甘えてたかよく分かった。
それで・・・いろいろ考えて決めたの」
オレはまっすぐに琴子を見た。
「あたし・・・あと一年ちゃんと大学行って 単位とってちゃんと卒業する。
それで・・・渡辺さんの話聞いてて考えたの。あたしの一番やりたいことってなんだろうって・・・。
どう考えても 入江くんはバカにするかもしれないけど これしかないの。入江くんのお仕事を手伝うために看護婦になりたいの」
「看護婦・・・」
「前から何度もそんなことを思っては挫折してきたわ。でも、今度は1年間大学の合間に勉強しようと思ってる。
命にかかわる仕事だから あたしには無理だといわれちゃうかもしれないけど 本気でそう思ってるの。
あたし、入江くんにつりあう奥さんになりたいの・・・。だから、
それまでは入江くんに会うまいって心に誓って ここで一人立ちできるよう修行するつもりなの」
親父の顔が青くなっていくのを横目で見ながら言った。
「それじゃ 一生会えないことになるかもな」
「ひ、ひどい〜っ」琴子の声にオレはふっとため息をつき、
琴子の頭の上にポンと手を置いて言った。
「・・・頑張ったな いろいろ。頑張ってみろよ 看護婦。それでこそ琴子だよ」
・・・それでいいんだよ、琴子。お前がどんな道を選んだってオレはかまわない。
自分の将来を真剣に考え、選んだ道ならオレは何も言うことはないし
どんなことをしても支えてやる。だから・・・帰って来い。オレのところへ・・・。
「入江くん!!」思わず抱きつく琴子を受けとめる。
「帰ってこいよ そろそろ」
「だ、だって あ あたしまだ・・・」
「認めるよ。俺の立派な奥さんだって」
オレの言葉にジワッと涙をにじませ琴子は言った。
「あたし 本当は 本当はね 入江くんに会いたくって 会いたくって死にそうだったのっ」
「・・・知ってるよ。そんなこと。」
・・・ほんとうのところオフクロがうるさくてしょうがないってのもあるけれど
オレももう限界だから・・・。

琴子は定食屋をやめ、家に帰ってきた。
オフクロが涙を流して喜んだのはいうまでもない。

―寝室―
琴子が持って出ていた荷物をクローゼットに戻す。
その姿を後ろから見つめるオレ。
「・・・なあ、お前が持って行った荷物ってほとんど
オレが買ってやったもんばっかりだったよな」
「え・・・」
オレの言葉に琴子は手を止める。
「気づいてたの?」
「・・・・・」
「家出するときまで入江くんが関わったものを持って行きたいなんて・・・。
私、重症だね。」琴子はそう言って微笑んだ。
「・・・そうだな。まあ、でも・・・」
「え・・・」
「いや。なんでもない」
そう言ってオレは琴子に近づくと そっとキスをした。
数日ぶりに感じる唇のぬくもりが心地よかった。
「入江くん・・・?」
「琴子・・・頑張るんだぞ。これからは何があっても」
「う、うん!」
琴子はそう返事してにっこり笑った。

―なあ ちゃんとした自分の夢があるのとないのとでは
全然違うってことをオレに教えてくれたのはお前なんだぜ。
だから・・・お前も自分の夢に向かって突っ走れよ。
その夢がオレを中心にまわっていたってもうオレはお前のことを笑ったりはしないから。
・・・逆にそうでなくっちゃお前じゃないもんな、琴子―






FIN


みーたん
2008年08月24日(日) 02時13分20秒 公開
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■作者からのメッセージ
終わりました〜!直樹目線、うまく書けたかどうかわかりませんが 読んでいただけたら嬉しいです^^
あ そうそう、ときどき心でツッコミを入れる直樹に注目してくださいね(笑)

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雫さん、すなおさん、kaniさん、ルナさん、しげたんさん、さあやさん、eamamadoorさん、アリエルさん、いつも読んでくださってありがとうございます^^ちょっとでも、直樹の心情が伝わったらなという思いで書いたのですがこんなに嬉しいコメントがもらえて感激です。最後の寝室のシーンはやっぱりラブラブもないとってことで付け加えたオリジナルです^^喜んでくださって嬉しいです^^ みーたん ■2008-08-24 15:47:58 114.189.85.149
みーたんさん、さすがです〜〜、すっごい良かったですよ〜〜!入江君がどれ程琴子を大切に想っているか、愛しているのか、細やかな心情がまっすぐ伝わってきました。ステキ過ぎます〜〜っ、みーたんさんブラボー!そしてありがとうございました!! アリエル ■2008-08-24 15:38:15 124.83.159.211
最後の寝室のシーン、素敵でした(^o^)決意を新たにする琴子にも入江くんにも惚れ直しました!みーたんさんの次回作楽しみにしています! eamamadoor ■2008-08-24 13:46:57 222.225.21.46
つっこみ注目しました。 eamamadoor ■2008-08-24 13:45:26 222.225.21.46
直樹の突っ込みはちゃんと心の中で突っ込み風に読ませて頂きましたよ^^今までの流れがあるだけに直樹の最後の「笑ったりしない」には感動です♪ さあや ■2008-08-24 10:24:31 122.29.153.63
みーたん、一気読みしました。二人の気持ち(感情)の流れがよくわかり、すーっと心の中に入ってきました。二人仲良くラブラブが一番!! しげたん ■2008-08-24 08:23:57 203.168.106.134
すごいです!!!原作を読んでいるみたいでした。 ルナ ■2008-08-24 07:44:41 220.152.68.41
入江君の心の突っ込み、いいですね(^∀^)琴子が家に帰ってきたのを一番喜んでいたのはやっぱり入江君でしょうね♪ kani ■2008-08-24 07:44:16 220.29.138.50
入江君のツッコミには毎度毎度笑わされました(*^ω^*)やっぱり琴子ちゃんだけじゃなく、入江君も1人で居るのには限界があるんですねww2人ともやっぱりお互いに惚れ込んでいるんですよねぇ〜!!(羨)みーたんさんの次回作も楽しみにしております☆” すなお ■2008-08-24 02:49:34 220.102.19.13
今、一気に読んじゃいました!入江君の気持ちが、とってもよく伝わってきました!最後の入江君の気持ちに、思わず泣いちゃいそうになりました!! ■2008-08-24 02:34:36 211.18.37.123
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