始めに…
このお話は、chan-BBさんがお書きになられた「ドロップ」に感銘をうけまして書かせて頂いた作品です。
本当は、、Chan-BBさんだけにお願いしてこっそり送りつけた作品だったのですが、、
chan-BBさんに背中を押され、ほんとおこがましいんですが、、こちらに投稿することにしました。
未だに、ここに投稿することに不安な気持ちがありますが、、どうかchan-BBさんの「ドロップ」を読まれた方が
それぞれに抱いた世界観が壊されないことを祈りつつ、この作品をお忙しい中
目を通していただき、さらに多くの人に読んでもらいたいと温かいコメントを下さった
chan-BBさんにここであらためてお礼もうしあげます。
そして、、この素敵な機会を与えてくれたこの場と、管理人のすみれお様に
感謝いたします。
それでは、、これよりお話です。
（勝手ながらchan-BBさんが断念された、入江くん×相原パパのお墓参りへ行った日のやりとりを
書かせて頂いたものです。）

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琴子の母の実家にて、、直樹は重雄とふたり酒を飲みながら古いアルバムをめくっていた。

ふいに一枚の写真に目が止まり直樹は、指をさす。

「なんでこんな顔？？」

その写真は、小さな琴子が振袖を着て母悦子と二人で並んでいる写真。
七五三の７才のお祝いに撮られたものであろう、千歳飴を握る琴子に直ぐにそれとわかったが、
ただお祝いと言うのにひどく膨れっ面で写っていたのだ。
行事好きな琴子には有り得ないその態度に直樹は疑問を抱いた。

直樹の声に重雄は直樹の指の先を見て、ふっと笑うと事のいきさつを話し出した。

「あぁ…これ、あいつ、、悦子が簪壊しちまって、それで琴子が大怒り、、悦子が機転を効かせて、
自分のレースのハンカチを切ってリボンにして付けてやったんだけど、どーにも機嫌が直らなくて、
あいつ変なところで強情だからなぁ、、それで、こんな写真に」

そう言われてよくみると確かにお団子頭にレースのリボンが巻かれていた。
それはそれで以外にも着物にマッチしていて、いやむしろ簪よりも琴子によく似合っているのに、
そっぽを向いて写る琴子に、直樹は理由がわかり微笑んだ。

重雄は、そんな直樹に話の花を咲かせる。

「そーいえば、やれ弁当にうさぎりんご入れろだの、髪型はこれがいいだの、、ピンクのレース付けてだの、、
いっちょ前にそういう意識だけはしっかり持ってて、、不器用な悦子にいつも口を尖らせていたっけな、、」

「そんなところは今も対して変わらないですね」

その顔が容易に浮かび直樹はまた微笑むと、更に能弁に重雄は語る。

「でもなんだかんだで不器用ながらもそこは母親、毎回、違う形になっちまうりんごに変な名前を付けて笑わせたり、、
あの手この手を使って琴子をうまく丸めこんでたよ」

「…らしいですね」

その話に、いくら転んでも起き上がる琴子のルーツが見えたようで直樹は更に笑った。
重雄は、そこで再び写真に目を戻すと、今度は少し神妙な面持ちで喋り始めた。

「……これな、実は琴子が母親と一緒に撮った最後の写真なんだ、、11月に七五三やってそれから
一ヶ月経つか経たないうちに、死んじまったから…」

そこまで言うと、琴子が眠っている隣の襖に一瞬目をやって再び写真に目をやり話を続ける。

「悦子と過ごす最後の夜に、琴子が泣きながら言ったセリフがな頭から離れなくて…
これを見ると辛くなるだろうからこの日の写真だけはずっとここにしまったままなんだ」

そこでしばしの沈黙が流れたが、、直樹が静かな声でその沈黙を破った。

「…なんて言ったんですか？」

そう促され一呼吸置いた後、漸く話が再開された。

「…笑ってあげれば良かったってね、、それに、大好きっだってもっとたくさん言えば良かったって……
そう言って泣いたきり、、その後は消して俺の前で涙を流すことはなかった、、ただ隠れては泣いてたようだけど」

直樹がその答えにただ黙っていると、ひとりごとを言うかのように少し上を見上げて重雄は呟いた。

「…もしかしたら、無意識にそれが心の置く底にあってだからあんなにも、ただまっすぐに直樹君に琴子はいつも笑ってるのかもな、、」

直樹も、実は同じ事を考えていた。

いつもまっすぐに届けられる、自分を好きだと言う気持ち。
≪入江くん、大好きだよ≫
琴子がそれを毎日のように口にするのは、、大好きな人を突然、失ってしまった過去があったから…
もしかしたら、今日もまたいつか自分を失うかもしれないと、心の奥底に眠るそんな不安で、
紡ぎだされる言葉なのかもしれない。

「…俺は、絶対琴子から離れたりなんかしません…」

頭の中でそんな思いを巡らせているうちに、気が付くと直樹はそう口に呟いていた。
重雄は、突然聞こえたその台詞に、、笑いながら

「それ、琴子に言ってやってくれないか、、」

と直樹に言うと、そろそろ寝るかと話を打ち切り部屋を後にした。


重雄が部屋を去ったしばらく後、直樹が隣の襖を開けると、珍しく琴子が布団にきちんと治まって寝ていた。
近寄って見ると、やたら小さく丸まってる。

寒いのか…？？

直樹は、そんな琴子が気になってその横に滑り込むと、縮こまってる琴子の体を後ろから抱き寄せた。
すぐ隣で横たわるその顔は、まるで子供のようで、いつもならばその顔に思わずいたずらしたくなる直樹であったが、
今夜はなぜかその無邪気な顔がとてもいとおしく思い、泣いている子供をあやすかのようにそっと優しく
その髪を梳き、その頬を撫でる。
少しでも、琴子が安心して眠れるように願いを込めて。
そして、もう二度一人で涙を流す事がないように。

「大丈夫だから、、ここにいるからな」
 
そうしてこの夜、直樹は子供のように眠る琴子をただただ抱きしめ続けた。