「再会」の裏側で〜企みは密やかに!?〜

昨夜は久しぶりに琴子と一緒に帰宅し、夕食も、寝る時間も同じだった。本当に何日ぶりだっただろうか?

琴子がいつも以上にニコニコとしていたのは、いうまでもなくそれが理由だ。今朝もそうだった。


「入江くんと一緒に病院に行けるなんて!あたし、本当に幸せっ」


何度も同じ言葉を口にし、嬉しそうに頬を染める様子は出逢った17の頃とまったくかわっていない。


何気ない朝の風景。何気ないやりとり。それはどんなひと時よりもおれが幸せを感じる瞬間――。



☆         ☆         ☆         ☆         ☆         ☆



午後になり308号室に入ると患者の一人、松田さんがおれに声をかけてきた。

「あっ入江先生ちょうどいいところに!この人琴子ちゃんの昔のクラスメイトで近藤さんって言うんだ」

近藤、と紹介された男がおれに会釈をする。どうやらこの人物が例の”琴子の元クラスメイト”らしい。

「初めまして入江です。昨日は妻がとんだ失礼をしまして申し訳ありませんでした」

おれは自己紹介と琴子の非礼を詫びる。旧知の仲とはいえ病人を前に叫び声をあげたのはやはりよくない。

「あ、いいえ。別に気にしてないんで。逆にオレの方こそ突然の事で相原をびっくりさせてしまったから…」


 ”相原”――――。 いまや琴子をそう呼ぶものは、おれの知り合いでは須藤さんと松本だけ。
その二人にも滅多に会う機会もないので、久しぶりに聞く”相原”という響きはどこか懐かしい気持ちになる。


「琴子から聞きました。何でも今度、同窓会の幹事をされるということで」
「ええそうなんです。なのにこうやって入院するはめになってしまって…。あの…オレ、どれ位で退院できますか?」

心配そうに近藤はおれに問う。

「そうですね…。術後の経過も良好のようですし、一週間ほどで退院できるかと思います」
「そっか…よかったあ〜。いや、発起人が幹事を投げ出すことになったらどうしようってずっと心配してたんですよ」

「近藤さんは責任感強いんだね。ほらさっき見舞いにきてた、大阪弁のにぎやかな友達と打ち合わせしてたもんなー」


大阪弁の賑やかな友達、ってことは金之助のヤツも幹事なのか。


「同窓会ってことは、入江先生も参加を?」
「いえ学校は同じでしたがクラスが違いましたので…」

「実はウチの高校、成績順でのクラス分けだったんですよ。オレは頭悪いF組、ちなみに入江先生はA組で」
「へぇ〜!成績でクラスが違っちゃうのか〜。そういう学校もあるんだね」
「入江先生は入学式の時から既に有名でしたよ。学校創立以来の天才!とか先生方も騒いでましたし」
「はー。やっぱり昔っから入江先生は天才だったんだなあ。すごいわ〜」


いつの間にやら”天才・入江直樹”談義に花が咲き始めたので、おれは会話の輪から抜けて
自分が担当している長谷川さんの様子を診はじめた。 が、次の瞬間―――


「そういえば琴子ちゃんって同じクラスだった時はどんな子だったの?」
「今と全然変わらないですよ。10年前もいつも元気いっぱいで明るくて可愛くって。
誰にでも気さくに話しかけるから、男女問わずにクラスではかなり人気者でしたね」




―――なんだ?この胸にひっかかるもやもやは―――




だた周りに昔の事を聞かれたからあの男は「琴子は人気者だった」と答えただけだろう。

琴子が誰とでも気さくに話す性格ということは昔から知っていること。



じゃあ何故おれはこんなに焦っているんだ?何し対して焦っている―――??



☆         ☆         ☆         ☆         ☆         ☆


「内科・・・ですか」

翌日、当直明けに西垣先生より内科から応援依頼があることを告げられた。

「ああ。とにかく人手が絶対的に足りないらしいから明日からしばらくおまえ行ってきてくれ。あ、いっとくけどな
これは業務命令だからな。琴子ちゃんと一緒じゃないと嫌だ、なんていうなよ」


西垣先生の最後の言葉は無視をし、おれは外来が始まるまでの間に内科に向かうことにした。
一応、応援は明日からだが、それまでに一度きちんと挨拶をしておこうと思ったからだ。


もう少しで内科の入り口という所に差し掛かった時、ちょうど向こうから内科の山崎婦長がこちらに歩いてきた。


「おはようございます。明日からよろしくお願いします。今日はご挨拶だけでも、と」
「ああ、入江先生。おはようございます。外科の方もお忙しいのに本当に助かります」
「いえ協力できる限りのことは。少しでも内科のお役にたてれば、と思っていますので」

「ありがとうございます。正直、ナースの方も外科にお願いしたいんですけど…どうにもあちらの女の子たちは
煮え切らないといいますか…淡白なんですよねぇ。看護の仕事に対して」

そういうと婦長は大きなため息をついた。

「前にお願いしたときも嫌々といいますか…。もっと気持ちよく仕事を引き受けてくれる元気な子がいればと思いますよ」

「一人、いますよ。看護に一生懸命で体力だけはバカみたいに備わっている…まあ私の妻のことですが」
「あ、ああそうだわ。奥さん…琴子さんがいましたわね、外科には」


この婦長の口ぶりから、琴子の日頃の噂がこちらにもしっかり伝わっていることが伺える。
大蛇森先生の一件をはじめ、色々な騒ぎがあっては仕方がないことか。


「妻は嫌々と仕事をすることは絶対にありません。これは私が保証します」
「そうですね。考えたら今の内科の状況には琴子さんがうってつけですものね。わかりました。
私の方から外科の細井婦長にお願いして、琴子さんに内科の応援に来てもらうことにしましょう」


おれの提案を婦長は快諾してくれた。 これで琴子は暫く内科で働くことになる。
いずれ外科に戻る日はくるが、そのときはあの男はとっくに退院しているだろう。


これはどう見ても公私混同だ。たとえ今の内科に琴子が必要、という尤もな理由があったとしても。

”独占欲の塊”などと、他人(ひと)に揶揄されても不思議はない。


でもこれでいい。おれの見えないところで何かが起こる前に、起こってしまう前に。



余計な心配をするのは、神戸での1年間でもう十分だ―――。
藤夏
2010年01月31日(日) 15時43分33秒 公開
■この作品の著作権は藤夏さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
つい何日か前に「どこの裏側に飛ぶのか全くの白紙」といっておきながらこんなにあっさり更新してしまいました。
さらに思いっきりイライラな昼下がり、の続きのような展開になって本当、自分でもいい加減な性格と思います(笑)
そして今回、直樹のキャラが変わっているというか結構崩れちゃったんですけど、このままいくと
多分次の裏側もこんな直樹になりそうな予感がひしひしと(嫉妬街道爆走よろしく!みたいなw)します…。

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>chan BBさん
早速コメントをいただきありがとうございます。
大丈夫ですか、壊れてませんか(ほっ・・・)あ、うまく食いついた感はありますよねやっぱり。
どす黒い策略(←この言葉、次回のお話に少し使わせていただきたいなーと思います。勝手にすみません…)は誰にもバレずに!
と思いきや再会本編を読みかえしてたらモトちゃんがしっかり察しておりました。これ、作者なのにすっかりど忘れしてまして…(汗)
これから徐々に黒に染まっていく直樹の様子をうまく表現できるか…かなり不安ですが頑張ります^^)v

>ぴくもんさん
ありがとうございます。直樹そのものですか!そ、それは身に余るお言葉ありがとうございます>▽<
これからもうまーく嫉妬を回避できれば…って再会本編に思いっきりネタばれしてますけどねw
西垣先生については…ぴくもんさんのお部屋の拍手コメに書いたとおりです^^;)
藤夏 ■2010-02-01 12:57:09 122.103.107.194
藤夏さんこんばんは♪早速来てしまいました〜(≧▼≦)
もう、全っ然キャラ崩壊なんてしてないですよ!まさに直樹そのものじゃないですか!自分に嫉妬の感情があるのを知ってからは上手〜くそれを回避するよう動いている気がしますから、今回も内科の忙しさを利用して琴子を自分の元に寄せましたね(^^)v内科の婦長さんは騙せても、西垣先生は騙せない気がします(笑)きっと何かしら言ってくるでしょうね(;^_^A
ぴくもん ■2010-01-31 19:50:36 210.153.87.130
藤夏さん、こんにちは♪
ふふ( ̄m ̄*) 大丈夫ですよ。まだまだ直樹のキャラ、壊れてませんって!
ただ、うまく降ってきた話に食いついた感はありますが(笑)、それはさすがに天才ですから!!多分誰にもこの心の中のドス黒い策略(笑)はばれずにいけましたよね!
この自然な流れは、さすが藤夏さんのストーリー運びです(^_^)v
でも、周りからはわからないけど、直樹の心の中はかなり黒いものきてますね( ̄m ̄*)
そして、さりげなく自分の妻のいいところをアピールしてるあたり!!
そういう直樹大好きです♪もっともっと嫉妬街道爆走させてください〜♪
chan BB ■2010-01-31 17:05:47 211.124.255.90
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